38 / 51
三章 個人探求者
第27話 奪還
しおりを挟む
女都羅さんはお腹のあたりで、右手を上に左手を下にして向かい合わせると、そこからいくつもの光線を放った。
純粋な魔力でできたその光線は、次々とほむらちゃんや聖名夜ちゃんの幻影を貫いていく。
どれが本物か分からないから手当たり次第ってことね。
貫かれた幻影はシャボン玉が割れるようにして消えて、光線もそういう設定なのか減衰してなくなるから、壁にぶつかることはなかった。
背後にいるものでさえ、光線はカーブしていくから、実質的に全方位攻撃。
このままいけば幻影が全て消えていきそうだけど、新たに生まれていくから二十体は維持されてる。
それでも女都羅さんは落ち着いた様子で、光線を放ち続けた。
手当たり次第作戦は継続みたい。
「──!」
気配を感じる女都羅さん。
見上げると真っ赤な炎が降ってきた。
「むん!」
女都羅さんは両手の構えを解いて、左手を真上に上げるのと同時に二つの漢字を投げた。
一つは、壁。
頭上に三メートル四方の厚い鉄板みたいなものが表れて、女都羅さんは降ってくる炎を防いだ。
もう一つは、縛。
そこに放つ者がいて捕らえようとしたものだろうけど、誰もいなかったから発動しないで焼き尽くされた。
直撃を防いだ壁だけど、滝のような炎はその上を流れていく。
「!」
バックステップでその場から離れる女都羅さん。
炎の包囲から逃れたけど、そこへ、ほむらちゃんや聖名夜ちゃんの幻影たちが襲いかかった。
「でええい!」
女都羅さんは右手の手刀を魔力で延長して一回転。
近づく幻影を一掃し、正面に戻った瞬間──。
突き刺す勢いで飛んでいった聖名夜ちゃんのステッキが、女都羅さんのお腹に迫った。
「!」
触れる直前、直径十五センチくらいの丸いバリアみたいなもので防ぐ女都羅さん。
そのバリアに刺さったかんじで、ステッキは空中で止まった。
だけど今度は、目の前の上下に姿を消していた二人が現れた。
上にいる聖名夜ちゃんは魔法で女都羅さんの顔に熱湯を浴びせると、下にいるほむらちゃんはバリアのない下腹部に左掌底を叩き込んだ。
「つっ……」
さすがに女都羅さんも顔を背けたし、ほむらちゃんの掌底もただの掌底じゃない。
聖名夜ちゃんのカードがついた掌底だ。
だから動作したのはほむらちゃんでも、作用する魔法は聖名夜ちゃんのもの。
それはすぐに効果を発揮して、女都羅さんの体内を駆け巡り、目的のものを探し出して体外へ誘導。
その背中から二個の球体が飛び出して、五本の光髪をすり抜けた。
聖名夜ちゃんは女都羅さんを越えて、空中にある球体を両手でキャッチ。
くるっと回って、着地しないまま飛んで離れた。
ほむらちゃんも素早く横に跳んで離れ、幻影に紛れていったわね。
ステッキは、あばよ、のセリフが聞こえてきそうな感じで回転しながら飛んでいった。
女都羅さんが魔力を解いた右手で顔を拭い終わる頃には、幻影たちに囲まれる状態に戻った。
「ぬう……」
目に怒りをにじませる女都羅さん。
会話では、聖名夜ちゃんが直接魔法を使うように言ってたけど、戦いには流れがあるし時間をかけられない。
だから聖名夜ちゃんは、グータッチのときに文字が書かれたカードを渡したんだ。
ほむらちゃんが接近できたときのために。
カードといってもこれは柔らかくて透明だし、ほむらちゃんも違和感なく受けとったから、鉄摩さんにも怪しまれなった。
あとは見える幻影たちを出して二人は姿を隠し、ここぞいう時にたたみかけて球体を取り返したってわけね。
「女都羅、二人に合わせる必要はない。お前はお前の戦い方をすればいいんだ」
劣勢になったうえに、球体も戻ったから、鉄摩さんはたまらず声をかけた。
「分かりました、父様」
そう答えると、女都羅さんは大きく深呼吸をした。
それで気持ちを切り替えたようで、目から怒りの感情は消え、闘志に満ちたものになった。
漢字で現れたままになっている壁が消え、両手の平を正面でバンッと力強く合わせる女都羅さん。
これは瑠羅ちゃんがやっていた、合掌ポーズ。
ということは──。
結界!
女都羅さんを中心に結界が展開して、幻影や薄い霧はもちろん、床に散らばっている破片と一緒に壁や天井に向かって押し出そうとした。
さらに、壁や天井から女都羅さんに向かっていく結界も展開。
拡張していく結界と縮小していく結界の二つに挟まれて、幻影なんかは全て消え、破片は大小問わずきれいに整列した。
「ぐっ……」
「ううぅ……」
ほむらちゃんは不動明王の炎で、聖名夜ちゃんは魔力を放出して、前後から来る光壁に抵抗する。
破片が砕けず残っているってことは、物理的なものというより、魔力なんかに効くような壁なんだ。
たぶん、最初からその結界を使わなかったのは、幻影でも姿が見えていたから。
規模を大きくしないで、エネルギーの消費を抑える攻めができるから光線を放っていたと思う。
幻影がやられていけば恐怖にもつながるし。
でも、魔力や気配を消してほむらちゃんや聖名夜ちゃんが近づいたから、即決して結界を使うことにしたんじゃないかな。
そして、こうなると我慢くらべ。
結界で挟み続けられるか、抗い続けられるかみたいなかんじ。
普通に考えれば女都羅さんは魔力の容量があって、五人組の力もあるから有利だろう。
ただね。
それはあくまで力だけの話。
こちらは二人でも、意志と個性がある。
女都羅さんは気づいていないけど、その身体にはいま、たくさんの英単語が浮かび上がっている。
純粋な魔力でできたその光線は、次々とほむらちゃんや聖名夜ちゃんの幻影を貫いていく。
どれが本物か分からないから手当たり次第ってことね。
貫かれた幻影はシャボン玉が割れるようにして消えて、光線もそういう設定なのか減衰してなくなるから、壁にぶつかることはなかった。
背後にいるものでさえ、光線はカーブしていくから、実質的に全方位攻撃。
このままいけば幻影が全て消えていきそうだけど、新たに生まれていくから二十体は維持されてる。
それでも女都羅さんは落ち着いた様子で、光線を放ち続けた。
手当たり次第作戦は継続みたい。
「──!」
気配を感じる女都羅さん。
見上げると真っ赤な炎が降ってきた。
「むん!」
女都羅さんは両手の構えを解いて、左手を真上に上げるのと同時に二つの漢字を投げた。
一つは、壁。
頭上に三メートル四方の厚い鉄板みたいなものが表れて、女都羅さんは降ってくる炎を防いだ。
もう一つは、縛。
そこに放つ者がいて捕らえようとしたものだろうけど、誰もいなかったから発動しないで焼き尽くされた。
直撃を防いだ壁だけど、滝のような炎はその上を流れていく。
「!」
バックステップでその場から離れる女都羅さん。
炎の包囲から逃れたけど、そこへ、ほむらちゃんや聖名夜ちゃんの幻影たちが襲いかかった。
「でええい!」
女都羅さんは右手の手刀を魔力で延長して一回転。
近づく幻影を一掃し、正面に戻った瞬間──。
突き刺す勢いで飛んでいった聖名夜ちゃんのステッキが、女都羅さんのお腹に迫った。
「!」
触れる直前、直径十五センチくらいの丸いバリアみたいなもので防ぐ女都羅さん。
そのバリアに刺さったかんじで、ステッキは空中で止まった。
だけど今度は、目の前の上下に姿を消していた二人が現れた。
上にいる聖名夜ちゃんは魔法で女都羅さんの顔に熱湯を浴びせると、下にいるほむらちゃんはバリアのない下腹部に左掌底を叩き込んだ。
「つっ……」
さすがに女都羅さんも顔を背けたし、ほむらちゃんの掌底もただの掌底じゃない。
聖名夜ちゃんのカードがついた掌底だ。
だから動作したのはほむらちゃんでも、作用する魔法は聖名夜ちゃんのもの。
それはすぐに効果を発揮して、女都羅さんの体内を駆け巡り、目的のものを探し出して体外へ誘導。
その背中から二個の球体が飛び出して、五本の光髪をすり抜けた。
聖名夜ちゃんは女都羅さんを越えて、空中にある球体を両手でキャッチ。
くるっと回って、着地しないまま飛んで離れた。
ほむらちゃんも素早く横に跳んで離れ、幻影に紛れていったわね。
ステッキは、あばよ、のセリフが聞こえてきそうな感じで回転しながら飛んでいった。
女都羅さんが魔力を解いた右手で顔を拭い終わる頃には、幻影たちに囲まれる状態に戻った。
「ぬう……」
目に怒りをにじませる女都羅さん。
会話では、聖名夜ちゃんが直接魔法を使うように言ってたけど、戦いには流れがあるし時間をかけられない。
だから聖名夜ちゃんは、グータッチのときに文字が書かれたカードを渡したんだ。
ほむらちゃんが接近できたときのために。
カードといってもこれは柔らかくて透明だし、ほむらちゃんも違和感なく受けとったから、鉄摩さんにも怪しまれなった。
あとは見える幻影たちを出して二人は姿を隠し、ここぞいう時にたたみかけて球体を取り返したってわけね。
「女都羅、二人に合わせる必要はない。お前はお前の戦い方をすればいいんだ」
劣勢になったうえに、球体も戻ったから、鉄摩さんはたまらず声をかけた。
「分かりました、父様」
そう答えると、女都羅さんは大きく深呼吸をした。
それで気持ちを切り替えたようで、目から怒りの感情は消え、闘志に満ちたものになった。
漢字で現れたままになっている壁が消え、両手の平を正面でバンッと力強く合わせる女都羅さん。
これは瑠羅ちゃんがやっていた、合掌ポーズ。
ということは──。
結界!
女都羅さんを中心に結界が展開して、幻影や薄い霧はもちろん、床に散らばっている破片と一緒に壁や天井に向かって押し出そうとした。
さらに、壁や天井から女都羅さんに向かっていく結界も展開。
拡張していく結界と縮小していく結界の二つに挟まれて、幻影なんかは全て消え、破片は大小問わずきれいに整列した。
「ぐっ……」
「ううぅ……」
ほむらちゃんは不動明王の炎で、聖名夜ちゃんは魔力を放出して、前後から来る光壁に抵抗する。
破片が砕けず残っているってことは、物理的なものというより、魔力なんかに効くような壁なんだ。
たぶん、最初からその結界を使わなかったのは、幻影でも姿が見えていたから。
規模を大きくしないで、エネルギーの消費を抑える攻めができるから光線を放っていたと思う。
幻影がやられていけば恐怖にもつながるし。
でも、魔力や気配を消してほむらちゃんや聖名夜ちゃんが近づいたから、即決して結界を使うことにしたんじゃないかな。
そして、こうなると我慢くらべ。
結界で挟み続けられるか、抗い続けられるかみたいなかんじ。
普通に考えれば女都羅さんは魔力の容量があって、五人組の力もあるから有利だろう。
ただね。
それはあくまで力だけの話。
こちらは二人でも、意志と個性がある。
女都羅さんは気づいていないけど、その身体にはいま、たくさんの英単語が浮かび上がっている。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる