【R18+BL】空に月が輝く時

hosimure

文字の大きさ
7 / 18
8年ぶりの再会

7

しおりを挟む
「お帰り。今日は定時上がりだったんだって?」
 大きなスーパーの袋を二つもぶら下げ、彼がいた。
 昨夜と同じように、玄関先で俺を待っていたのだ。
「誰から聞いた…って、あのバカ兄貴からですか」
 情報源はアイツしかいない。
 せっかく美味い昼食を食べ、仕事を早めに切り上げて、回復していた気持ちが再び暗くなる。
「僕は今日、午前中だけだったんだ。昨夜のお礼に夕飯を作りに来た。あんまりロクな食事、していないんだろう?」
 彼はニコニコとスーパーの袋を上げて見せる。
「~~~っ!」
 もう我慢の限界だった。
 俺は玄関の鍵を開けると、そのまま素早く中へと入り、扉を閉めようとした。
 ―彼を外に残したまま。
 だが、そう上手くはいかなかった。

 ガンっ!

「げっ!」
 彼は足を滑り込ませ、扉を閉めさせないようにしたのだ。
「ヒドイなぁ。せっかく豪華な食材、買ってきたのに」
「なら自分の家で料理して、自分で食べてください!」
 扉を閉めようとする俺と、開けさせようとする彼。
 眼に見えない火花が飛び散る。
 しかしそこへ隣人が帰って来たことにより、状況は一変する。
「あっ、こんにちは」
 彼が人の良さそうな笑みを浮かべ、頭を下げる。
「どうも」
 俺も扉の隙間から、作り笑いを浮かべる。
 しかしおかしなやり取りを見て、隣人は複雑な笑みを浮かべた。
 …仕方ないので、ドアノブから手をパっと放した。
 すると彼は笑みを浮かべたまま、部屋の中へと入って来た。
 二連敗は精神的にキツイ…。
「さて、空耶くんは洋食好きだったよね? ハンバーググラタンとオニオンスープで良い?」
「…はい」
 もう口答えする気力もなかった。
 彼は持参したエプロンをして、とっとと料理をはじめてしまった。
「…俺、風呂に入ってきます」
「うん、どうぞ」
 何か微妙に結婚生活みたいなのが嫌だ。
 フラフラしながら風呂場に入る。
 今朝はシャワーだけだったから、浴槽にお湯を入れてゆっくり浸かる。
 全身が温まると、頭が動き出した。
 …やっぱり引っ越そう。
 一度住所がバレてしまったら、終わりだ。
 今度はあのバカ兄貴にも内緒で、ここから遠くへ引っ越そう。
 俺は固く決意をすると、風呂から上がった。
 今朝と同じように、テーブルには料理が並んでいた。
 プロの料理人が作ったと言っても過言じゃないほど、彼の料理は美味しい。
 良い匂いのするハンバーググラタンとオニオンスープ、それにポテトサラダにワインか。
 …大好物のはずなのに心が沈むのは、料理人のせいだろう。
「良いワインが手に入ったんだ。空耶くんと飲もうと思って」
「まだ飲むんですか?」
「今日は二人だし、二本しか持ってきていないよ」
 しかし冷蔵庫には昨夜、彼が持ち込んだ酒の他にも、俺の酒もある。
 別に酒好きというワケではない。
 職業柄、取り引き先から貰うことが多いのだ。
 兄は酒豪だが飲み過ぎる危険性がある為、俺の所に回ってくる。
 なので良い酒が多く、冷蔵庫の他に棚にも並べてある。
 まあ…黙っていればいいか。
 彼が発見したところで、人の家の飲み物にわざわざ手を出そうとはしないだろう。
 …多分。
「それじゃあ食べようか」
「…そうですね」
 声なくため息を吐くと、俺はフォークを手に取った。
「いただきます」
「はい、召し上がれ」
 食事中はお互い無言。
 俺は無表情で食べるし、向かいにいる彼は笑みを浮かべたまま。
 …彼の手料理を食べるのも、八年ぶりか。
 まだ地元にいた頃は、よく作ってもらっていたっけ。
「どう? 美味しい」
「…ええ」
 前と変わらず、俺の口に合っている。
「ワインは?」
「美味しいですよ。貰い物ですか?」
「ううん。ワインは好きだから、自分で選んで買ってきたんだ」
 ワイン好きだったとは初耳。
 …いや、この人は元々自分のことをあまり明かさなかったな。
 ワインは芳醇な香りがして、喉をスッと通っていく。
 後味も良いし、きっと高いワインなんだろう。
「空耶くん、お酒は何が好き?」
「俺はビールとかウイスキーです」
「そっか。ウイスキーは僕も飲むんだ。今度一緒に飲みに行こうか?」
 がっしゃん、とフォークがグラタン皿に落下した。
 手の力が一瞬、抜けたからだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

