127 / 336
第一部 四季姫覚醒の巻
第十章 封印解除 2
しおりを挟む
二
山中の庵の前。
榎たち四人は既に揃い、神経を研ぎ澄ませていた。
脇には燕下家の二人――了海と了生、さらに白神石を大事に腕に抱いた、宵月夜の姿もあった。
「遅くなってすみません、皆さん」
昼前。一番最後に、奏がやってきた。
榎たちは総出で、奏を出迎えた。
奏の側には、生気なく項垂(うなだ)れる月麿がいた。榎たちとは、目を合わせようともしない。
さらに、月麿の隣には見馴れない少年が立っていた。
榎は、その幼い少年を、名古屋にいる小学二年生の弟――楓の姿と重ねた。きっと、同じくらいの歳だ。
なぜ、小さな子供が、奏たちと一緒にやってきたのだろう。
不思議に思っていると、少年がにっこり、笑いかけてきた。
「始めまして、四季姫のお姉ちゃんたち。僕はね、伝師 語(かたり)っていうんだ」
少年――語は、無邪気な笑顔を見せる。
伝師、というからには、一族と関係のある子供なのだろう。
「私たち兄弟の、末の弟ですの」
脇から、奏が補足した。
奏と綴の、弟。いわれてみると、どことなく笑顔の雰囲気に、綴たちの面影がある。
榎は一歩、前に出て、語と向き合った。
「初めまして、語くん。水無月榎です」
「お姉ちゃん、だよね? お兄ちゃんでは、ないんだよね?」
首を傾けて、語はストレートに疑問をぶつけてくる。
このやりとりは、久しぶりだった。やっぱり制服を着ていないと、榎は男に見えるらしい。
「よく、いわれるけどね……。いちおう、お姉ちゃんでよろしく」
正直な子供に説教を垂れるわけにもいかない。榎は口の端を引き攣らせながらも、ぎこちなく笑って大人の対応をした。
「長(おさ)には、先日の一件、すべて報告いたしました。長きに渡る、伝師の闇の歴史を終息させるべきだと、打診もさせていただきましたわ」
奏がゆっくりと、話の経緯を語った。奏は、榎たち四季姫のために、長の説得にあたってくれていた。
「長の、返答は……?」
緊張して、尋ねる。奏は目を伏せた。
「長も、強大すぎる力の扱いにおいては、改めるべきだと、お考えでした。かといって、現在の伝師の力では、鬼閻を制御しようにも力不足。四季姫の皆様の意志を尊重し、未来永劫の平和のため、鬼閻の始末をお願いしたい、とのお言葉でした」
奏から伝えられた長の言葉を受け、榎たちは軽く息を吐いた。
榎たちの決断に、伝師一族は不満を持ってはいないらしい。
「マニュアルどおりの台詞、って感じね」
「そんな簡単な、お言葉だけかい。人の命を奪おうとしといて、詫びもないんか」
椿と柊は、不満そうだ。あまりにも淡泊な指示に、口々に文句を述べる。
「千年前の案件なんて、とっくに時効だよ。法律もろくに定まっていなかった時代の問題だもの。弁護の余地もないし、証拠もない。法廷で争ったって、お姉ちゃんたちの敗訴だよ」
語が笑って対応した。小学生とは思えない言葉の選び方だ。榎は唖然とする。
柊は「知るかい」と、子供相手でもお構いなしに、睨みを効かせた。
「気持ちの問題、の話をしとるんや。機械みたいな餓鬼やな。こんな訳の分からん子供を代理に寄越(よこ)してくる時点で、誠意も何にも感じへんわ」
「本当なら、長がこの場に来て、立ち会うべきなんだけれどね。長はとても忙しくて、外に出られないんだ。だから代わりに、僕がお姉ちゃんたちの封印解除の見届け人になるよ」
柊の吐く毒にも臆さず、語は楽しげに話を続けた。
「君が? 誰か他に、大人はいないの?」
驚いて尋ねるが、語は堂々として、余裕のある表情を崩さなかった。
「たかが基礎的な一般教養を身につけて、成人しただけの人間なんて、役に立たないよ。長に、ありのままを正確に伝える役目なんて、誰にも果たせないんだから」
澄ました表情で、語は自身の目尻に指を当てた。
「僕のお目めはね、長と繋がっているんだ。だから、僕が見たものは全て、長の目にも届くんだよ」
