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③-②アレクシアとヴィオラの関係☆

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「最っ低……」
 アレクシアである。
「こんな楽な仕事で金貨一枚だぞ? 矢が飛んでくる心配も無いのに何が不満なんだ?」
 ヴィオラは眠たそうに欠伸しつつ、箒で地面を掃いている。

「……」
 アレクシアは不機嫌さを隠す気が無いらしく、眉をしかめたまま周囲をぐるりと見回した。
「最っ低……」
 昨晩ヴィオラと夕食を共にしたのだが、疲労の為かアレクシアは部屋に戻るなりそのままベッドで眠ってしまい――翌朝、ヴィオラに起こされ連れて来られたのがここだった。

 大魔法院フェーンの中庭。
 一昨日、次席のヨランダと宮廷入りを賭けて魔法をぶつけ合った場所でもある。
「オレだって、お前にベッド占領されてソファーで寝たんだからな。最っ低の寝心地だったよ。なぁ『最っ低』って言い難くないか?」
「わたしを冒険者として指導するんじゃないの!? なんで掃除なんか引き受けてきたのよ!? 馬っ鹿じゃないの!?」
 牙でも生えそうな形相でアレクシアが叫んだ。

「第一、生徒のわたしが掃除なんかやらされてたら惨めったらないじゃない!」
「お前が寝ぼけてる間にギルドに行ったらイザベラが勧めてくれてな。丸一日掃除するだけでこの報酬だぞ……」
 ヴィオラは太陽を眩しそうに見上げた。
 午前の涼しげな風が二人の髪を僅かに揺らしている。耳を澄ましても無人の校舎は何も語りかけてはこない。
「勝利だ」
「ばーか」
 アレクシアはぷいっとそっぽを向くと、ヴィオラから距離を取りつつ、箒で清掃を始めた。

「山分けしたって小金貨四枚づつだぞ? それだけあれば一ヶ月分の食費になるんだから、多少の問題は我慢してしかるべきだろ」
 ヴィオラは、やはり眠たいのか波に揺られる海草のようにふらふらとしている。

「第一、こんなの冒険でも何でも無いじゃない。ここで何を学べっての……ていうか五枚づつでしょ」
「次の仕事の資金としてある程度は蓄えておくんだよ。そんなことも知らないでお前はここで何を学んだんだ?」
「あんたにとっては意外かも知れないけど、フェーンには冒険者育成の授業なんて無いの! 必要ないから」
 そう叫びつつ、彼女は指先を集めたごみへと向けた。
「まったく」
 唐突な、ぽうっという音と共にごみは炎に包まれ跡形もなく消え去った。

「いやだから、お前なんでそんなぽこぽこ魔法使うかな? 依存症ならカウンセラーに連れてってやるぞ」
「あんたこそ魔法使えるの? 凄い魔法使えるようには見えないんだけど――」
 アレクシアは何か思いついたのか、彼女の瞳が、にやりとした笑みを形作った。
「ねえ、なんかすごいことやってみせてよ。お爺の知り合いならすごい魔法使いなんでしょ?」
 挑発的な眼差しで下からヴィオラを覗き込んでくる。

「……いいだろう」
 ヴィオラは右手に緑色の輝きを灯すと、掌に赤い小石のような物体を出現させた。そして、縦に伸びては長さをぐんぐんと増していく。
 更に左手に白い輝きを灯し、右手の物体に何かの魔法を組み込んでいく。

(マジックアイテムを作ってるの?)
 創造魔法ジェネス生命魔法ソウミュを組み合わせて制作される道具や武器は、特別な効力を発揮するものが多く、それらは一般にはマジックアイテムと呼ばれている。
 アレクシアがそうこう思索しているうちに、そのアイテムが出来上がった。

「いつも持ってろよ」
 軽く投げ渡されたのは――杖である。赤い石のような材質で出来た魔法の武器。先端には緑色の水晶のようなものがついている。
「すごい! こんな短時間で創っちゃうなんて、びっくり!」
 余程驚いたのか、アレクシアは杖を掲げて大はしゃぎである。
「オレの凄さを知ったか?」
 うむうむと頷くヴィオラに、アレクシアはきらきらと輝く双眸を向けた。

「で、これどんな魔法が組み込まれてるの!? 治癒とか遠隔視だと嬉しいんだけど……もしかして透明化かしら?」
「硬い」
 ヴィオラは、まぶたを瞬かせるアレクシアにもう一度同じことを告げた。
「硬い」
 アレクシアの眼差しが急激に冷えていく。