完璧な計画

しづ未
BL
双子の妹のお見合い相手が女にだらしないと噂だったので兄が代わりにお見合いをして破談させようとする話です。 本編+おまけ後日談の本→https://booth.pm/ja/items/6718689

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

宵にまぎれて兎は回る

宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…

【完結】それより俺は、もっとあなたとキスがしたい

佑々木(うさぎ)
BL
一ノ瀬(27)は、ビール会社である「YAMAGAMI」に勤めていた。 同僚との飲み会に出かけた夜、帰り道にバス停のベンチで寝ている美浜部長(32)を見つけてしまう。 いつも厳しく、高慢で鼻持ちならない美浜と距離を取っているため、一度は見捨てて帰ろうとしたのだが。さすがに寒空の下、見なかったことにして立ち去ることはできなかった。美浜を起こし、コーヒーでも飲ませて終わりにしようとした一ノ瀬に、美浜は思いも寄らないことを言い出して──。 サラリーマン同士のラブコメディです。 ◎BLの性的描写がありますので、苦手な方はご注意ください *   性的描写 *** 性行為の描写 大人だからこその焦れったい恋愛模様、是非ご覧ください。 年下敬語攻め、一人称「私」受けが好きな方にも、楽しんでいただけると幸いです。 表紙素材は abdulgalaxia様 よりお借りしています。

一夜限りで終わらない

ジャム
BL
ある会社員が会社の飲み会で酔っ払った帰りに行きずりでホテルに行ってしまった相手は温厚で優しい白熊獣人 でも、その正体は・・・

僕がそばにいる理由

腐男子ミルク
BL
佐藤裕貴はΩとして生まれた21歳の男性。αの夫と結婚し、表向きは穏やかな夫婦生活を送っているが、その実態は不完全なものだった。夫は裕貴を愛していると口にしながらも、家事や家庭の負担はすべて裕貴に押し付け、自分は何もしない。それでいて、裕貴が他の誰かと関わることには異常なほど敏感で束縛が激しい。性的な関係もないまま、裕貴は愛情とは何か、本当に満たされるとはどういうことかを見失いつつあった。 そんな中、裕貴の職場に新人看護師・宮野歩夢が配属される。歩夢は裕貴がΩであることを本能的に察しながらも、その事実を意に介さず、ただ一人の人間として接してくれるαだった。歩夢の純粋な優しさと、裕貴をありのまま受け入れる態度に触れた裕貴は、心の奥底にしまい込んでいた孤独と向き合わざるを得なくなる。歩夢と過ごす時間を重ねるうちに、彼の存在が裕貴にとって特別なものとなっていくのを感じていた。 しかし、裕貴は既婚者であり、夫との関係や社会的な立場に縛られている。愛情、義務、そしてΩとしての本能――複雑に絡み合う感情の中で、裕貴は自分にとって「真実の幸せ」とは何なのか、そしてその幸せを追い求める覚悟があるのかを問い始める。 束縛の中で見失っていた自分を取り戻し、裕貴が選び取る未来とは――。 愛と本能、自由と束縛が交錯するオメガバースの物語。

【完結】取り柄は顔が良い事だけです

pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。 そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。 そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて? ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ! BLです。 性的表現有り。 伊吹視点のお話になります。 題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。 表紙は伊吹です。

処理中です...