「人間カメラみたいなもんかいな? そんなもん、機械で代用できそうやけどな」
「無理ですの。妖怪や、皆さんの陰陽師の力は、瞬間的に磁場を狂わせる作用があるのです。詳しくは解明できていませんが、変身した皆さんの側では、精密機械は使い物になりません」
奏の説明を聞き、柊は微妙そうな顔をしながらも、納得していた。
「語くんは凄いんだね。あたしにも、君くらいの歳の弟がいるけれど、君ほどしっかりしていないよ」
「当たり前だよ。僕は、伝師の家で最高の英才教育を受けているんだから。同じ歳で、僕より優れた子供なんて、いたら大変だよ」
榎の精一杯の賛辞を一蹴して、語は笑った。
「じゃあ、僕は側で大人しく見ているから。せいぜい、悪鬼に食べられないように頑張ってね、お姉ちゃんたち」
語は榎たちに手を振り、庵の側の石に腰掛けた。奏は申し訳なさそうに、榎たちに軽く会釈した。
長からの命令を受けてやって来た以上、弟といえども、語は奏よりも、何らかの強い権力を持っているのだろう。礼儀がなっていないとわかっていても、強く発言できない様子だった。
「腹の立つ餓鬼やわ。うちらでは悪鬼に勝たれへんと、決め付けとる目や」
語の立場なんてお構いなしに、柊は舌を打って悪態をつく。
「子供っちゅうのは、とかく夢見がちどすし、物事が何でも思い通りになると、信じて疑いまへん。思いっきり、期待を裏切ってやればええだけの話どす」
楸も柊の意見に賛同しつつ、語を貶して、その場の空気を収めていた。
「尚、封印解除の儀式に関して、式の進行は最も経験に長けた、陰陽月麿に一任します。陰陽月麿は、封印解除の儀式の完遂を条件に、千年前より命じし任を解き、自由になるものとします。皆さん、封印を解くまでの所作は、月麿の指示に従ってください」
奏が注意を促す。榎たちの視線が、広場の隅で小さくなっていた月麿に注がれた。
月麿は広場の中央に歩いてきて、手頃な枝を拾い、地面に何かを描きはじめた。
一筆書きで描く、星。五芒星、というやつだ。さらに、その星を円で囲い、複雑な梵字を周囲に描きはじめた。
「……なぜ、逃げなんだ。なぜ、拒まなかった。お主たちは、己の意思で、四季姫の使命を放棄できたはずでおじゃる」
陣を描きながら、榎の側を通り過ぎる際、月麿は口を開いた。
榎たちの決定に、不満を持っていた。
だが、榎は臆さない。悪びれもしない。
「封印を解いて、悪鬼へ立ち向かう道も、あたしたちの意思で選んだ道だ。麿にとっても、望んでいた結果じゃないのか?」
「今更、足掻いても無駄でおじゃる。麿は一度、失敗したのじゃ。弁明の余地などない。些細な失態であろうとも、紬姫が、かような麿を快く許してくれるとは思えぬ」
月麿は今もまだ、紬姫の命令に縛られていた。
本当は、わかっているはずなのに。今や紬姫は、この世のどこにもいない。
今更、命令を守れなかったからといって、責めるものなど、誰もいないのに。
月麿は自ら、呪縛の檻の中に閉じこもって、過去の亡霊に取り憑かれていた。
「麿は、紬姫の言いつけを破っていない。あたしたちは紬姫の望みどおり、白神石の封印を解くんだ。その結果、あたしたちがどうなったとしても、紬姫の意にそぐわなかったとしても、麿のせいにはならないよ」
屁理屈でも何でもいいから、月麿の行動を正当化してあげたかった。
榎の返答に、月麿は怒りを見せた。
「麿を馬鹿にしておるのか! もう、麿も諦めがついておった。お前たちの命と引き換えに使命を果たしたところで、後悔しか残らぬと、納得したからの。せめて、お前たちの命を救えただけでも由としようと、納得しかけておったのに。なぜまた、危険な手段に……」
月麿は、榎が思っているほど、伝師の使命に縛られてはいないのかもしれない。憎まれ口を叩きながらも、榎たちの身を案じてくれていた。
榎には、月麿の態度が嬉しかった。だから、榎たちの想いも、分かってもらいたかった。
