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8年ぶりの再会
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「お帰り。今日は定時上がりだったんだって?」
大きなスーパーの袋を二つもぶら下げ、彼がいた。
昨夜と同じように、玄関先で俺を待っていたのだ。
「誰から聞いた…って、あのバカ兄貴からですか」
情報源はアイツしかいない。
せっかく美味い昼食を食べ、仕事を早めに切り上げて、回復していた気持ちが再び暗くなる。
「僕は今日、午前中だけだったんだ。昨夜のお礼に夕飯を作りに来た。あんまりロクな食事、していないんだろう?」
彼はニコニコとスーパーの袋を上げて見せる。
「~~~っ!」
もう我慢の限界だった。
俺は玄関の鍵を開けると、そのまま素早く中へと入り、扉を閉めようとした。
―彼を外に残したまま。
だが、そう上手くはいかなかった。
ガンっ!
「げっ!」
彼は足を滑り込ませ、扉を閉めさせないようにしたのだ。
「ヒドイなぁ。せっかく豪華な食材、買ってきたのに」
「なら自分の家で料理して、自分で食べてください!」
扉を閉めようとする俺と、開けさせようとする彼。
眼に見えない火花が飛び散る。
しかしそこへ隣人が帰って来たことにより、状況は一変する。
「あっ、こんにちは」
彼が人の良さそうな笑みを浮かべ、頭を下げる。
「どうも」
俺も扉の隙間から、作り笑いを浮かべる。
しかしおかしなやり取りを見て、隣人は複雑な笑みを浮かべた。
…仕方ないので、ドアノブから手をパっと放した。
すると彼は笑みを浮かべたまま、部屋の中へと入って来た。
二連敗は精神的にキツイ…。
「さて、空耶くんは洋食好きだったよね? ハンバーググラタンとオニオンスープで良い?」
「…はい」
もう口答えする気力もなかった。
彼は持参したエプロンをして、とっとと料理をはじめてしまった。
「…俺、風呂に入ってきます」
「うん、どうぞ」
何か微妙に結婚生活みたいなのが嫌だ。
フラフラしながら風呂場に入る。
今朝はシャワーだけだったから、浴槽にお湯を入れてゆっくり浸かる。
全身が温まると、頭が動き出した。
…やっぱり引っ越そう。
一度住所がバレてしまったら、終わりだ。
今度はあのバカ兄貴にも内緒で、ここから遠くへ引っ越そう。
俺は固く決意をすると、風呂から上がった。
今朝と同じように、テーブルには料理が並んでいた。
プロの料理人が作ったと言っても過言じゃないほど、彼の料理は美味しい。
良い匂いのするハンバーググラタンとオニオンスープ、それにポテトサラダにワインか。
…大好物のはずなのに心が沈むのは、料理人のせいだろう。
「良いワインが手に入ったんだ。空耶くんと飲もうと思って」
「まだ飲むんですか?」
「今日は二人だし、二本しか持ってきていないよ」
しかし冷蔵庫には昨夜、彼が持ち込んだ酒の他にも、俺の酒もある。
別に酒好きというワケではない。
職業柄、取り引き先から貰うことが多いのだ。
兄は酒豪だが飲み過ぎる危険性がある為、俺の所に回ってくる。
なので良い酒が多く、冷蔵庫の他に棚にも並べてある。
まあ…黙っていればいいか。
彼が発見したところで、人の家の飲み物にわざわざ手を出そうとはしないだろう。
…多分。
「それじゃあ食べようか」
「…そうですね」
声なくため息を吐くと、俺はフォークを手に取った。
「いただきます」
「はい、召し上がれ」
食事中はお互い無言。
俺は無表情で食べるし、向かいにいる彼は笑みを浮かべたまま。
…彼の手料理を食べるのも、八年ぶりか。
まだ地元にいた頃は、よく作ってもらっていたっけ。
「どう? 美味しい」
「…ええ」
前と変わらず、俺の口に合っている。
「ワインは?」
「美味しいですよ。貰い物ですか?」
「ううん。ワインは好きだから、自分で選んで買ってきたんだ」
ワイン好きだったとは初耳。
…いや、この人は元々自分のことをあまり明かさなかったな。
ワインは芳醇な香りがして、喉をスッと通っていく。
後味も良いし、きっと高いワインなんだろう。
「空耶くん、お酒は何が好き?」
「俺はビールとかウイスキーです」
「そっか。ウイスキーは僕も飲むんだ。今度一緒に飲みに行こうか?」
がっしゃん、とフォークがグラタン皿に落下した。
手の力が一瞬、抜けたからだ。
大きなスーパーの袋を二つもぶら下げ、彼がいた。
昨夜と同じように、玄関先で俺を待っていたのだ。
「誰から聞いた…って、あのバカ兄貴からですか」
情報源はアイツしかいない。
せっかく美味い昼食を食べ、仕事を早めに切り上げて、回復していた気持ちが再び暗くなる。
「僕は今日、午前中だけだったんだ。昨夜のお礼に夕飯を作りに来た。あんまりロクな食事、していないんだろう?」
彼はニコニコとスーパーの袋を上げて見せる。
「~~~っ!」
もう我慢の限界だった。
俺は玄関の鍵を開けると、そのまま素早く中へと入り、扉を閉めようとした。
―彼を外に残したまま。
だが、そう上手くはいかなかった。
ガンっ!
