家畜少年の復讐譚〜虐められていた俺はアクマ達を殺した〜

竹華 彗美

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十四話 事後処理

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 俺と碓氷は完全なパートナー、というよりも主従関係となった。
 
 俺と碓氷がこの関係になった後、後処理をはじめた。
 九割の事実を発表された武田は、俺の肘打ちに相当なダメージを受けたのか未だうつ伏せになっている。
 ──否、違うか。俺も少し経ってから気づいた。先程の武田の行動はかなり奇妙なことだということに。
 だって彼にはもう自分自身を動かせる"所有権"を持っていないはずなのに、彼は俺に対しての"負の感情の連鎖"によって自分のカラダを動かすことに成功した。──その点で奇妙な行動だった。
 
 所有権を持たない生命が自分の意思で動くことはできない。では意思ではないとすればなんなのだろうか。
 
 ──それは自分自身、体験していた。
 この世界の転移直前、コトハを虐めの材料に使われたとき、俺は「絶対的な拒否感」を覚えた。
 それまで無心でそれこそ何も考えずに生きてきた俺にとって、世界で唯一の支えを踏み躙られた時、俺は反射的に「拒否」した。「こんなことあってはならない」と。

 それと同じ現象だったのだ。
「あってはならない」という"反射的な拒否感"が、彼の脳から手、足などのあらゆる運動器官に無意識に送られたのだ。

 故にはあんな風に自分自身を動かすことができた。だがは自分の体を俺の命令なしに動かすことはにできない。
 まぁ、でも俺の命令で動くことができないっていうのもおかしな話なわけで。
 だって俺、武田の所有権奪ったっきり装着してないもんね。ということはただ単に武田が『斎藤の命令でしか動けない体なんだ』とかいう思い違いなだけであって。
 自分自身では動けないけど『誰かから命令されれば動くことができる』わけで。

 まぁそういう面ではそのまま『俺の命令しか聞けない』という状況はそれなりに面白いから、俺はネタバレせずにもう考えることもやめた武田に命令を出す。

【今日は一日医務室のベッドの上で待機。誰が来ようと何が起きようと絶対ベッドから起き上がってはいけない。】


 
 その後武田はゆっくりと立ち上がり、医務室に戻っていった。それを見送って俺の部屋に放置中だった、三神の対処をどうするか考える。
 と、今気づいたがそういえば三神との関係、話すの忘れてた。ま、いっか!
 それよりも、コイツどうしよ。




ーーーーー



 ──昨日三神が夜やってきた時からなにか怪しいなと思っていた。
 まず第一に部屋に入ってきた時に感じたあの"匂い"だった。三神は普段バトミントンの練習が終わるといつもポケットに入れている、爽やかなの汗拭きシートを使っている。
 だからいつものあいつの"匂い"は、鼻の奥を突き抜ける強烈なミント臭がする。
 この世界に来てからも同じで、ミント系の香水を見つけ訓練終わりにそれをつけていたお陰で、三神が通った後は爽やかな残り香が残っていたのだ。 
 しかしあの時は違かった。どこか嗅いだことのあるオレンジ系の匂い。
 ──それは碓氷の部屋に入った時のものと酷似していた。それが一つ。

 第二に一昨日碓氷が俺のところに姿を見せなかったこと。
 確かにたった一日、家畜として凄惨な虐めを受けた直後に"家畜としての心構え"とか夜に"愚痴を聞いてやった"りという単なるをしただけで、毎日報告に来るとは思ってはなかった。
 だから碓氷が一昨日"俺のところに来なかった"というのは『その日は何にもなかったから行かなかった』という一言を翌日にでも聞ければそんなに気にしなかった。
 が、その言葉を聞けなかった俺は三神のあの"匂い"を妙に気にし過ぎて、この時点で"碓氷がなんらかの形で三神と関わりを持った"ということが分かった。
 それはこのタイミングだからこそ、そこまで考えることもなく理由を悟った。

「俺の情報収集・武田との接触の監視役を任された。それも条件付──恐らくは三神の権力を使っての碓氷の"人間"復帰の支援──」といったところだろうか。

 昔のから俺の勘は"悪いこと"ほど当たる。これが"悪いこと"なのか。と言われるとよくわからないが、せっかくの懐かせることができる"手駒"を手放さなければいけないことを考えれば、"悪いこと"の分類に入る。
 ──結論、それは見事に当たってしまうのだが。

 そんなことはいいとして、最後の決め手は俺が昨日の朝会った暴行の時だった。
 あの時に最初、碓氷の姿は確認できなかった。しかし暫くしてルエルが止めに来るほんの数分前、俺は体のあちこちから悲鳴という悲鳴がでるなか、微かに食堂のドアの所に立つ碓氷を見た。
 その姿は一瞬でどこかにいってしまったが、その一瞬で確信することができた。

 彼女は左目からだけ泣いていたのだ。
 右目はまるでなんの光も失ったようだったのに、左目からはウルウルと涙が溢れ出していた。
 そして口元が動く。多分声には発さず。

──『ごめんなさい』──と呟いたのだ。


 それは気のせいだったのかもしれない。
 全部俺の幻想で妄想だったのかもしれない。
 でも俺は自分自身の"悪いことばかり当たる勘"を信じ、作戦を練った。

 三神を堕とすことができる策、武田を使う場合にはどうすればいいか、碓氷がいつ頃仕掛けてくるのか、碓氷をどうやって家畜こちらへと引き戻せるか……
 ──その作戦が今に至り、大成功した。


 といっても作戦を考える時間がいつもよりなかった。そのために終わった後のことは考えていなかった。
 武田はどうにかなるが、三神をこの状態で放置しとくわけにもいかないし、かといって部屋に戻して俺の今日の"これ"をバラされては金輪際、復讐できなくなる危険性がある。



 困った。実に困った。 




 
 現在、時刻は一時を回った。まだルエルは部屋に帰ってきていない。
 この非常に困った現状を考えるに、ルエルが大人しく部屋の中で寝ていてくれることが最も事が進む。 
 ルエルが部屋に帰ってきてない、ということはエキソンと一緒にいる可能性が高く、彼も部屋には戻ってない……ということはまだ城内を歩き回っているかもしれないのだ。
 
 このまま三神の拘束を解いて部屋に戻ってもらうのも手だとは思ったのだが、ルエル達が歩いているともなるとそうはいかない。
 とはいえ俺はもちろん、碓氷と一緒に部屋に戻ってもらうというのも不自然極まりないわけで。
 というよりも問題は"そこ"ではなく、明日の朝、三神が『武田をあんな風にしたのは俺たち』みたいな噂を流されても困る。

 ていうか、こんな落とし穴気づけないって!!


 というのも、俺の時間がない中での考えた"こういう事態になった時の作戦"としては三神に『碓氷との記憶』と『この二時間以内に起きた全ての記憶』をの二つを奪い取るだったのだ。
 ──なのに、俺はバカだった。何故気づかなかったのか。

 このスキルのもう一つの曖昧さに。


ーーーーー

スキル 復讐者アベンジャー lv4
 一日に一回。最初に触ったものの持ち物・能力・命などをレベルに応じて一つ奪うことが出来る。このスキルを人に言った場合、その人からは何も奪えなくなる。
・最初に触れた人の何が欲しいかを念じる。日付が変わる十分前には奪ったものを手に入れられる。
・レベルに応じないものは奪えない。
・モノを奪った場合はその持ち物をどのように手に入れたかなどの記憶も同時に転送される。
・奪われた本人・このスキルを知らない者には本人の風貌がどれだけ変わろうとも気づかれない。

ーーーーー

 俺は先程、三神に考えていた作戦通りに前の"ふたつ"を奪おうとした。──しかしお分かりの通り奪えなかった。
 俺としては今日まだ一回しかスキルを発動していないと思っていた。碓氷と初キスを交わしたときの一回だけだと。
 あと碓氷や武田に触れたといえば、スキル説明をしている最中。
 ステータスのスキル説明にもある通り
「このスキルを人に言った場合、その人からは何も奪えなくなる。」だから、いくら触ってももう奪うことは出来ないと思っていた。
 覚悟も決めていた。「碓氷と武田からはもう何も奪えない」と。

 ──しかしその覚悟は無駄だった。

 もう一度よくスキル説明を見てみる。

「このスキルを人に言った場合、その人からは何も奪えなくなる。」

 
 ──俺はこの文を見た時に"まさか"と思った。そしてその"まさか"だった。
 
 「このスキルを人に言った場合」即ち、スキル説明をしただけではを言ったことにはならない。
 つまり、スキル名である"#復讐者__アベンジャー"という文字を言わなければ、スキル適応外にはならないという事だ。
 
 こんないい迷惑はない。

 
 
 俺はこの発見により現在たいへん困っているのだ。




 そうこうしているうちに既に午前二時。碓氷も欠伸あくびをし始める。
 必死に頭を回転させ考えているが、一向にいい案が見つからず、最終的にこうなった。

『三神の部屋に連れていき拘束する。明日になったら記憶を奪い取る』

 
 非常にリスキーな判断だが、それが一番の方法──あとから考えるともっといい方法があったのではないかと溜息が出る──だと思った。
 しかしこの方法でも問題ないと思えるほどに三神の精神状態は悪い。
 目の焦点は合っていないし、口からはだらしなく唾を出していて、呼吸している鼻は鼻水が垂れている。酷く汗ばんでいるのに顔は真っ青で時々嗚咽のような言葉になっていないものを出す。
 まるで生気を感じられない。
 この様子から見て取れるに、おそらく明日は部屋から出ないというか、縛ってしまっているから抵抗もせずこのままの状態なのではないか、と思った。

 ただこのまま運ぶとしたら一番問題なのは、人に見つからないようにすること──否、それは不可能だと思った。
 だから俺は堂々とした姿で三神を抱え、三神の部屋まで行った。
 コソコソと行くよりも堂々と行った方が不審がられずに済む。理由なんて咄嗟の思いつきでなんとかなる。

 何人かのメイド達に変な目で見られることもあったが、無事三神の部屋まで送り届けると、ドアを勝手に開けガムテープで両手足、口を縛る。そしてそのまま放置。
 ドアの鍵は奪っておいた──その後鍵は見つかることはなかった──ので、ドアを閉め鍵を掛ける。この時だけは周りの様子を見ながら無音の殺戮者サイレントキラーは発動しとく。


 そしてその後俺の部屋に戻るまでは堂々と歩く。碓氷は俺の部屋で寝てしまっていたのでそのままにし、俺はその日寝ることはなかった。


 

 
 

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