メトロ・マニラ

フィリピン・マニラ。
高層コンドミニアムから見下ろす、夜の街。
雑踏、湿った空気、止まらないクラクション。
仕様もルールも計れない、生のにおいが、そこには満ちている。

そこに、ひとりの日本人、山岸がいる。
名古屋生まれ、名古屋育ち。
白く塗りつぶされた街。
逸脱を許さず、仕様どおりに生きることだけが美徳とされる、管理社会。

だが山岸は、そこにすら乗りきれなかった。
非正規。
正規コースから外れたまま、押し流されるようにマニラへ渡った。


彼女を探そうとしても、そこに待っていたのは、
仕様最適化された「WBS婚活文化」。
家事も、感情も、愛情も、仕様書どおりに分担される世界だった。

ディレクターは言った。
「あなたの階層は、代々、恋愛してこなかった」
「だから、仕様で恋をするしかない」

そんな世界に、山岸は居場所を見つけられなかった。

ターキーディナーをチンする夜。
マッチングアプリでスワイプされるだけの恋。
すべてが、最適化され、管理され、冷凍されていく世界。
それでも山岸は、信じていた。
仕様では還元できない、生のかすかな匂いを。

アンジェリカ、岡本。
サンミゲル・ジンの瓶。
そして、夜のモッシュピット。
名古屋で唯一見た祝祭――競艇選手・阿波勝哉の「大外一気」の記憶が、
彼の中で甦る。

勝つためでも、正解のためでもない。
ただ、生きた一瞬のために、世界へ飛び込む。
管理された仕様婚活社会を越えて、
マニラの雑踏で、においを嗅ぎ取り、生きる。

これは、仕様社会の外に咲く、
祝祭のかすかな火を守り抜く者たちの物語だ。
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