「げっ!」
彼は足を滑り込ませ、扉を閉めさせないようにしたのだ。
「ヒドイなぁ。せっかく豪華な食材、買ってきたのに」
「なら自分の家で料理して、自分で食べてください!」
扉を閉めようとする俺と、開けさせようとする彼。
眼に見えない火花が飛び散る。
しかしそこへ隣人が帰って来たことにより、状況は一変する。
「あっ、こんにちは」
彼が人の良さそうな笑みを浮かべ、頭を下げる。
「どうも」
俺も扉の隙間から、作り笑いを浮かべる。
しかしおかしなやり取りを見て、隣人は複雑な笑みを浮かべた。
…仕方ないので、ドアノブから手をパっと放した。
すると彼は笑みを浮かべたまま、部屋の中へと入って来た。
二連敗は精神的にキツイ…。
「さて、空耶くんは洋食好きだったよね? ハンバーググラタンとオニオンスープで良い?」
「…はい」
もう口答えする気力もなかった。
彼は持参したエプロンをして、とっとと料理をはじめてしまった。
「…俺、風呂に入ってきます」
「うん、どうぞ」
何か微妙に結婚生活みたいなのが嫌だ。
フラフラしながら風呂場に入る。
今朝はシャワーだけだったから、浴槽にお湯を入れてゆっくり浸かる。
全身が温まると、頭が動き出した。
…やっぱり引っ越そう。
一度住所がバレてしまったら、終わりだ。
今度はあのバカ兄貴にも内緒で、ここから遠くへ引っ越そう。
俺は固く決意をすると、風呂から上がった。
今朝と同じように、テーブルには料理が並んでいた。
プロの料理人が作ったと言っても過言じゃないほど、彼の料理は美味しい。
良い匂いのするハンバーググラタンとオニオンスープ、それにポテトサラダにワインか。
…大好物のはずなのに心が沈むのは、料理人のせいだろう。
「良いワインが手に入ったんだ。空耶くんと飲もうと思って」
「まだ飲むんですか?」
「今日は二人だし、二本しか持ってきていないよ」
しかし冷蔵庫には昨夜、彼が持ち込んだ酒の他にも、俺の酒もある。
別に酒好きというワケではない。
職業柄、取り引き先から貰うことが多いのだ。
兄は酒豪だが飲み過ぎる危険性がある為、俺の所に回ってくる。
なので良い酒が多く、冷蔵庫の他に棚にも並べてある。
まあ…黙っていればいいか。
彼が発見したところで、人の家の飲み物にわざわざ手を出そうとはしないだろう。
…多分。
「それじゃあ食べようか」
「…そうですね」
声なくため息を吐くと、俺はフォークを手に取った。
「いただきます」
「はい、召し上がれ」
食事中はお互い無言。
俺は無表情で食べるし、向かいにいる彼は笑みを浮かべたまま。
…彼の手料理を食べるのも、八年ぶりか。
まだ地元にいた頃は、よく作ってもらっていたっけ。
「どう? 美味しい」
「…ええ」
前と変わらず、俺の口に合っている。
「ワインは?」
「美味しいですよ。貰い物ですか?」
「ううん。ワインは好きだから、自分で選んで買ってきたんだ」
ワイン好きだったとは初耳。
…いや、この人は元々自分のことをあまり明かさなかったな。
ワインは芳醇な香りがして、喉をスッと通っていく。
後味も良いし、きっと高いワインなんだろう。
「空耶くん、お酒は何が好き?」
「俺はビールとかウイスキーです」
「そっか。ウイスキーは僕も飲むんだ。今度一緒に飲みに行こうか?」
がっしゃん、とフォークがグラタン皿に落下した。
手の力が一瞬、抜けたからだ。
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