【完結】転生したら王子だったんですけどこれって百合ですか?

美兎

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ep:10 破綻しているシナリオ

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どうしたって時間は止まらず進んでいく。

「ケビン・マルティネスの卒業をもって、新年度生徒会長をケイト・エディ・グリーファンに移籍する事を此処に宣言する!」

異議を称える声など無く、この場にいる生徒達の鳴り止まない拍手。
私はゲームの通り、15歳の三回生の時、ケビン前生徒会長より、その立場を受け継いだ。

────────────



「…、リリィ、リリィ?」
「…っ、ぁ、すみません…少しぼーっとしちゃって…」

生徒会長に移籍してから日々多忙を極める合間に作った休憩時間。場所はいつもの東屋、昼食時。
様子のおかしいリリィに声を掛けると、そう返ってきた。

最近のリリィはいつもこうだ。考え事が増え、今のようにぼーっとしてしまう時間が増えた。
本人は隠しているつもりなんだろうけれど、全然隠せてないし、なんなら心配になるくらいだ。
私は彼女が、作ってきてくれたサンドイッチが無くなった籠を閉じ、彼女の手に触れた。

「私には相談出来ないこと?…私じゃ力不足…?」
「ちが、ちがいます!…そんなことないんです、…、あの、」

彼女は口篭ったが、根気強く待っていると、少しずつではあるがぽつぽつと話をしてくれた。

どうやら、私のいない場所で例の令嬢が好き放題しているらしい。あの非常識娘…締めるぞ。笑顔を取り繕うのも疲れるんだからな。

さて、している事といえば主に。リリィへの嫌がらせ、…もあるけれど、一番面倒くさそうなのは、リリィが自分に嫌がらせをしていると吹聴しているという事だ。これは本当に面倒で、誰も見ていない場所だったりだとか、証言者のいない場所で行われていると言っている様だ。
勿論リリィはそんな事していない。けれどリリィをよく知らない人なら、少しくらい信じてしまうかもしれないと考える。

だってリリィは元々悪役令嬢になる筈の子だったから。

まあそれは私が回避したし、リリィがやっていないって言うのもリリィの友人が証言してくれるしね。
リリィの話によれば、やっぱり私の耳に入ってくる情報と同じ事だった。
彼女の目の前でわざと転んでは足を引っ掛け転ばせたと冤罪。ノートや教科書が破かれていたのもリリィがやったと決め付けて話を進めそれも冤罪。
兎に角、自分へ降り掛かった災いは全部リリィのせいと言われる始末。救いようがない。
根拠もなく、リリィが悪役令嬢だと信じての行動だろう。
事あるごとに、「リリーナ様はそんなに私がお嫌いなんですか!?」と騒ぐのだから始末に負えない。

つまり、言われのない罪を着せられ続けているリリィは疲弊し、日に日に体調不良を訴えたりもしているのだ。
怒りしか湧いてこないのでリリィじゃなく私の手が出そうです。我慢だ私。

というかリリィが危害を加えていないのに、何故リリィがやったと言えるのだろうか。ゲームと違ってリリィは彼女を叩いて躾じみた事はしていない。そこで何かおかしいと軌道修正が入ってもいい筈なのに…そんな頭をあの子は持ち合わせていないようだ。
去年はまだ大人しかったのに、何故か今年になってから虚言はエスカレートしていってる。
多分、本来私と出逢うのは私が生徒会長になってからだから、それまで待っていたのかもしれない。まあその前から虚言の気があったと聞くけれど。
頭はあまり良くないのに、狡猾な女だ。

「…大丈夫、リリィが何もしていないって誰もが知ってるから。あまり気にしないで、体調も良くない時は、無理そうなら休んでもいいんだからね?」
「それは嫌です!…だって、お弁当、持って来れませんし…、…ケイト様との時間が減っちゃいます…」

あーー可愛い!!
リリィの言葉に心の中は大歓喜だ。なんなら小躍りしている。
最近録音出来る魔道具があると聞き、早々に入手してしまった。今も制服のポケットの中にあるけれど全部リリィとの会話ばかりだ。
気持ち悪い?何を言いますかこれは証拠です。リリィがやってないと言った証拠、彼女に何をされたのかという証言、最低でも、私と会っている時間は彼女に危害を加えていないという証拠。それを録音してるだけなのです。ほら何も悪い事には使ってないでしょう?
あ、魔道具の件はリリィには秘密にしてあります。

「ねえリリィ、疑問なんだけど…彼女から名乗られはしたのかい?名を呼ぶ事を許可したとか…」
「…?…そう言えば、わたくしあの方の名前を存じておりませんわ。名前を呼ぶ許可も勿論出しておりません…名乗られていないのですから当然です」

はい、不敬罪、と。
魔道具は本当役に立ってくれる。本当は此処に他にも証人が居たらいいんだけど…。

そういえばこの間私にも絡んできたんだよね、彼女。
何かと思えば、リリィが別の男と親しげに話しているという話だった。念の為、と男の特徴を聞くと、藍色の髪をした男だと言っていた。全く…笑いを堪えるのに必死だったよ。
それ、エドワードだよと言えばよかったのだろうけど好き放題に言わせておいた。はしたないとか、リリーナ様は奔放な方なんですとか、これは名誉毀損!訴えられる!と私は上機嫌。
因みにエドワードと居た理由は、エドワードの婚約者でありリリィの友人である、シャーロット・ホワイト侯爵令嬢の誕生日プレゼントの相談を受けていただけである。リリィが楽しそうに話してくれるから覚えていた。ちょっとエドワードに嫉妬した事は内緒にしておこう。
魔道具は発動済み、彼女の音声は録音されているから物的証拠となり、訴えれば有利なのはこちらだろう。

隙を見ては私に接触しようとしてくるものだから、学園に居る時はクロンに護衛として付き添って貰うしかなくなった。勿論、生徒会副会長となったエドワードでも良かったのだけれど…、どうやら婚約者といい感じなのでそっちに専念してもらおうかと思ってね。
生徒会メンバーの婚約者はほぼリリィの友人だったお陰で、逆ハールートは回避出来た。
……と、なると、最後に残るは私。王子ルートか…。ゲームと違って自由に動ける分、接近するのが簡単になってしまった。護衛を付けたとはいえ気は抜けない。護衛すら突破しようとする彼女だからね。




「あれ、あれ、おかしいな…?」



それは完全に殺気だった。しかも覚えのある…あの日学食で感じたそれと同じ殺気。


「ケイトさまぁ、どーしてその女と一緒なんですか?」


にっこりと笑う顔の中にある狂気、殺気。
私は咄嗟にリリィを背に隠せば、私の肩を掴むリリィの手が震えている。本能的に危険だと体が察知したのだろう。



「ここは私とケイトさまの場所のはずでしょ?なのになんでリリーナ様がいるんです?」


怒気を含んだ彼女の声が、東屋の中で反響した様に感じた。
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