「お前は接近戦に弱いからな。何かあったらとにかくそれで防御しろ。殴り合いじゃお前はそこらのチンピラ以下なんだから、ひたすら防御に回って機会を――」
「最っ低!!!!!!」
 ヴィオラは、杖を投げ捨てようとするアレクシアの腕を掴んだ。

「なによ! 魔法使いが鈍器持ってどうしろってのよ!? お肉でも柔らかくするの? わたしお料理なんてできないんだから!」
「とにかく持ってろ。不意に矢が飛んできたらどう防ぐ?」
「……」
 ヴィオラの眠たげだがどこか真剣な眼差しに、アレクシアは渋々納得したらしい。

「あとそれは武器じゃなく盾だと思え。相手がチンピラでもそれで殴りかかるなよ。それと、まな板の肉が襲いかかってきたら迷わず逃げろ」
「ねえ、この役立たずの重り、何に使うと思う?」
 アレクシアは――いつの間にか、クマのぬいぐるみを模した雷球を作り出していた。
 ぬいぐるみは呆れたように肩を竦めている。

「……前から思ってはいたがお前、恐ろしく器用だな」
「これね、杖に見えて盾なんだって。すごーい」
 アレクシアの一人芝居?はまだ続くらしい。

「あとね、日時計にも使えちゃうのよ」
 そう言いつつ地面に突き刺す。が、ぬいぐるみが蹴飛ばすと杖は地面を転がった。
「日時計は無理だったみたーい」
 ぬいぐるみは深いため息を吐くような仕草をすると、消滅した。
「……」
 アレクシアは杖を拾い無言で掃除を再開した。

(やれやれ)
 軽くため息を吐き、ヴィオラも箒でごみを集め始めた。が、ひゅんっという音が近づいてくるのと同時に、アレクシアを右手で思い切り抱き寄せた。
 彼女が寸前までいた位置をなにかが通り過ぎていく。
「どどどどどこ触ってんのよ!?」
 胸を鷲掴みにされていたらしいアレクシアが抗議の声をあげたが、ヴィオラは手を離さなかった。

(右か)
 箒を剣のように構え、新たに飛んできたものを払いのける。ぽとりと落ちたものは、恐ろしいほどの力で丸められたらしい雑巾だった。
「ククク……まぁ当然でしょうね」
 校舎側に植えられた樹の陰から、頬に大きな傷跡のある女がゆらりと姿を表した。深い傷跡と三角巾との違和感が警戒心を掻き立てる。
「……ケアリー?」
 彼女は樹よりも高く飛び上がると落下の勢いを乗せ、手に持っていたはたきをアレクシアへと振り下ろした。

「おいおい」
 ヴィオラはアレクシアを遠ざけつつ、ケアリーのはたきを箒で受け止める。
「教師長を呼び捨てにするとは、まったくなんという娘ですか!」
 ケアリーはそう叫びつつ着地すると、何故かヴィオラにはたきで連続攻撃を仕掛け始めた。
「確かにこいつは口の利き方がいまいちだが――教師にも問題があるんじゃないか?」
 教師長の鋭い突きをいなし、彼女の肩に蹴りを見舞う。

「当魔法院では礼儀作法まできっちりと教えています!」
 ヴィオラの足をくぐり抜けたケアリーは素早く跳び退いた。
「しかし魔法とは無関係の授業は、一度試験が終わってしまうと頭から抜けてしまう生徒が多いのも事実! 理事長も苦慮しておられます! 社会での人間最大の武器は礼儀だというのに!」
 どうやってしまっていたのか、ケアリーは懐から更にはたきを取り出し両手に構えて距離を詰めると、回転するような乱撃を繰り出し始めた。

「いきなり襲いかかってくる教師に礼儀をがたがた言われたくはないだろうって話なんだけどな」
 ヴィオラは後退しつつ、ケアリーの攻撃を箒で捌いていく。
「来期のカリキュラムでは、必ず改善してみせます! 休日を減らし、授業時間を増やしてでも!」
「鬼」
 アレクシアがぽつりと呟くのが聞こえた。 

 軽く飛び上がり、逆手に構えたはたきを牙のように振り下ろしてくるケアリー。
 彼女に対し、ヴィオラは箒を全力で振り上げた。
「やりやがる」
 ヴィオラの左肩にはたきがめり込むと同時に、ケアリーは地面に投げ出されていた。

「……あなたもなかなかやりますね。まぁ合格ということにしておきましょう」
 ケアリーは唇の血を拭うと立ち上がり、ヴィオラに右手を差し出した。
 握手に応じるように一瞬右手を差し出したが、すぐに左手でケアリーの右手首を掴み、掌を上に向けさせる。特大の画鋲が悪びれた様子もなく彼女の手に張り付いていた。

