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三十四話 信頼を持つ二人
しおりを挟む終盤にグロ描写があります。苦手な方はお気をつけください。
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鈴木と楜澤の関係は中学からであるが、この二人はどちらも"虐められる"関係にあったことで共通していた。
しかし実際に虐められていたのは楜澤。鈴木は楜澤の"ケア係"と言われた。別クラスとは言えど、二人とも勉強では上位に居たため、よく昼に学習室・図書館で会い、どちらも部活動には所属しておらず、帰る方向はおなじだったため、よく一緒に帰っていた。
家で虐待、学校で虐めにあっていた楜澤の中学の時の心の拠り所。
『大嫌いな"父"のようになりたくない』
それが一番というのは間違いない。
しかしもう一つをあげるとしたら、"鈴木 充の存在"が挙げられるのではないか。
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「僕が楜澤くんを守ってあげる。」
そう鈴木が言うと、楜澤の泣き声はしなくなった。効果は絶大。
「だから、その代わりに──僕、見ちゃったんだよ。楜澤くんが殺されそうになっている所を。」
言うと楜澤からは小さな声で"誰なの"と聞いた。
その先、ベットの下からでは鈴木が楜澤にやったことは分からなかった。
ベッドが軋む音に、楜澤の小さな声。
その後は二人の耳打ちで会話が続いているようだった。
その会話が約十分間。
「じゃあ言うよ?」
「うん、お願い!」
楜澤の発言の後に鈴木が承諾する。
『僕を殺そうとしたのは齋藤 誠です』
『僕は齋藤 誠に首を締められました』
『はい。今も少し頭が痛いです。そして何よりの証拠は、この首を締められた痕です。苦しかったです。鈴木くんが助けてくれなければ死ぬ所でした。』
というセリフを言っていく。
それらをしっかり録音魔法に収めておく。
録音が終わり、二人の会話は通常の大きさに戻った。
「これだけあれば、証拠は十分。楜澤くんが外に出なければいけなくなることはもうない。僕の絶対領域で過ごしていけばいいよ!」
「……ありがとう。やっぱり鈴木くんは優しいね!」
と笑い合う二人。さきほどの空気とは打って変わっている。
これが"魔法のおまじない"の効果だとしたらやはりこの二人の関係は使えた。
「──じゃあ、もう寝るよ。明日は僕早いから。」
「うん。僕も、寝るね。……このベット使っても良いかな?」
「うん! もちろん!」
そう明るい声で話す楜澤。
鈴木はどのような気持ちでいるのだろうか──俺の言いなりは。
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『さいばんちょー、もうギブアップ? ダメだよ、ここからが面白いのにさぁー。』
エキソンの映像の中に映るテスタ裁判長の顔は青白い。毒が回ってきて、三十分だ。ここまで生きてられるのは"精霊の血が入っているからだ"とルエルに言われたが、精霊の力でも瀕死だ。
"ドッッ"
テスタ裁判長の腹を蹴る松川。口からは赤黒い血が吐かれた。
浅い息、体を動かすことも出来ないほど衰弱したテスタ裁判長。
それを見てニタニタと笑うやつの神経はいかがなものか──いや、俺も同類か。武田の苦しむ姿を見て笑わずにはいられなかった。
でもなんだろう。
『俺はこのクズとは一緒ではない』と思う。これは正しいのだろうか。
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楜澤がベッドの上で寝たのを確認した鈴木は俺を呼んだ。
「よくやった、鈴木。」
「このあとは……」
「計画通りだよ。ほんとバカなやつ。これだから"家畜"にされちまうんだよ。」
スースーと寝音を立て眠る楜澤。
俺は部屋から持ってきた黒色のバッグを開く。このバックの中には、今まで楜澤に作らせていた"家畜"に使うおもちゃや使えそうな薬などを薬品庫から盗み、入れている。
そこから睡眠薬と丈夫な縄を取り出し、睡眠薬は液体ではあるが、ガーゼに染み込ませ、嗅がせるだけで十分効果がある。
睡眠薬を嗅がせた楜澤はちょっとやそっとのことでは起きなくなり、ベッドに横たわっている楜澤を椅子の上に座らせ、縄で両手首同士で縛り付け後ろに回し、それぞれ椅子の足に足首を固定する。
更に逃げられないよう首に緩く縄を巻き、その巻き付けた縄に三つ編みにして強度を強くした紐を結う。これによって犬につけるようなリード付き首輪になる。飼い主が持つであろう先端部分を、鈴木に空間の天井にリングを付けてもらい、そのリングに結びつける。ここで注意するべきはリード部分が少し"だらん"となった状態でないと、直ぐに首が絞まり自殺されやすくなってしまう。
自殺されては面白くない。
この世界でも『大麻』などと言ったいわゆる『危険薬物』は生息している。否、それをどう使うと『危険薬物』になるのかなどといった知識は普及されていない。
だから禁止もされてないし、それを売って商売しているなんて人もいない。それは何度かの外出で調査済みだ。
将来俺は医者を目指していた。だからそういう知識もある。日本では大麻などは見つけ次第、燃やしてしまうがこちらでは豊富だった。
更に媚薬といったものも地球上では少なかったが、さすが異世界。ロマンがある。媚薬についてはこの世界でも知られており『一定以上使用すると罰則』となっていた。それが王城内の薬品庫に沢山保管されている。見つけた時には知らなかったが、どうやら最近軍の中で大量に所持していた人がいたらしく、それを押収したものだったらしいが、俺はそれを持ち去ったのだ。
大麻、媚薬のどちらも粉状にしておいたのはこういう時に使う用だ。
タオルで目隠しをすれば一通り準備は完了だ。あとは鈴木に映像魔法を唱えてもらえば──。
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『さいばんちょーさーん。テスタくーん。起きてまちゅか? まだ死んでないよね?』
浅い呼吸を繰り返すテスタ裁判長の髪の毛を引っ張り、目を合わせようとする松川。しかしテスタ裁判長はもう瞼を開けることすら難しい状況となっていた。
『鈴木、例のやつ壁に投影して。』
そう言われた鈴木は投影魔法を詠唱。しばらくすると、そこには椅子に縛りつけられた鈴木が座らされている。
『これが楜澤の末路さ。音も少しだけ出してあげるからよく見とくといいよ──お前もじきにあそこに座ることになるんだから。』
そう言う松川。そして同時に松川がテスタ裁判長に回復魔法をかける。
光に包まれた裁判長は少し息を吹き返す。
『……ど、ういうことだ………。』
回復したとはいえ、毒はしっかり体を回っていた。動くことは出来ず、喋るのが精一杯。
そんなテスタ裁判長の素朴な疑問に松川の顔が歪む──俺を犯すときと同じ、気持ち悪い笑みだ。
『ジジー。何度も言わせんじゃねぇよ! お前はこうなった以上、俺の"家畜"になるんだよ!!
