あたしは蝶になりたい

三鷹たつあき

文字の大きさ
69 / 87

わがままなあたしは男に望む

しおりを挟む
ちょっと話がずれたけど、学校に到着すると校門で果歩ちゃんと美羽ちゃんが出迎えていてくれた。事前にメールを送ってくれて、久し振りの登校でなおかつ身重の体では色々大変だろうからって、わざわざあたしの付き添いを申し出てくれたの。

このふたりは頼りになる。あたしは体が重くて歩くのもとてもゆっくりだったんだけど、両脇に果歩ちゃん、美羽ちゃんがついてくれて後ろには母親が寄り添ってくれた。教室に移動するとクラスメイト達がみんな優しく声を掛けてくれた。だけど、どうやってあたしに接していいのか分からなかったのではないだろうか。

「優江ちゃん元気?」

「大丈夫?」

としか尋ねてはこなかった。だけど、なにを話していいかも分からない中でも挨拶を交わしてくれるだけであたしはなんとも嬉しかった。
 
教室に大葉先生が入って来て、それぞれが自分の席に着き最後の朝礼が始まった。みんなにとっては中学校生活の最後の朝礼になるのだろうけど、あたしにとってはこれがおそらく最期の朝礼というものになるのだろう。お腹の子供の出産予定日まであと約2週間。あたしの寿命も同じような時期に尽きるのかもしれない。心の底から無事に子供を産んで一度くらいこの手に抱きたいと思っているが、それもどうなるのか正直分からない。不安でいっぱいになるところだったけど、今日という明るい日はあたしの心も穏やかにしてくれた。

朝礼の間、ずっと亮君の後姿を眺めていた。この人は例えばあたしが無事に子供を産んだ後に死んだとして、どんな想いをするのだろう。あたしが死んだことを嘆くのか、せめて子供だけでも無事に産まれてきたことを喜ぶのか。それとも意外と我儘で、どっちも生きていないとダメだと言うのか。

んん?そもそもそれって我儘なのか。当然のことじゃないのか?

人の命が長く続くことを望む気持ちをただの我儘だと思うあたしはなにかが欠落しているか崩壊しているのかもしれない。別にそれは嘆くことじゃない、あたしはそんな人間だと自覚しているから。あたしは今でも岳人の代わりに自分が死ねば良かったと思っている。

天に捧げる命がひとつ必要だったなら岳人ではなく、あたしの命で良かったのに。我儘に両方生きながらえたら、なんて思わない。あたしは死んでも良かったと本気で思っている。

だけど、亮君はあたしと違って優しいからあたしと子供とどちらが欠けても泣いてくれるんじゃないかな。ごめんね。そんな嫌な思いをさせて。だけど、どうか子供が無事に産まれたらあたしのことなんか忘れて一生懸命子育てをしてあげてね。あたしのことを思い出す暇があったら子供に愛情を注いであげて欲しいな。

そう言えば子供、子供いうのもなんか不自然だ。せめてあたしが生きているうちに名前だけでもつけてあげたいな。子供の名前をじっくり考えようとする間もなくあたしの頭にひとつの名前が浮かんだ。

ふうわ。

なんか柔らかくて優しそうで可愛らしい名前でしょ。深く考える必要も無く、あたしは生まれてくる子にはこの名前をつけてあげたいと思った。だけど、ちょっと待って。医者に診断されたわけではないけどあたしの直感では生まれてくる子は男の子のような気がしていたのだった。岳人の生まれ変わりとして。だとしたら「ふうわ」はまずい。いくらなんでも女の子の名前だろう。どうしよう。

でも、あたしの頭に「ふうわ」と言う名前が浮かんだからには生まれてくる子は女の子なのかもしれない。いや、きっとそうなのだ。一応、念の為今度医者に確認してもらおう。こんな風に思い込みが激しいあたしはやっぱり変人の類なのだろうね。亮君にも一応相談はするけど、生まれてくる子が女の子だったときは絶対「ふうわ」にしてもらおう。いや、絶対女の子だ。「ふうわ」という感じのする可愛らしい女の子だ。うちの両親とか亮君の両親が反対してもこれだけは絶対に譲りたくない。亮君の背中を見ながら心の中で「頼むよ。」って呟いた。
 
ところで、もしあたしが予定通りに死んだら亮君は他の女の人と結婚したりするのかなあ。正直嫌だ。

この人はあたしとふうわだけのものにしたい。だけど、あたしと亮君は別に結婚したわけでもないのだものね。ただ、ふたりの間に子供が生まれるというだけなんだものね。なんといってもあたし達はまだ結婚出来る年齢にもなっていないのだものね。そんなんだから、あたしが死んじゃえば、亮君がそういう年齢になったときに誰と結婚しようが勝手なのか。

死んだあたしに我儘を言わせてもらえるならば、出来れば独身でいて欲しいなあ。ああ。あたし言ってることが滅茶苦茶だ。やっぱりあたしだってかなりの我儘な生き物なのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...