「手放させない友達か?」
 半眼のヴィオラに、教師長は微笑みを返してきた。
「わたしはケアリー。教師長を務めさせて頂いております」
「オレは冒険者のヴィオラだ。いま気づいたんだが、自己紹介ってのは殴り合った後じゃなくても出来るよな」
 ケアリーは、驚いたように口をぽっかりと開けているアレクシアを一瞥し、ヴィオラにだけ聞こえるような小声で呟いた。

「彼女をお願いします。それと、わがままを言い出したらごりっとした関節技がおすすめです」
「あんたの授業風景に興味が湧いたよ。まぁクリフォードによろしくな」
 ケアリーは、はたきを拾うとそそくさと校舎へと去っていった。

「大丈夫?」
 脅威が去ったからか、アレクシアが駆け寄ってきた。
「ケアリーと正面から打ち合うなんて凄いじゃない。あいつ近接格闘の専門家なのに、ちょっと見直したわ。掃除用具だったけど」
 ヴィオラはアレクシアの耳を軽く引っ張った。
「『教師長』だろ。忘れるなよ」
「いたた! 分かったから離してよ」

「ふぉーっふぉっふぉ」
 どこかで聞いた笑い声に、二人が振り向くと、
「お爺!」
 クリフォードがいつの間にかそこにいた。
「アレクシアよ、冒険者生活はどうじゃ? 新鮮じゃろう」
「……ヴィオラを送ったのがお爺だって、とっくにばれてるんだからね。なんで最初からそう言わなかったのよ? おかげで――」
 言いかけたアレクシアは、はっとしたように口を噤んだ。

「む?」
「余計な手間が掛かったってだけだよ」
「黙って!」
 アレクシアはヴィオラの口を慌てて手のひらで押さえた。

「よく分からぬが、自然な形で出会わせたかったんじゃよ。まぁ上手くやっておるようで安心じゃ。アレクシアよ、ヴィオラは優れた魔法使いであり、人格者でもある。学べることは多いじゃろう」
「お爺の人格者の定義って狂ってるんじゃないの?」
「耳いらないのか?」
「冗談! 冗談だから! もげちゃうぅ!」
「お主は少々口が過ぎるのぅ。我が校では礼儀作法も教えているはずだが、少し見直しが必要かもしれんのぉ……」
「カリキュラムの変更で片付くとは思えないけどな」
 アレクシアを解放したヴィオラは興味の欠片も無い様子で呟いた。

「まぁ良い。ヴィオラよ、アレクシアを頼むぞ」
「金の分は働く。それがオレの仕事だからな」
 彼女の返答に満足したらしいクリフォードは、背を向け立ち去りかけたが、思い出したように振り返った。
「それにしても、清掃に冒険者が来るとは聞いておったがまさかお主らとは思わなんだ。ヨランダと協力するんじゃぞ」
 そして去っていく――その背中をアレクシアが掴んだ。
 眉間に皺を寄せ、目を尖らせている。そしていつの間にか、炎のような赤い輝きが彼女の全身を覆っていた。

「まるで蝋燭じゃな」
「な・ん・で・あいつの名前が出てくるのよ!?」
「ほーっほっほっほ!」
 アレクシアの叫びを待っていたかのように、中庭に高笑いが響く。
 校舎から現れたのは、ヨランダである。さらに、彼女に続いて十人ほどの女生徒たちが後に続いて中庭に入ってきた。

 アレクシアたちとはまだ距離があるが、ヨランダの笑い声は喧しい程にはっきりと聞こえる。
「惨めなアレクシアさん! このわたくしが説明して差し上げますわ! ギルドに……」
「滅びなさい!」
 アレクシアが投げつけた杖は、回転しながら宙を飛び、見事にヨランダの額に命中し――彼女は高笑いのポーズのまま、ぐらりと揺らぐとそのまま仰向けに倒れた。

「素晴らしい弾道補正。あの杖、気に入ったわ」
「一応言っておくが、そういう魔法は掛かってないっていうかお前、なんてことすんだよ」
「ふ、ふふふ……ふ!」
 女生徒らに脇を抱えられて立ち上がったヨランダは、不気味な笑みを浮かべた。
「こんなもの投げつけて! わたくしがお亡くなりになったらどうするつもりだったんですの!?」
 左足を空に突き上げた豪快なモーションから、凄まじい勢いで杖を投げ返してきた。