こんな風にな!!』
テスタ裁判長の頭を鷲掴みにし、背中を反らさせ、投影された壁の方に目を向けさせられる。
それに促されるように、エキソンの映像もそちらに向く。
拘束された楜澤の椅子の横に立つのは、松川。映像と音声は小さく流れる。
松川の右手に瓶と左手に白いハンカチがあり、ハンカチに瓶の中身を振りまく。そのハンカチを眠っている楜澤の鼻元にやり、何度か吸わせた。
『これは"媚薬"と"大麻"をブレンドした、俺オリジナルの薬品さ。これを一度吸えば、この粉なしでは生きて行けなくなるんだよ。』
と御丁寧に解説してくれる松川だが、この世界に"大麻"はごく普通の雑草。どういうものかは分からない。但し、俺には分かる。『大変危険なもの』だと。
瓶とハンカチを床に置いたあと、松川の手に持たれたのは、ハサミだった。ハサミはごく普通にこの世界でも売られている。
ハサミでまず上半身の服を切り刻んでいき、それが終わると次はズボンを切り刻んでいく。楜澤のキメの細かい肌が露出していく。しかし綺麗な肌だからこそよく目立ってしまう所々の古傷。
下着のみを残すとハサミを起き、優しく体を撫で回す。そのいやらしい手つきはどこで覚えたのかと言うくらい気持ち悪い。それでも楜澤は起きない。このまま起きないでくれと願う。
数分だろう。撫で回すのが飽きたのか次に松川は行動を移す。どこからか持ってきた木のバケツの中に、氷水が入っている。恐らく魔法で精製したのだろう。
その水の中に手を突っ込み、その手でまた楜澤の体を撫でる。その時に少し反応が見られたことに松川自身が興奮し、次は手で水を掬い、楜澤の体にかける。
松川の虐めは最初はそこまで痛みもなく、ただ気持ち悪いと思うだけ。
しかし、その行為がだんだん飽きてくると、どんどん残虐なものになっていく。
氷水を体に掬いかけると、楜澤の口から短い叫び声が聞こえる。そして五回ほどその行為をやるとまだたっぷりあるバケツの中の氷水を頭から流した。
楜澤の体が"ビクンッ"と跳ねる。
『ァァァァァアアッッッ!!!!』
小さな音量でもよく分かる悲鳴が聞こえた。口を大きくあけ、そこから浅く呼吸を繰り返し、体が震えている様子が見える。
最悪の寝起き。
これから本番を迎える地獄。
『おはよう、楜澤くん。──俺が誰だか分かるかな?』
そういう松川の声は明らかに興奮気味で顔は俺を虐めるときと同じ加虐的だ。
目隠しをされ動けない体。楜澤の表情は"混乱"で、まだこの状況を把握出来る状態ではない。
寝る前まで居た鈴木との会話は夢だったのか。あの約束は嘘だったのか……もしかしたらこれが悪い夢なのではないか。
そう考え始めるのは時間の問題。
松川はバケツを床に置き、次に手に持ったのは針だ。刺繍用の針が一番近い。それを二十本ほど。それをどうするかなんて俺は分かってる。何百回と繰り返された虐め──否、拷問は俺の記憶に染み付いてなかなか離れてはくれない。
『俺が誰だか当てられたら、辞めてあげるよ!!』
そう言い、楜澤の体めがけて針が飛んでいく。針の先端がしっかりと楜澤の体に当たるように、刺さるような強さで。
針が当たる度に楜澤は短い悲鳴を出す。"チクッ"と短い痛み。それでこの拷問が現実なのだと認識させられる。何度も何度も何度も………回数を重ねるにつれて意識は覚醒し、痛覚か研ぎ澄まされ、恐怖が倍になっていく。
こんなことをするやつのだいたいの目星はついているのに、言ってしまって、もしその答えが合ってしまっていたら……現実を認めざるを得なくて、"絶望"しか未来にはなくなる。十分後、一時間後、一日後、一週間、一ヶ月、自分がどうなっているのか・理性を保てているのか……最後には"死"の恐怖が見えてしまう。
この恐怖は想像では分からない。
実際にやられた側ではないと──しかし虐められる恐怖が分からないのに、そういう想像が出来てしまう松川は恐怖の存在。
針が投げられるのは二十秒間隔。なげるのならいっその事、一気に投げてもらいたいものを松川はわざと時間を空ける。何が人を陥れやすいのかを分かっている。
半分ほど投げ終わった時に、また松川は問う。
『俺が誰だか……分かったか?』
『…………ヒクッ……………ヒクッ……』
楜澤からは一定間隔の呼吸の音だけだ。
『分からないならしょうがないな。続けるか。』
そう言うと、先程よりも楜澤の近くに来て針を投げていく。
近くて投げられようと遠くからだろうとそこまで痛みは変わらない。ただ精神的な面で苦しくなる。
針はほとんど刺さらない。当たって落ちていく。当たった針は楜澤の両太腿の間の椅子の面や、床に落ちていく。その針は無限ループされる。しかしその針はまた違う形となって楜澤を襲う。
『俺が誰だか分かったら気軽に教えてくれよ。教えてくれたらすぐに辞めてあげるからさぁ。』
落ちている針を拾い上げ、松川はカメラ外からもう一つ椅子を持ってきて、楜澤の右隣に座った。
そして楜澤の右腕を摩る。上下に擦る。
『ヒントあげよっか?』
提案する松川。右腕をさすられ、逃げようと足掻く楜澤。手をいくら動かしても縄のせいで避けられない、
『俺さぁ、人間が痛がってたり、苦しがってたりするのが好きなんだよ。異常者ってよく言われるんだけどさ、これだけはいくら経っても治らなくてさぁ。
どんな薬使っても、精神病院行っても治らねぇんだよ。──でもさぁ。だからさぁ。俺のために犠牲になって欲しいな。まずはこの右腕から!』
"ブスッ?!!"
