人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず

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夫婦のはじまり

20歳と34歳 ②

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(だから来たくなかったんだ)

シュヤンは甥のアンバーを前にして改めてそう思う。
この男が昔からマリアのことを妙な目で見ていることは知っていた。

腰に手を回し、自分の物であるアピールをしていると大声でフェイが2人を呼んできた。
…もう酔ってる。あの状態だとどんな失礼なことやセクハラまがいのことをマリアに言うかわからない。
とりあえずアンバーをマリアから引き剥がすことを優先したシュヤンは、彼女に目立たなそうなところで待つように言ってフェイに会いに行く。

「お久しぶりですね」

「本当だよ!お前さん全然こっち来ないからよぉ」

「来る理由がありませんからねえ」

「でもあのナヨナヨ偏屈なお前が魔法薬研究の最前線に立って、あのやんちゃ坊主がこんな大きくなって並んでいると思うと…うぅっ泣けてくるな…立派になってみんな…」

(面っ倒くさいなあ)

「ははは、大分出来上がってますね兄上」

「小さい頃はイジめて悪かったなあ…うぇ」

「ちょっと!やめてくださいよ!」

フェイはシュヤンの肩に手を回した拍子に吐き気を催したのか口を押さえる。

「にしてもよぉ、」

フェイは酒臭い口をシュヤンに寄せた。シュヤンはいつもの笑顔を作ることもやめて眉をひそめる。

「お前の人狼の嫁さん、随分美人になったなあ」

「俺の方が年は近いし、マリアは俺の許嫁でも良かったのに。惜しかったです」

アンバーが冗談風に、しかし半分は本気でそう言った。少なくともシュヤンはそう捉えたのでキツく睨みをきかせる。

(そもそもナニ呼び捨てしてんだ)

「それはダメだ、人狼は跡継ぎにできん。シュヤンも子は産ませないほうがいいな。どれ、ひとつ妾でも紹介してやろ…グッ!」

そう言いかけたフェイの顔を掴む。
普段なら力で負けるが、酔っ払いなら恐れるに足らない。

「例え兄上だろうが妻への愚弄は許しませんよ」

ドスを効かせてそう言うとフェイは思わず押し黙る。こんな形相の弟を見たのは初めてだったのだ。

「失礼します」


「…俺なんか悪いこと言ったか?」

「はい、今のは父上が悪いですよ」


気分が悪い。
適当に挨拶だけして早く帰ろう、そう思ってマリアの所に向かうと何やら揉め事が起きているようだ。
評判の悪いシオバス姉妹に絡まれている。

「何故こんな穢らわしい生き物がタオニ家の嫁になってるんでしょう」

「…魔法契約なので」

「お可哀想なシュヤン様。
私がシュヤン様の子供を代わりに産んであげましょうか?こんなケモノ臭い小娘より殿方には私のような豊満な身体の方がいいでしょう」

シュヤンが庇いにいこうとするより素早く、その言葉に反応したマリアが耳と尻尾を出して吠え、グルルと唸りをあげた。 
完全ではないとは言え、初めて見る人狼の迫力に温室育ちの姉妹は怯える。

「貴女が夫に触れたら私は…!!」

マリアがその言葉を言いきる前に、シュヤンが肩に手を置く。

「マリアさん」

「しゅ、シュヤンさん…」

しおしおと耳をしまった。

「帰ろう」

嫌でも視線を集める中、シュヤンはマリアに腕を差し出しエスコートをして屋敷を後にした。
帰宅するなり、マリアは大粒の涙を流しながらしゃがみこむ。

「ご、ごめんなさい…。私、あんなところで狼化してしまって…妻なのに、シュヤンさんに恥を…」

そう謝るマリアをシュヤンは抱き締めてもふもふと頭を撫でた。

「謝るのはこっちだよ、失礼な連中ばかりでごめんね。嫌な思いをさせたね
…ねえマリアさん、」

最悪なパーティーだった。最悪の気分になった。
でもひとつだけ、シュヤンには少し嬉しいことがあった。
マリアの顎を掴んで上げ、じっと見つめる。

「ねえ…マリアさん、妬いたの?」

「えっ?」

「あの女に妬いたの?さっき何て言おうとしたのか教えて?"夫に触れたら"…なに?どうするの?」

「そ、それは…」

シュヤンはマリアを抱き上げると、ほくほくした様子で寝室まで運ぶ。
ぽふんとベッドに置くとちゅーっと長いキスをした。

「嬉しいなあ、可愛いなあ…あんなに怒らなくても僕にはマリアさんだけなのに。ねえ教えて?何て言おうとしたの?」

「いわない…」

マリアが顔を赤らめて目をそらす。

「あああ、今の仕草はだめだよ…可愛すぎるよ僕の奥さん。そんな態度とるなら言うまでいっぱい舐めたり噛みついたりしちゃうからね」 

いつもやってるくせに…と思う。

「どっちもいやです!」

「じゃあせめて僕の好きなところ20こ言ってよ」

器用に手早く服を脱がしてしまうとマリアのおへそをちゅうっと吸った。

「あん…そんなとこ舐めないで!きらい!」

「うそつき」

シュヤンはとても嬉しそうに笑っていた。
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