「甘い!」
 アレクシアの放った赤い光弾が杖を撃ち落とす。
「ほーっほっほっほ!」
 笑い声は上から聞こえた。どうやら杖を投擲すると同時に空高く飛び上がっていたらしい。
 ヨランダは、両足で踏みつぶすような体勢をとった。

「ちっ!」
 魔法を放った直後のアレクシアは舌打ちをしつつ、掴んでいたクリフォードを降ってくるヨランダへと向けた。
 どちらも、およそ少女とは思えない筋力だったが。

(生命魔法ソウミュか? 才能の無駄遣いだな)
 ヴィオラはヨランダの派手な下着を眺めつつ、落下してくる彼女の右足を捕らえた。そのまま宙づりにする。
「ちょっと、あなた! 淑女になんてことなさいますの!?」
「淑女は人を踏みつぶそうとするのか?」
「あーっはっはっはっ! その品のない下着、ほんとあんたらしいわ」
「いきなり杖ぶん投げといて品を語るな」
 ヴィオラは哄笑を上げていたアレクシアの頬を思い切り引っ張った。

「とりあえずお前ら……」
 ヴィオラはヨランダを解放し、二人を横に並ばせた。そして、一発づつ頭に拳骨を振り下ろす。
「いたい!」
「いたいですわ!」
「息ぴったりだな」
 ヨランダを追って来たらしい女生徒たちが、揃って『おー!』という感心するような声を上げた。

 ヴィオラは、仲良く抗議の視線を送ってくる二人の前で、両腕を胸の前で組んだ。
「けんか如きで魔法を使うな。殺し合いになったらどうする?」
「死人なんか出てないわよ!」
「これからも出てたまるかって話をしてるんだろ? お前らはこの国でもっとも気高い『魔法使い』候補なんだぞ。アレクシアもヨランダとやらも、いざこざで自分たちの格を下げるような真似は慎め。それに、万が一加減間違って死んだり殺されたりしたら末代まで笑い者だぞ」
 ヨランダが、厳しい表情のヴィオラにびしりと指を突きつけた。

「黙って聞いていれば偉そうに! わたくしの頭頂骨を小突くなんて、あなた一体、どういうおつもりですの!?」
「おまえこそ、アレクシアの胸骨柄を踏み砕く気だったろ。さすがにそれはどうかと思うぞ」
「先に手を出したのはアレクシアさんでしてよ!」
「確かに、連れの先制攻撃魔が申し訳ないことをしたが、ちょいとやり過ぎだったとは思わないか?」
 ヨランダはヴィオラの言葉にまったく耳を貸すようすを見せなかった。

「挙げ句わたくしに恥をかかせるなんて! 一体あなたはどこの家の方ですの?」
「……ただのヴィオラだ。名乗るほどの家名はない」
 ヨランダは勝ち誇るように、一際大きな声で高笑いを始めた。余程耳障りなのか、ヨランダの背後に並んでいる女生徒たちは一様に耳を塞いでいる。

「でしょうね! サレイ家長女のわたくしをご存じないなんて、庶民か平民か一般人の方に決まってますわ。無知ゆえの怖いもの知らずほど愉快なものはありません」
「サレイっていえば死滅魔法ダイルの名家だが……その跡取り娘がこんなんなのか?」
 いまだアレクシアに捕まえられているクリフォードがひっそりと『深刻だのぉ』と呟いた。

「そこの庶民の方! それ以上わたくしを侮辱なさると不慮のお怪我に気をつけて頂くこと頂くことにいたたたたたたた!?」
 突きつけられたヨランダの人差し指を、ヴィオラがへし折らんばかりに、関節と逆の方向に捻っている。

「一応とはいえこちらの非礼はお詫びしたはずだが……どうやらお前もケアリーの悩みの種みたいだな。いっそ発芽前にほじくり返してやろうか?」
「ああああなたちょっと凶暴過ぎません!?」
 痛みの為か、それともヴィオラがそうさせているのか、ヨランダが地面に両膝を突いた。

「どうでもいいけど、あんたさっき何か言い掛けてなかった? 筆談じゃほほほ笑いも空しいでしょうし、喋れるうちに聞いてあげるわよ」
 ヨランダの顔の高さに合わせるようにしゃがんだアレクシアが、妙に機嫌良さげに促した。

「そ、そうですわ! ケアリー教師長からアレクシアさんが無期休学中で食べるに困って冒険者に身を窶したという話を伺って、これはチャンスとギルドの受付の方に手を回し、アレクシアさんを学園の有志による大掃除に駆り出し散々使いぱしりさせて主席の座を奪われた憂さを晴らすという巧妙な罠に掛けたのがわたくしであることをアレクシアさんに教えて差し上げなくては!」
「ねぇ、大きなゴミは焼却炉でいいわよね」
「そのゴミが人間の死体サイズじゃないならな」
「んー……」
 アレクシアは、最早掴まれている右手以外を地面に突き、突っ伏したような格好のヨランダの身長を測るような仕草をした。もっとも測ってなどいないのだろうが。