「別に、麿を馬鹿になんかしていなし、死ぬつもりもない。全部、万全の状態で解決するって、みんなで決めたんだ」
榎たちの決意。しっかりと、月麿に伝えた。
「お主らは、本当に目茶苦茶じゃ。もし、悪鬼が倒せなかった時にどうするか、何も考えておらんのか!?」
月麿は手を止めて、榎の顔を凝視する。その表情は、悲痛に歪んでいた。
「悪い考えに縛られていたら、成功するものも失敗するよ。何度も言っているだろう? もう少し、四季姫のあたしたちを、信じてよ」
笑いかけると、月麿は泣きそうな顔を逸らした。
両手で印を結び、呪文を唱えはじめる。地面に描いた五芒星が光り輝きはじめた。円陣の中が光に包まれて、大きな柱となって天まで伸びた。
「……では、今より、封印解除の儀を執り行う。封印解除後、この陣の中は封印石内の異空間と繋がり、非常に不安定な場所となる。四季姫の制御なく、何人たりとも、足を踏み入れてはならぬぞ。万が一、入り込んで消滅しても、麿は責任を取らぬ!」
準備は整った。月麿の言葉を合図に、榎たちは気合いを入れる。
「準備はよいな、四季姫。変身して、円陣の光を囲め。中心に向かい合い、精神を集中させよ」
月麿の指示に、榎たちは大きく頷いた。
「この場が、最大の気張りどころどすな」
「おっしゃあ! 気合入れていくでぇ!」
「やっと、会えるのね。朝月夜さま……。待っててね、もう少しだから」
「決着をつけるぞ。絶対に勝つ!」
声を張り上げ、榎は百合の髪飾りを、頭上に翳(かざ)した。
山中の庵の前。
榎たち四人は既に揃い、神経を研ぎ澄ませていた。
脇には燕下家の二人――了海と了生、さらに白神石を大事に腕に抱いた、宵月夜の姿もあった。
「遅くなってすみません、皆さん」
昼前。一番最後に、奏がやってきた。
榎たちは総出で、奏を出迎えた。
奏の側には、生気なく項垂(うなだ)れる月麿がいた。榎たちとは、目を合わせようともしない。
さらに、月麿の隣には見馴れない少年が立っていた。
榎は、その幼い少年を、名古屋にいる小学二年生の弟――楓の姿と重ねた。きっと、同じくらいの歳だ。
なぜ、小さな子供が、奏たちと一緒にやってきたのだろう。
不思議に思っていると、少年がにっこり、笑いかけてきた。
「始めまして、四季姫のお姉ちゃんたち。僕はね、伝師 語(かたり)っていうんだ」
少年――語は、無邪気な笑顔を見せる。
伝師、というからには、一族と関係のある子供なのだろう。
「私たち兄弟の、末の弟ですの」
脇から、奏が補足した。
奏と綴の、弟。いわれてみると、どことなく笑顔の雰囲気に、綴たちの面影がある。
榎は一歩、前に出て、語と向き合った。
「初めまして、語くん。水無月榎です」
「お姉ちゃん、だよね? お兄ちゃんでは、ないんだよね?」
首を傾けて、語はストレートに疑問をぶつけてくる。
このやりとりは、久しぶりだった。やっぱり制服を着ていないと、榎は男に見えるらしい。
「よく、いわれるけどね……。いちおう、お姉ちゃんでよろしく」
正直な子供に説教を垂れるわけにもいかない。榎は口の端を引き攣らせながらも、ぎこちなく笑って大人の対応をした。
「長(おさ)には、先日の一件、すべて報告いたしました。長きに渡る、伝師の闇の歴史を終息させるべきだと、打診もさせていただきましたわ」
奏がゆっくりと、話の経緯を語った。奏は、榎たち四季姫のために、長の説得にあたってくれていた。
「長の、返答は……?」
緊張して、尋ねる。奏は目を伏せた。
「長も、強大すぎる力の扱いにおいては、改めるべきだと、お考えでした。かといって、現在の伝師の力では、鬼閻を制御しようにも力不足。四季姫の皆様の意志を尊重し、未来永劫の平和のため、鬼閻の始末をお願いしたい、とのお言葉でした」
奏から伝えられた長の言葉を受け、榎たちは軽く息を吐いた。
榎たちの決断に、伝師一族は不満を持ってはいないらしい。
「マニュアルどおりの台詞、って感じね」
