星空の花壇 ~星花女子アンソロジー~

楠富 つかさ

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大食いガールズ

大食いガールズ(いい肉の日編) Side:みのり&雪乃 立成17年11月

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 毎月29日は肉の日である。これは特に説明の必要はないだろう。服あるいは福の日とかブックの日とか、いろいろ語呂合わせはあるけれど、王道はやはり肉。そして今日は肉の日の中でもいい肉の日である。冬にやってくるその肉の日は夏の8月、焼き肉の日と双璧をなす二大肉の日と言えよう。
 さて、今日も私法月みのりは食べ放題やメガ盛りのお店に、実家が営む月見屋食堂の常連であり、学校の先輩でもある白峰雪乃先輩とともにきていた。
 話は戻るがこの冬にやってくる肉の日は何を食べるのが王道か。それは鍋である。しゃぶしゃぶあるいはすき焼き。身体の芯から温まるそれらをいたく贅沢なことにどちらも楽しめるメニューがあるとすれば? それはもう行かずにはいられないだろう。目の前に置かれた鍋はいつの頃からか流行始めた太極図のような仕切りのあるそれ。片方には透き通った昆布つゆそしてもう片方には芳醇な香りを立てる割り下がなみなみと注がれている。

「では、ごゆるりと」

 出汁を注ぎ終えた店員さんが去ると、私は直ぐさま注文用のタブレットを手に取った。何も悩むことなく豚ロース6皿を頼み、間髪入れず牛ロースも6皿注文する。その様を見て、雪乃先輩が目力を強める。もはや何を言わずとも分かる。足りないのだ。この人を前にしては、しゃぶしゃぶを念頭に切られた肉は薄くてどうしようもないのだ。私だって足りないのだ。一度に6品しか注文できないのがもどかしい。時間は限られている。二時間はほかの食べ放題に比べればゆとりある時間設定だが、そうはいっても限界がある。一番最初に頼んだ肉たちが来ると、注文ラッシュもようやく一段落する。私はすぐさま豚肉を昆布つゆへ、雪乃先輩が牛肉をすき焼きに入れていく。

「火が通るまでは一瞬です。油断なく」

 行儀が悪いのは重々承知の上だが右手で肉をポン酢の入った器に移し、左手で注文の手をゆるめない。雪乃先輩とのアイコンタクトでライスや串揚げ、お寿司といったサイドメニューも追加。めまぐるしい箸捌きと、ひっきりなしの注文。店員さんの目に微かな恐怖が混じっていることを知ったのは、出汁が最初の半分にまで煮詰まった頃だった。

「お出汁、追加お願いします」

 出汁を追加してもらっている間にデザートを挟み、口の中をリセットすると再び怒濤の注文。一品料理や野菜を中心に追加していく。このお店はとくにネギが美味しいため、しゃぶしゃぶにもすき焼きにも欠かせない。器は店員さんが回収しなければとっくに積むことが困難な高さになっていただろう。

「……ほぉ」

 嵐のような二時間だった。どれほど食べたか全く覚えていない。途中まで数えていたが、ばかばかしくなってしまったのだ。にしても、末恐ろしいのは雪乃先輩が食べたご飯の量だ。軽く一升近くはご飯だけで食べているだろう。それにお寿司も加わるから……。その体型を維持するのにどれだけの運動量を保っているのだろうか。

「またいいお店あったら紹介してね」

 先輩の食べっぷりは何度見ていても飽きの来ない、それこそ美味しい食事と同じような扱いを自分でもしているのだった。
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