「人間としての器は凄く小さいけど、だめ?」
「性根的に湿ってるっぽいから堆肥向きだな」
「ヴィオラさん! この姿とても屈辱的なんですけど、いい加減お離しになったらいかがですの!? あと、あなたたちもじっと見つめるのお止めなさい!」
 いつの間にか女生徒たちがヨランダを取り囲み、物珍しそうに眺めている。

「ちなみにその仕事引き受けたのはヴィオラだからね。わたしが引っかかった訳じゃないから、そこはよろしく」
「そういえば、ヴィオラさんはなぜここにいらっしゃいますの? わたくしはアレクシアさんをここに寄越すようお願いしたはずですのに、何故こんな厄介なおまけが付いてきてしまったのか……」
「オレがこいつとパーティを組んでるからだろうな」
 ヴィオラはアレクシアの頭にぽんと手を置いたが、いまだ楽しげにヨランダを見下ろしている彼女は特に気にした様子もない。

「パーティですって?」
 ヨランダは強引に立ち上がった。ヴィオラが手を離さなければ指がへし折れていただろう。
 しかし、仮にそうだったとしても彼女は立ち上がったに違いない。そんな迫力ある面もちで、ヨランダは――ヴィオラからやや距離をとって――人差し指を突きつけた。
「ほーっほっほっほ!! あなた、ライラメルの飼い犬でしたのね! でなければアレクシアさんのような喋れば電撃、触れば爆破、揺れるお乳は恥知らずな方と組もうだなんて方がいらっしゃる訳が――」
 ゆらりと立ち上がったアレクシアが拳を振り上げるのを、ヴィオラは黙って見ていることにした。

「人数を考えたら中庭、大図書館、大実技棟で精一杯よね。別にノルマとか無いんでしょ?」
「善意にそんなものは設定せんよ」
 クリフォードは目を回し昏倒しているヨランダに手をかざし、何かの魔法をかけている。
「人数の割り当てだけど――」
 大実技棟は使用する魔法の系統に合わせて、魔法防御をそれぞれの階で個別に調整されており、魔法の種類同様四階建てである。
 アレクシアは女生徒たちを二人一組に分け、中庭と大実技棟の清掃に割り振った。

「で、わたしとヴィオラは大図書館ね。文句――じゃなくて、意見ある?」
 女生徒たちはぷるぷると頭を振って否定した。
(普通、あそこまで全力で殴れないわよ)
(ヨランダさんもあれだけど、アレクシアさんも大概よね)
「なにか?」
『いいえ』
「じゃあ、二時間したらここに集合ってことで」
 何か恐ろしいものから逃れるように、女生徒たちはそれぞれの持ち場へ散っていった。

「ヴィオラよ、少し時間を作れぬか? 良い茶葉が手に入っての」
 彼女は怪訝な顔をしたが。
「……オレはクリフォードと話があるからパスさせてもらう」
「大図書館をわたしひとりでやれっていうの!?」
「『いつも閑散としてるから、大して汚れてないだろうし適当に済ませようと思ったのに』などと考えておるのではないか?」
「え”!?」
 アレクシアがびくりと肩を震わせた。

「そこに余ってるのがいるだろ」
 そう言って、クリフォードが目覚めさせたらしいヨランダを指さす。
「こいつなんかいない方がましよ!」
 寝ぼけ眼でもアレクシアの言葉はしっかりと理解出来たのか、ヨランダも叫び返す。

「わたくしこそ一人で十分ですわ! 大図書館は先人の知識が綴られた書物が眠る神聖な場所ですのに、アレクシアさんのような知識と無縁の方が出入りされては彼らの眠りが妨げられてしまいます!」
「掃除して本が目覚めたらラッキーじゃない! 色々と直にお伺いしてやるわよ!」
「嫌みもお分かりにならないの!?」
「皮肉ってんのよ!」
「ふぉーっふぉっふぉっ」
 額を押し付け合いながら睨み合う二人を置いてヴィオラたちは去っていった。

「ちょっと!?」
「お前に必要なことだ。『お前ら』かな? 後でチェックするからしっかりな」
『最っ低……』
 同時にそう呟き――再び額を押しつけ合う。
「あの、掃除したいんですけど……」

 そんな二人に、中庭担当の生徒が困ったように声を掛けた。
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