「そんな簡単な、お言葉だけかい。人の命を奪おうとしといて、詫びもないんか」
椿と柊は、不満そうだ。あまりにも淡泊な指示に、口々に文句を述べる。
「千年前の案件なんて、とっくに時効だよ。法律もろくに定まっていなかった時代の問題だもの。弁護の余地もないし、証拠もない。法廷で争ったって、お姉ちゃんたちの敗訴だよ」
語が笑って対応した。小学生とは思えない言葉の選び方だ。榎は唖然とする。
柊は「知るかい」と、子供相手でもお構いなしに、睨みを効かせた。
「気持ちの問題、の話をしとるんや。機械みたいな餓鬼やな。こんな訳の分からん子供を代理に寄越(よこ)してくる時点で、誠意も何にも感じへんわ」
「本当なら、長がこの場に来て、立ち会うべきなんだけれどね。長はとても忙しくて、外に出られないんだ。だから代わりに、僕がお姉ちゃんたちの封印解除の見届け人になるよ」
柊の吐く毒にも臆さず、語は楽しげに話を続けた。
「君が? 誰か他に、大人はいないの?」
驚いて尋ねるが、語は堂々として、余裕のある表情を崩さなかった。
「たかが基礎的な一般教養を身につけて、成人しただけの人間なんて、役に立たないよ。長に、ありのままを正確に伝える役目なんて、誰にも果たせないんだから」
澄ました表情で、語は自身の目尻に指を当てた。
「僕のお目めはね、長と繋がっているんだ。だから、僕が見たものは全て、長の目にも届くんだよ」
「人間カメラみたいなもんかいな? そんなもん、機械で代用できそうやけどな」
「無理ですの。妖怪や、皆さんの陰陽師の力は、瞬間的に磁場を狂わせる作用があるのです。詳しくは解明できていませんが、変身した皆さんの側では、精密機械は使い物になりません」
奏の説明を聞き、柊は微妙そうな顔をしながらも、納得していた。
「語くんは凄いんだね。あたしにも、君くらいの歳の弟がいるけれど、君ほどしっかりしていないよ」
「当たり前だよ。僕は、伝師の家で最高の英才教育を受けているんだから。同じ歳で、僕より優れた子供なんて、いたら大変だよ」
榎の精一杯の賛辞を一蹴して、語は笑った。
「じゃあ、僕は側で大人しく見ているから。せいぜい、悪鬼に食べられないように頑張ってね、お姉ちゃんたち」
語は榎たちに手を振り、庵の側の石に腰掛けた。奏は申し訳なさそうに、榎たちに軽く会釈した。
長からの命令を受けてやって来た以上、弟といえども、語は奏よりも、何らかの強い権力を持っているのだろう。礼儀がなっていないとわかっていても、強く発言できない様子だった。
「腹の立つ餓鬼やわ。うちらでは悪鬼に勝たれへんと、決め付けとる目や」
語の立場なんてお構いなしに、柊は舌を打って悪態をつく。
「子供っちゅうのは、とかく夢見がちどすし、物事が何でも思い通りになると、信じて疑いまへん。思いっきり、期待を裏切ってやればええだけの話どす」
楸も柊の意見に賛同しつつ、語を貶して、その場の空気を収めていた。
「尚、封印解除の儀式に関して、式の進行は最も経験に長けた、陰陽月麿に一任します。陰陽月麿は、封印解除の儀式の完遂を条件に、千年前より命じし任を解き、自由になるものとします。皆さん、封印を解くまでの所作は、月麿の指示に従ってください」
奏が注意を促す。榎たちの視線が、広場の隅で小さくなっていた月麿に注がれた。
月麿は広場の中央に歩いてきて、手頃な枝を拾い、地面に何かを描きはじめた。
一筆書きで描く、星。五芒星、というやつだ。さらに、その星を円で囲い、複雑な梵字を周囲に描きはじめた。
「……なぜ、逃げなんだ。なぜ、拒まなかった。お主たちは、己の意思で、四季姫の使命を放棄できたはずでおじゃる」
陣を描きながら、榎の側を通り過ぎる際、月麿は口を開いた。
榎たちの決定に、不満を持っていた。
だが、榎は臆さない。悪びれもしない。
「封印を解いて、悪鬼へ立ち向かう道も、あたしたちの意思で選んだ道だ。麿にとっても、望んでいた結果じゃないのか?」
