妹の願いで婚約者を譲ってあげたら、わずか三日で泣きついてきましたが…返品は不可です。

coco

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妹の願いで婚約者を譲ってあげたら、わずか三日で泣きついてきましたが…返品は不可です。

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「地味なお姉様の婚約者が、美形だなんてズルい!」

「…あなたには、立派な婚約者が居るじゃない。第一、彼は─」

「お姉様の婚約者の方が美形よ!お願い、私に彼を譲ってよ~!」

 妹は地団駄じだんだを踏み、泣き出した。

 こうなっては、もう手が付けられない…。

 これ以上我儘わがままな妹に付き合うのは面倒だし、見ているだけで鬱陶うっとうしい…私は、彼を譲ってあげる事にした─。

「じゃあ私は彼の元に行くわ、今日から一緒に住もうって言われてるの。」

「…あなたは飽き性だけど、ちょっとやそっとの事で彼を捨てては駄目よ?」

「分かってるわよ!って言うか、あれ程の美形に私が不満を持つ訳ないでしょう?」

 去って行く妹の背中を見つめ、私はやれやれと溜息をついた─。

※※※

「君のような可愛い子が、婚約者になってくれて良かった。あの姉では、今の俺にはちょっと不釣り合いかなと思ってたんだ。」

「可愛いだなんて…嬉しいわ、私を一生離さないでね!」

 私たちは熱い抱擁ほうようを交わした。

 そしてその翌日には、私と彼は初めてのキスを交わした。

 あれ…彼の唇って、こんなに分厚かった?
 それに、目は何だか小さく…逆に鼻は大きくなった?

 これは一体、どうなってるの?

 でも…人間の顔がわずか一日の間に急激に変化する訳ないし、勘違いよね。

 そしてその夜…私たちは初めてに及んだ。

 恥ずかしいから、部屋は真っ暗にして貰ったけど…今度は、じっくり彼の顔を見てするのもいいわね…。

 私は幸せの余韻よいんひたりながら、夢の世界へと旅立った─。

 三日目の朝、私はふと目を覚ました。

 何だか、重いものに押し潰されている様な…酷く寝苦しい感覚に襲われたからだ。

 私の胸の上には、ブヨブヨのふやけた丸太の様なものが乗っていた。

 ギョッとして飛び起きれば…私の隣には、豚の様に丸々と太った醜い男が、大いびきをかいて眠っていた。

「いやあぁ─!」

 私は叫び声を上げ、ベットから転がり落ちた。

「どうしたんだい…?あぁ、もしかして戻ってしまった?そうか、今日がその日か。」

「な…あ、あなた、誰…?」

「嫌だな、婚約者の顔を忘れちゃった?あ、そうか、この顔で合うのは初めてか。実は俺は、元々こういう顔でね。君のお姉さんに魔法で顔を美しくして貰ってたんだ。でも、その効力は一年で切れるらしくて…それが今日だったんだよ。でもこうして君が俺を受け入れてくれたから、もう美形にしてもらう必要はないよね。」

「そんな…!わ、私はあの顔が好きだっただけで、あなたとは無理です!」

 私は彼の家を飛び出し、無我夢中で家へと戻った─。

※※※

「酷いじゃないお姉様…彼の顔の秘密を知ってたなら、教えてよ!」

「言おうとしても、あなた泣きわめいていて、人の話を聞ける状態じゃなかったでしょう?」

「そ、それはそうだけど…。でも私、元があんな顔だと知ってたら譲って何て言わなかった!もうお姉様に返すわ…あんな男など返品よ!」

 やっぱり、そう来ると思った…。

「悪いけど、私はもう昨日の時点で婚約が決まったからお断りよ。お相手はある名家のご子息でね…私の魔力を高く買って下さってるの。」

「そんな!」

「それに私言ったわよね?ちょっとやそっとの事で彼を捨てては駄目だと。」

「それが何?捨てたらどうなるの?」

「あの魔法をかける時、彼に頼まれたんだけど…自身の本当の顔を見てそれを拒絶する女には、罰が当たる様にしてくれと言われたの。」

 私は妹に手鏡を渡した。

 妹はそれを手にし、恐る恐る自分の顔を映した。

「…キャアァ─!」

 可愛かった妹の顔は、彼の元の顔そっくりに変わっていた。

「彼はこうも言ったわ…罰を受け醜くなった女が反省し再び自分の元に戻って来たら、元の顔に戻れる様にしてくれ…そしてまた離れるような事があれば、再度醜い顔に戻る様にしてくれと。」

「って事は…この顔が嫌なら、この先ずっと彼のそばに居ろって事!?」

「そう言う事になるわね。」

 妹は、ガクリとその場に崩れ落ちた─。

※※※

 結局妹は、泣く泣く彼の元に戻って行った。
 
 今まで、散々可愛いとちやほやされてきたんだもの…そりゃあ、あの顔には耐えられないでしょうよ。

 我儘で鬱陶しい妹と、面倒な注文を付けて来る顔面偽装男…厄介やっかいな二人と、これでようやく縁が縁が切れたわ…。

 せっかく魔法で同じ顔面になったんだし…どうぞこの先仲良くやって頂戴ちょうだいね─。
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