家畜少年の復讐譚〜虐められていた俺はアクマ達を殺した〜

竹華 彗美

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二話 地獄は終わらない

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「ここどこ?」

 そんな言葉を俺に殴られた痛みはもう消えた野村が呟く。

 床はピカピカに磨かれた石の上に紺色の絨毯。天井から一定間隔に大きなシャンデリアが吊るされている。支柱はゴールド。純金でできていそうだ。

 その内装をゆっくりと見終わったあと、富川と武田も声を出す。

「こことこだ?俺たち、さっきは教室で……」
「マコトが殴ってきやがったから、反撃しようとしてた……はず。」

 ここがどこかという質問にはすぐに、白ひげのおじさんが答えてくれる。

「ようこそ!異世界の者達よ!まずは突然説明もなく召喚してしまったこと。深くおわびする。そして突然連れてきた上に頼みごとをするなど申し訳ないが、ここはダルタリングス王国。お主らには身勝手ながら勇者として魔王の一軍を倒してほしい!お主らの中には既にここが異世界だと気付いている者もおるやもしれんな。我が名はこのダルタリングス王国が十二代目現国王。ダルタリン・カル・ナズーザリン!若き才能ありし者達よ!我らに力を貸してはくれぬか?」

 白い髭を垂らし、後頭部には既に髪がない。身長は腰が曲がって低く、体格も細めの国王と名乗る人物はそう俺たちに頭を下げたのだった。

 が、しかし野村は成績優秀な割にこういうところでは頭が固く、質問する。

「異世界に召喚?勇者?……なんですか?それは。順を追って話して貰えば助かりますが。」

 そう言われると国王ダルタリン・カル・ナズーザリンは頭をあげ首を縦に振る。

「確かにそうですなぁ。では順を追ってお伝えしましょう。──この世界では人間・エルフ・ドワーフ・小人・巨人・魔族の種族がいましてな。昔から魔族以外の種族はお互いを理解し、共存をしてきたのです。
 しかしながら魔族のみはそうはいかなかった。どれだけこちら側が仲良くしようと言ってもあちらは拒否をします。魔族は自分達の土地に、他の種族を受け入れようとはしなかったのです。
 そして事態はおよそ十年前。魔族からの攻撃により、魔族以外の種族は団結をし魔族対連合チームの戦争となっています。それは現在でも続き、最前線では今も多くの血が流れているのです。
 連合軍は数で比べれば魔族軍の百倍以上。当時の占い師の予想ではおよそ一年で魔族軍が降伏するだろうと予測されました。しかし戦争から一年後、数ではこちらの方が凌駕しているものの、戦闘力がまるで違うのです。こちらが兵士を千人送り出しても一体の魔人の力によってたったの三十分で全滅させられました。その結果十年が経過し、戦争前は世界のニパーセントほどだった魔族の領土もこの世界の半分の領土は魔族の手に渡ってしまいました。そして連合国の人口も激減しています。 
 そんな中、我が人間族はこの世界て最も知性が優れている種族としてあらゆる魔法を試し、あらゆる手を尽くしようやくこの状況の打開策を見出したのです。それが異世界人の召喚魔法でした。聖典にもこう書かれていたのです。"困った時には異世界人の力に頼りなさい。異世界人なら私たちよりも素晴らしき能力を持ってくるでしょう。しかしそれには強大な魔力と複雑な魔法陣が必要です。その術を編み出すのはお前達の知恵と努力なのです。"と。その方法を見つけた我らは我が愛しき娘の魔力を使い、強大な力を持つと言われる勇者あなた方を召喚したのです。これは我らの生きるか死ぬかの賭け。どうかお力をお貸しください!お願いします!」

 その説明を聞いて全員が今の立場を理解したようだ。俺たちは突然異世界に召喚され、勇者として魔人と戦う。そうして英雄となれと言っているのだ。しかしイマイチ実感はない。力があると言われても。

「力がどのくらいあるのか、調べてみますかな?エキソン。勇者様方を訓練所にお連れしなさい。」

 国王は誰もいない場所に向かって話をする。その姿に俺たちはボケ老人かと思った。しかし再度その場所を見ると先ほどまで誰もいなかった位置に、大きな剣を腰に刺す、若い一人の男が立っていた。

「はい。国王陛下。仰せのままに。」

 そうエキソンと呼ばれる人物は国王に会釈するとこちらを向き、笑顔で俺たちの顔を見る。俺も目が合った。

「ヤァ!勇者様方!俺は人間族軍大将が一人、タブルベム・タン・エキソンだ。よろしくな!これからは勇者様方の養成監督を務めさせてもらう!仲良くしような!」

 ブルーアイ、髪の色は赤、金の鎧をまとった塩顔イケメンは太陽のような笑顔を振りまいた後敬礼をする。敬礼の仕方も背筋は真っ直ぐ、角度はきっちり三十度。さすがは軍の大将を自称するだけある。
 そんなエキソンは俺の姿を見ると近づいてくる。

「君だけそんな格好だけど、大丈夫かい?青あざも多いようだけど。」

 満身創痍だった俺に疑問を抱いたようだった。
 その言葉に反応したのは野村だった。野村はすぐに駆け寄り、俺の耳元に口を近づけエキソンに言う。

「こいつ、馬鹿で。どこにでもぶつけるんですよ。あと暑がりなので服も脱いでるんです。ほら立て!」

 俺はその命令に従う。今この場でエキソンに虐められてるといえばどれだけ楽になれるだろうか。と思ったのだが、既に悪魔は手を回していた。耳元でこう囁く。

「今、変なこと言ったらどうなるか分かってるだろうな?お前がさっきやったことも追加してお仕置きだ。今度こそ体中舐め回してやるよ。」

 その言葉の威力は凄まじく、俺の口は完全に塞がる。悪魔の囁きは俺には耐えられない。体が震えてくる。それが野村の支配である。何年も体に植え付けられた恐怖は俺の精神を蝕む。そして何もできないという状態へと追いやられるのだ。

 エキソンはそれに気づいたのか、気づかないのかわからないが、"ふーん"とだけ言い、俺に鎧の上からかけてあったマントを羽織るように言ってきた。俺はその言葉に従い、ありがたくマントをかけさせてもらった。
 その時にももう一度野村は俺の耳に囁く。

「もし、変な行動を少しでも起こしたら家畜じゃいられなくなると思え。わかったな?」

 俺は破壊力にひれ伏すしかなかった。何もできない。必然的に俺の体はそう思わされるのだ。何も考えられなくなる。ただ悪魔達の命令を聞く以外は。


 広場から訓練場までは、そう遠くはなかった。無駄に広い広場の一つの扉の向こうはすぐに訓練場になっており、銀色の鎧を着た兵士たちが剣を振って訓練に励んでいた。
 俺たちはエキソンの後をぞろぞろとついていった。女子は既にエキソンに興味を持ってもらおうと色仕掛けや話をして関係を築こうとしている。
 男子は勝ち組と負け組で分かれ、話をしている。時々野村がギラッとした目で俺を見てくる。俺はもちろん一人で最後尾を歩くわけだが、その目は前を向いてなくても見られている感覚があり俺の体を震わせる。

 そして俺が訓練場に入ると扉は閉まり、エキソンは説明を始める。

「ここが、勇者様方が一ヶ月ほど訓練する訓練場だ!訓練といってももう勇者様方には基本的な体力や魔力、武力はあると思うから、実戦訓練から始めていく!まずは自分のステータスを確認してみよう!心の中で"ステータス"と念じる。そうすると文字が出てくると思うから、それが自身のステータスとなる。他人に見せたい時には"オープン"と言えば、見せることができるぞ!俺のステータスを先に大きく映し出しておこう!俺のステータスより一つの能力でも上のものがある人は手を上げてくれ!そこから推察して、剣が向いてるか、魔法が向いてるか、確認していくよ!」

 みんなはワクワクしながら、自分のステータスを覗いていく。ガッツポーズをあげるものや、少し残念そうなもの。ちなみにエキソンのステータス。

ーーーー
ダブルダム・タン・エキソン (男)
二十五歳 人間

体力 8300
魔力 5020

剣術 lv80
魔術 lv26

スキル ここは見ることができません。

称号 ここは見ることができません。

ーーーー

「そうそう。スキルと称号は人には見せられないから、口頭で教えてくれ!スキル名は言わなくていいから、どんなスキルなのかな。」

 盛り上がる一同。そして次々と手が上がっていく。勝ち組の全員が挙げ終えると負け組の連中が手を挙げだす。そしてすぐに結果はわかった。

 俺以外の奴らの手は全員上がった。なんらかの分野でエキソンに勝っているのだ。
 しかし俺は────。


「あれ?君は……えっと確かマコトくんだっけな?」
「はい。」
「手を挙げてないってことは、一つの能力も俺より上じゃないっていうことで間違いないのかな?」
「はい……。」
「スキルは?なにかスキルはないのかい?」
「あ、ありません。」

 そのやり取りを聞いていたクラスの全員の目は黒く淀んだ目と変わっていた。特に野村は、ニタニタと笑いをこらえ俺をジロジロと見てくる。吐き気がする。体が震える。
 
「そうか。ないか。分かった!じゃあそこで少し待っていてくれ。みんなに説明が終わり次第、君の元へ行くから。」

「じゃあ!みんなついておいで!これから適正ごとに並んでもらうから。そこからは担当の人に教わってな~。」

 みんなが説明を受けている中、俺は一人その場に取り残される。俺はその場で棒立ちのままエキソンを待った。


 その後、みんなへの説明が終わったエキソンはこちらに戻ってきて転移魔法でエキソンの自室へと連れ込まれた。そしてステータスを見せたり、本当にスキルがないのかなどを何度も確認させられた。
 しかし俺からはなにも収穫が無かったことに諦めたのか、俺のステータスの中で一番高い値の体力からゆっくり上げていく、と言う結論に至った。

 俺は一人、馬鹿でかい広場を何周もさせられた。スキルは徐々に成長していけば、身につく可能性は高いということで、俺は保留とされた。
 俺の体の傷はエキソンにより治された。どうやらエキソン自体俺へのいじめは気づいている様子ではあるが、それ以上は触れなかった。なんの取り柄もない俺に、諦めがついたのだとすぐに分かる態度だった。


 俺はこの半日で広場を十周以上させられた。俺以外のクラスメイトはなんらかの才能があり、みんなそれを伸ばすことでたった半日というだけで負け組が勝ち組へと下克上したなんていうことも起こった。

 
 そして地獄の夜が幕を開けた。俺たちに用意されていたのは男子大部屋と女子大部屋の二部屋。それぞれ二十ずつベットがあり、一人ずつが寝れる仕様となっていた。
料理は全員で食堂で食べる。
 しかし俺はその行為全般が許されることはなかった。まず最初に俺の部屋は男子部屋の掃除器具庫の中。どんなに中を綺麗にしても、寝転がれはしない。そして何よりも臭い。
 食事も配給制なのだか、俺の料理は勝手に用意されており米一粒などというものとなった。俺はその命令に従うしか無かった。もう諦めてもいた。逃げることはできないのだと。

 そして夕食が終わり、風呂も全員が入り終われば地獄は始まる。俺はまず掃除用具室から引っ張り出され全員から暴行を受ける。それはいたって簡単。全員が一列に並び、一回俺を攻撃したら後ろに並び直す。それを繰り返される。おかげで十周もされれば俺の体はアザだらけ。
 そして次は勝ち組からの洗礼だ。負け組は俺の手やら足やらやらを押さえつけ、勝ち組のサポートに回る。洗礼とはなにをやるかって?それは性暴力だ。これは野村を中心に行う。
 ホースがあればそこに水を流し、俺の穴という穴に流し込む。そしてその間暴力を振るわれ、漏らせばキモいと言われ殴られ、漏らさなかったら淫乱と言われさらに犯される。俺は体を震わせ、吐き気を我慢するのが必死だというのに、悪魔達は俺に泣けだの喚けだのと命令してくる。
 そして最後、精神も肉体もボロボロになった俺をこれでもかというぐらいに、ストレス解消として扱う。よくこんなことしてて飽きないよなぁとつくづく思う。
 そしてそれが終われば、掃除用具室に閉じ込められるのだ。俺はこんな目に毎日これからずっと会い続けなければいけないのかと思うと、泣かずはいられなかった。一人。夜中声を殺しながら全裸で俺は泣き続けた。
 
 その時、すでに俺のスキル欄には俺の人生を変える能力スキルが増えていることにまだ俺は気づいていなかった。

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