家畜少年の復讐譚〜虐められていた俺はアクマ達を殺した〜

竹華 彗美

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十九話 椅子取りゲーム

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「これから会議ミーティングを始める。」

 富川はいつになく真剣で、顔が怖い。
 俺は謎の違和感は一旦放置してここは富川に従う──否、従う以外の選択肢は無さそうだ。

「俺はこのクラスの学級委員長だ。今回の三神未来・佳代子の一連の騒動は俺にも責任があった。そして"武田"という男──俺には全くそいつの記憶はないが、恐らく、否、確実にクラスの一員だった、そいつの未来も奪ってしまったこと。いつも威張っている俺が……なにも出来ず俺たちの仲間の三人を死なせてしまってすまない。」

 そう言うと富川は頭を下げる。



 俺は予想だにしていなかった。今まで富川が人に頭を下げたことなど見たことがない。それをクラス全員にしたのだ。──これは一杯食わされた。
 やはり富川は"王"というものを熟知している。自分がいかに常に頂点に立てるか分かっている。

 これにすぐ様反応できるものはいない。みんな下を向くか、別の方向を向いて誰かが次の行動に出るのを待っている。今までならば武田がその役回りをやるが、もうやつはいない。記憶にも残っていない。

 
 富川が頭を下げている時間、時が止まったような感覚に襲われる。空気が止まるというか、緊張感が高まっているというか──とにかくピリピリする。
 一秒が一時間にも感じるなか、俺は富川のこの行為の意図に気づく。ただ頭を下げて"王"ないし、学級委員長としての立場を守る以外の目的だ。



 『選定』だ。"とみかわ"の"右大臣パートナー"と新たな"貴族かちぐみ"と"平民まけぐみ"と"家畜おれたち"を決める『選定』──いやこれはこれからの地位を賭けた椅子取りゲームだ。


 この『椅子取りゲーム』の参加者はここにいる全員ではない。家畜は抜かされている。家畜は家畜だ。元から"人"としてカウントされていない。
 
 "人"の権限を与えられている参加者で今この時点で富川の意図が掴めていないボンクラは敗退だ。気づいているが声に出せない臆病も。
 そうなると残りは意図に気づいて頭をフル回転させて勝ち組に食らいつこうと考えているやつだ。そいつらが次の新体制の貴族かちぐみで間違いない。
 そしてその中でも特に勇気があって頭がキレるやつが右大臣パートナーになる。

 この椅子取りゲームは俺の今後の復讐にとっても非常に重要なものだ。ここで一新され、また壊せれば富川おうに対してのクラスの不満は高まると同時に富川の精神もボロボロになっていく。そしてまた作り上げて、壊せればもしかしたら革命が起こるかもしれない。
 名誉革命のような無血革命にはならないだろう。クラス内でまた蹴落とし合いが始まる。でも必ずまた新たな"王"が決まる。このクラスに民主主義なんて有り得ない。プライドが全員高すぎるからだ。家畜をいじめてる時点で可能性は皆無だ。
 そうなればまた俺が壊していけばいい。最終的にバラバラになって死んでいけ。
 
 誰も信じれなくなって
 自分しか信じられなくなって
 でも不安でしょうがなくて
 でも誰かに頼ったら食われそうで
 襲われそうで………



 全員地獄へ堕ちろ。





 俺は妄想でニヤついていたのだ。それを覚ましたのは隣にいた碓氷だった。俺の二の腕を抓った。そして小声で囁いた。

「まこと。あなた見られてるよ。」

 俺はすぐ様顔を戻し、周りを見る。するとまだ静寂は守られていたが、俺の目線はある人物の目と合う。そして次の瞬間、そいつは一人目として話し始めた。少し微笑みながら。
 その人物は俺にスキルを取られたことも分かっていないアホ──しかしながら勉強においては全国トップクラスを誇る松川 昴まつかわ すばる。勉強組のナンバー2である。

「富川くん、確かにこのごろの君は学級委員長としてもクラスのリーダーとしても全く情けないよ。」

 松川の第一声。これは負け組──臆病者、馬鹿共には考えもつかないものだったらしく、顔が引き攣っている。

 でも俺には分かる。富川の横にはこういう奴が必要なのだ。










ーーーーー

 富川 優一と武田 正俊。この二人が出会ったのは高校の入学式。
 入学当初から既に二人の名前は有名なもので、富川はバスケ、武田はサッカーで一役注目を浴びていた。

 そんな二人は同じクラスになり、さらに席が隣同士だったことからものの数分でうちとけ、誰しもが緊張して話せない中、最初のホームルームで学級委員長を富川、副委員長を武田がそれぞれ立候補した。

 彼らは相性が良かった。彼らは二人でひとつ。そうなることでクラスの頂点に君臨できた。
 

 それを物語ったのは一年夏の学校祭準備期間。既にその頃カースト制は完成しており、富川と武田はクラスを纏める──支配する立場となっていた。
 しかしその日はある揉め事によってクラスが二分していた。『富川』VS『野村』
 両者の意見は激突し、どちらかというと野村の方が優勢の立場だった。
 
 富川は自分の意見が通らないことが嫌いなのだ。言えば『自己中』。己に従わないやつがいれば、暴力と権力で制圧する。
 対して野村は動機や仮説を丁寧に説明し、全員に同意を求め富川を倒そうとした。

 どちらが良い立ち回りができるなど、皆目検討がつく。その時、富川についていたのは武田を含む勝ち組五人。対して野村につくのは一部の勝ち組と勉強組、負け組である。さすがにこの人数差では強行した時、富川はクラスからの全員の信頼を失い負け組に堕ちる。それは傍から見ても言えるものだった。
 しかし富川はその時平常心ではなく、そんなことを考える余裕はない。ただ彼の頭では

『俺は偉いんだ!』
『俺が一番なんだ!』
『全員俺に従え!』
『俺が正しいんだ!』

 という文字が繰り返されていた。


「いやいや、富川。お前はさ、全員の気持ちをわかってない。ただの独裁者だ。そんな案、誰が認めると思う?」

 野村は至って冷静だった。しかし富川の沸点は既に爆発寸前で今にも野村を殴りかかろうとした時、富川は後ろから蹴り飛ばされた。

「お前はバカかっ!!!!そんなことで、そんなやつ殴ってどうすんだよ!」
「何すんだ!!クソ野郎ッ!!!」

 富川は蹴った相手を見る。そこには顔を真っ赤にして激怒した武田がいたのだ。武田はなかなか怒らない。だからこそ富川は一瞬で気が冷めた。
 
「お前は学級委員長だろうが!今回のことは野村が正しい。一回頭冷やせっ!」



 その後、その件は両者の意見を混ぜてのものとなったが、それを作成したのは何を隠そう武田であった。

 武田は常に冷静頓着だ。しかし頂点おうに立つほどの男ではない。威厳がない。それを見事に持っているのは短気で自己中だが何かと頼れる富川だった。
 この二人は二つでひとつ。一人が欠ければ、このクラスのカーストは守られない。

 王は側近の大臣が頭が良ければ、どんなに威張っていても、どんなに強欲だろうとその権限を持てる。

 それはいつの時代も何時もそうであったように。


ーーーーー
 
 
 富川は自己中。だからこそ頭のいいパートナーが必要だ。武田が居なくなった今、やつが頂点に君臨できる方法はそれしかない。
 それならなぜ富川を王の座から引きおろせないか。そんなの簡単だ。みんなそこまでの勇気がない──ここでの『勇気』は富川に喧嘩を売ることでは無い。そもそもプライドが全員が全員高いクラスで全員を従えられる程の『勇気』を持ち合わせていない。

 ただし、一人ここに来る前に下克上しようとしていた男はいた。野村だ。野村はその勇気があった。でも今は尊厳も何も無い、俺に謝ってきたような男だ。貧弱になったものだ。


 王になり、失敗した未来は家畜。それが王という支配権限を誰も望まない理由だ。それならば勝ち組で充分と全員が思っている。


「ほんと情けない。君みたいな男が。今まで散々威張ってきて、逆らえば暴力に身を任せてきた『絶対王』には思えない。」

 松川は心底呆れた様子だ。でも富川はどことなしか満足そうだ。

「頭を上げろよ。みっともない。学級委員長なんだろ?俺たちを引っ張ってくれるんだろ?今までの威勢はどうした?」

 富川は頭を上げる。真剣な顔付きに戻り、松川を睨むように見る。

 これは『試練』。富川に臆さない。どれだけ睨まれようとも、暴言を吐かれようとも冷静頓着に言う『試練』だ。

「富川は変わってしまったのか?元の君はしっかりとした学級委員長だったのに、なんだ?この世界に来てステータスが自分より上の奴がいて怖気付いたのか?」

 松川は富川を確実に怒らせるような発言をしている。これが吉と出るか凶と出るか。──九割方"吉"で間違いない。

「ふざけんな!そんな学級委員長、家畜なんかにその無様な姿を笑われるまでにてめぇは堕ちたのかよ!!」

 うわぁ。最悪だ。まぁ確かに笑ってたけど、そういうのを笑った訳じゃないし。周りからの視線も痛い。俺は俯き、少し震えてみせた。
 まぁいい。やられた方が、復讐のしがいがある。

「どうなんだ!!答えろよ!雑魚がッッ!!!!!!」

 松川がそう言い切ると、富川は右手をグーに変え松川に殴りかかる。その時俺は確かに見えた。

 富川の手が松川の左頬につく寸前、富川は笑い『合格だ』と言った。




"ガンッ!!"



 殴られた松川は吹き飛ばされ、壁に打ち付けられる。鈍い音がして、松川はそのばでぐったりとなった。

「さっきから、うるせぇな!クソが!!」

 そう富川は赤い顔をさせて松川の胸ぐらを掴む。

「俺が変わったとか、怖気付いたとか……てめぇ、誰に愚痴聞いてんのか分かってんのかよっ!好き放題言いやがって!!」

 そしてまた左手で松川を殴る。かなり本気だ。そのあとも松川を蹴ったり、殴ったりする。松川は血だらけになり、息も上がるが、最後に松川がこう言うと攻撃が止まった。

「はははっ、これでこそ富川だよ……」

 富川の顔は普通に見れば怒り狂った顔だが、何度も虐められてきた、殴られてきた俺なら分かる。──あの顔は満足している、と。
 みんなは唖然としている。俺も含めて、松川がこの椅子取りゲームに参加してくるとは──実際驚いた。さっきの言動だってここに来る前の彼なら有り得ない。
 表ではおっとりして優しいのに、な。 


 とまぁ、そう感心している場合ではない。勝ち組になろうと言うものはここから富川をおだて始めた。
 富川はそれらには浮かない顔で対応し、"椅子取りゲーム"は終了した。
 
 はっきり言って勝ち組メンバーはそこまで変わらなかった。心が弱りきっている野村が食らいついたことには、俺も助かった。あいつが勝ち組にいさえすれば、情報はいくらでも聞ける。

 俺はまたニヤけた。
 


 



 
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