「今更、足掻いても無駄でおじゃる。麿は一度、失敗したのじゃ。弁明の余地などない。些細な失態であろうとも、紬姫が、かような麿を快く許してくれるとは思えぬ」
月麿は今もまだ、紬姫の命令に縛られていた。
本当は、わかっているはずなのに。今や紬姫は、この世のどこにもいない。
今更、命令を守れなかったからといって、責めるものなど、誰もいないのに。
月麿は自ら、呪縛の檻の中に閉じこもって、過去の亡霊に取り憑かれていた。
「麿は、紬姫の言いつけを破っていない。あたしたちは紬姫の望みどおり、白神石の封印を解くんだ。その結果、あたしたちがどうなったとしても、紬姫の意にそぐわなかったとしても、麿のせいにはならないよ」
屁理屈でも何でもいいから、月麿の行動を正当化してあげたかった。
榎の返答に、月麿は怒りを見せた。
「麿を馬鹿にしておるのか! もう、麿も諦めがついておった。お前たちの命と引き換えに使命を果たしたところで、後悔しか残らぬと、納得したからの。せめて、お前たちの命を救えただけでも由としようと、納得しかけておったのに。なぜまた、危険な手段に……」
月麿は、榎が思っているほど、伝師の使命に縛られてはいないのかもしれない。憎まれ口を叩きながらも、榎たちの身を案じてくれていた。
榎には、月麿の態度が嬉しかった。だから、榎たちの想いも、分かってもらいたかった。
「別に、麿を馬鹿になんかしていなし、死ぬつもりもない。全部、万全の状態で解決するって、みんなで決めたんだ」
榎たちの決意。しっかりと、月麿に伝えた。
「お主らは、本当に目茶苦茶じゃ。もし、悪鬼が倒せなかった時にどうするか、何も考えておらんのか!?」
月麿は手を止めて、榎の顔を凝視する。その表情は、悲痛に歪んでいた。
「悪い考えに縛られていたら、成功するものも失敗するよ。何度も言っているだろう? もう少し、四季姫のあたしたちを、信じてよ」
笑いかけると、月麿は泣きそうな顔を逸らした。
両手で印を結び、呪文を唱えはじめる。地面に描いた五芒星が光り輝きはじめた。円陣の中が光に包まれて、大きな柱となって天まで伸びた。
「……では、今より、封印解除の儀を執り行う。封印解除後、この陣の中は封印石内の異空間と繋がり、非常に不安定な場所となる。四季姫の制御なく、何人たりとも、足を踏み入れてはならぬぞ。万が一、入り込んで消滅しても、麿は責任を取らぬ!」
準備は整った。月麿の言葉を合図に、榎たちは気合いを入れる。
「準備はよいな、四季姫。変身して、円陣の光を囲め。中心に向かい合い、精神を集中させよ」
月麿の指示に、榎たちは大きく頷いた。
「この場が、最大の気張りどころどすな」
「おっしゃあ! 気合入れていくでぇ!」
「やっと、会えるのね。朝月夜さま……。待っててね、もう少しだから」
「決着をつけるぞ。絶対に勝つ!」
声を張り上げ、榎は百合の髪飾りを、頭上に翳(かざ)した。
0
あなたにおすすめの小説
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写と他もすべて架空です。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。
源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。
長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。
そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。
明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。
〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる