君は少女をみたか!

一陽吉

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三章 個人探求者

第27話 奪還

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 女都羅メトラさんはお腹のあたりで、右手を上に左手を下にして向かい合わせると、そこからいくつもの光線を放った。

 純粋な魔力でできたその光線は、次々とほむらちゃんや聖名夜みなよちゃんの幻影を貫いていく。

 どれが本物か分からないから手当たり次第ってことね。

 貫かれた幻影はシャボン玉が割れるようにして消えて、光線もそういう設定なのか減衰してなくなるから、壁にぶつかることはなかった。

 背後にいるものでさえ、光線はカーブしていくから、実質的に全方位攻撃。

 このままいけば幻影が全て消えていきそうだけど、新たに生まれていくから二十体は維持されてる。

 それでも女都羅さんは落ち着いた様子で、光線を放ち続けた。

 手当たり次第作戦は継続みたい。

「──!」

 気配を感じる女都羅さん。

 見上げると真っ赤な炎が降ってきた。

「むん!」

 女都羅さんは両手の構えを解いて、左手を真上に上げるのと同時に二つの漢字を投げた。

 一つは、壁。

 頭上に三メートル四方の厚い鉄板みたいなものが表れて、女都羅さんは降ってくる炎を防いだ。

 もう一つは、縛。

 そこに放つ者がいて捕らえようとしたものだろうけど、誰もいなかったから発動しないで焼き尽くされた。

 直撃を防いだ壁だけど、滝のような炎はその上を流れていく。

「!」

 バックステップでその場から離れる女都羅さん。

 炎の包囲から逃れたけど、そこへ、ほむらちゃんや聖名夜ちゃんの幻影たちが襲いかかった。

「でええい!」

 女都羅さんは右手の手刀を魔力で延長して一回転。

 近づく幻影を一掃し、正面に戻った瞬間──。

 突き刺す勢いで飛んでいった聖名夜ちゃんのステッキが、女都羅さんのお腹に迫った。

「!」

 触れる直前、直径十五センチくらいの丸いバリアみたいなもので防ぐ女都羅さん。

 そのバリアに刺さったかんじで、ステッキは空中で止まった。

 だけど今度は、目の前の上下に姿を消していた二人が現れた。

 上にいる聖名夜ちゃんは魔法で女都羅さんの顔に熱湯を浴びせると、下にいるほむらちゃんはバリアのない下腹部に左掌底を叩き込んだ。

「つっ……」

 さすがに女都羅さんも顔をそむけたし、ほむらちゃんの掌底もただの掌底じゃない。

 掌底だ。

 だから動作したのはほむらちゃんでも、作用する魔法は聖名夜ちゃんのもの。

 それはすぐに効果を発揮して、女都羅さんの体内を駆け巡り、目的のものを探し出して体外へ誘導。

 その背中から二個の球体が飛び出して、五本の光髪こうはつをすり抜けた。

 聖名夜ちゃんは女都羅さんを越えて、空中にある球体を両手でキャッチ。

 くるっと回って、着地しないまま飛んで離れた。

 ほむらちゃんも素早く横に跳んで離れ、幻影に紛れていったわね。

 ステッキは、あばよ、のセリフが聞こえてきそうな感じで回転しながら飛んでいった。

 女都羅さんが魔力を解いた右手で顔を拭い終わる頃には、幻影たちに囲まれる状態に戻った。

「ぬう……」

 目に怒りをにじませる女都羅さん。

 会話では、聖名夜ちゃんが直接魔法を使うように言ってたけど、戦いには流れがあるし時間をかけられない。

 だから聖名夜ちゃんは、グータッチのときに文字が書かれたカードを渡したんだ。

 ほむらちゃんが接近できたときのために。

 カードといってもこれは柔らかくて透明だし、ほむらちゃんも違和感なく受けとったから、鉄摩テツマさんにも怪しまれなった。

 あとは見える幻影たちを出して二人は姿を隠し、ここぞいう時にたたみかけて球体を取り返したってわけね。

「女都羅、二人に合わせる必要はない。お前はお前の戦い方をすればいいんだ」

 劣勢になったうえに、球体も戻ったから、鉄摩さんはたまらず声をかけた。

「分かりました、父様」

 そう答えると、女都羅さんは大きく深呼吸をした。

 それで気持ちを切り替えたようで、目から怒りの感情は消え、闘志に満ちたものになった。

 漢字で現れたままになっている壁が消え、両手の平を正面でバンッと力強く合わせる女都羅さん。

 これは瑠羅ルラちゃんがやっていた、合掌ポーズ。

 ということは──。

 結界!

 女都羅さんを中心に結界が展開して、幻影や薄い霧はもちろん、床に散らばっている破片と一緒に壁や天井に向かって押し出そうとした。

 さらに、壁や天井から女都羅さんに向かっていく結界も展開。

 拡張していく結界と縮小していく結界の二つに挟まれて、幻影なんかは全て消え、破片は大小問わずきれいに整列した。

「ぐっ……」

「ううぅ……」

 ほむらちゃんは不動明王の炎で、聖名夜ちゃんは魔力を放出して、前後から来る光壁に抵抗する。

 破片が砕けず残っているってことは、物理的なものというより、魔力なんかに効くような壁なんだ。

 たぶん、最初からその結界を使わなかったのは、幻影でも姿が見えていたから。

 規模を大きくしないで、エネルギーの消費を抑える攻めができるから光線を放っていたと思う。

 幻影がやられていけば恐怖にもつながるし。

 でも、魔力や気配を消してほむらちゃんや聖名夜ちゃんが近づいたから、即決して結界を使うことにしたんじゃないかな。

 そして、こうなると我慢くらべ。

 結界で挟み続けられるか、あらがい続けられるかみたいなかんじ。

 普通に考えれば女都羅さんは魔力の容量があって、五人組の力もあるから有利だろう。

 ただね。

 それはあくまで力だけの話。

 こちらは二人でも、意志と個性がある。

 女都羅さんは気づいていないけど、その身体にはいま、たくさんの英単語が浮かび上がっている。
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