星空の花壇 ~星花女子アンソロジー~

楠富 つかさ

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アンソロジー

卒業(3) Side:世音&莉那 立成18年3月

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 これは余にとって叶うはずのない初恋が終わりを迎えた時の記憶。
 立成18年3月、高等部三年生の卒業式に余は参加していた。全校生徒が集うのだから当然ではあるが、余は風紀員として生徒会本部役員と共に誘導やら警備やら雑務に追われていた。片付けもそうだ。以前は生徒会役員だけで済ませられたらしいが、人手不足の波がここまできているらしい。

「ふむ、ようやく全て片付いたな」
「お疲れ、諸君」

 後片付けを終えた風紀委員が委員会室へ戻ると、そこには盛大に見送られたばかりの三年生しかも前風紀委員長――櫻井莉那先輩が革張りの椅子に腰掛け出迎えたのだ。余がマスターと仰ぎ慕ってきたユースティティア様はあろうことか余の手を取って委員会室を抜け出した。咄嗟のことに地をボロボロと露見させながら何かを口にしていたはずだけれど、何を口走ったかさっぱり覚えていない辺り、緊張がよく分かる。


「ここがいいだろう」

 桜吹雪が舞い、あたりに誰も人のいない空間はともすれば青春の甘酸っぱさが感じられるかもしれないが、マスターの漆黒のマントが余にとっては荘厳な空間にいると思わせた。しかしマスターはその黒の邪神たる所以と言えるマントを脱いでしまわれたのだ。

「マスター・ユースティティア、いったい何を?」
「世音は誰よりもわたしを慕ってくれた。短い時間だったけれど、君がサーヴァントになってくれたことをすごく嬉しく思う」
「それは……世音は先輩に憧れて、かっこいいって思って、だから先輩に近付きたくて……。嫌だった自分の苗字に誇りを持てるようになって、全部先輩が好きだから!」

 まだまだ未熟な”余”の思いがあふれ出てしまって、先輩を困らせてしまった。

「ごめんね。君の気持ちは分かってた。応えてあげられないのに。でも、そんな君にこそ託したいんだ」

 そういってマスターが余の肩に、ずっと身に着けていた――それこそ卒業式でも外さなかったマントを着けてくれた。何者にも染まらない漆黒のマントは、マスターの矜持を写す鏡のようで、ずっと憧れていた。それを自分が身に纏っていると思うと、嬉しさ以上になんだか重い責任がのしかかっているように思えた。

「ユースティティアは卒業なの。これからはしがらみに縛られて生きる人生、そんなことを言ったら君は失望する? マント、よく似合っているよ」
「マスターと契りを結んだこと、一生忘れません」
「じゃあ最後に……。マスター、黒の邪神ユースティティアの名において命ず。サーヴァント荒神世音との主従契約を解消し、汝に再びの自由を授ける! 貴女の正義を信じなさい」
「……はい! ありがとうございました!!」


 再び転機が訪れるのは、この卒業式から一ヶ月が経つか否かという頃だった。
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