『……ッッッァァァァアアアアアア!!』
松川は針を思いっきり楜澤の右腕に刺す。針は半分ほど刺さり、楜澤の苦痛に満ちた声が響く。
目隠しのタオルの隙間から涙が落ち、肘と手首の丁度真ん中の針に刺された部分からは血が出てくる。
『そうそう、そう! そう!! その声が堪らなく好きなんだぁ!! 興奮する!
もう一回やっていいかなぁ! それともやめて欲しい? どっちがいいっ! 楜澤 工ぃっ!!!』
『ヒッ……ヒッ……グッ、ハァーッ……』
楜澤は話せる状態ではない。呼吸が乱れ、痛みが脳を支配してしまった。
『返事がないってことは、もう一本やっちゃうよ!』
"ブスッ!!"
『っ、ぁぁぁぁあああ゙あ゙あ゙!!!』
また針が楜澤の右腕に勢いよく突き刺さり、先程よりも悲痛に叫ぶ。
椅子に縛らりつけられた体がかたがたと動き、首輪の役目をする縄が締め付けると呼吸も上手く取れなくなって、頭がくらくらとし始める。
『ガハハハハハハハッッ!!!』
と楜澤の横に座った松川が笑い上げ、裁判長の髪の毛を引っ張る松川はまた興奮したように、ニヤつく。
"ドン!!!"
「エキソン!! この映像を止めろ!! こんな胸糞悪い映像これ以上は見たくない!!」
机を先程よりも大きな音を立てて叩くナズザーリン国王。
しかしエキソンは止める気配を一向に見せない。その間にも楜澤の右腕には針が刺されていき、血で真っ赤になっていく。一本一本刺される毎に、楜澤の叫び声と松川の笑い声が聞こえる。
「止めろと……これは命令だ! 止めろ!!」
そう国王が怒鳴ると、護衛の兵士がエキソンの首に刃を向ける。
「国王様の命令であります。止めてください。」
そう兵士も言うが、エキソンは全く止めようとはしない。ずっと映像から目を離さない。
六回目の悲鳴。松川の笑い声が頂点に達した時、国王も顔を真っ赤にして怒鳴りつけた。
「止めろと言ってるだろうが!!! 儂の言うことが聞けんのかっ!!」
映像の中ではまた松川が楜澤に問い返す。楜澤の顔はもう綺麗ではない。汗か涙か鼻水か唾液かも分からない液体が顔面中ついており、息も不均等だ。
六つの針が右手に刺され、深さは骨まで達していそうなものばかり。血がダラダラと垂れ、見るに堪えない。
この地獄絵図を『狂乱の松川を見せ松川を絶対的悪として裁く証拠』の目的としてこれ以上流すことは充分達成した。ではなぜ、エキソンはこの映像を主の命令に刃向かってまで止めないのか。
その理由がいつもなら冷静沈着に物事を考えられる国王なら分かるはずなのに、今は冷静ではない。だからエキソンはこの映像を止めずに国王に対して返答した。
「陛下。私は陛下に忠誠を誓っております。私だってこんな映像直ぐにでも消してしまいたい………いや、陛下にこんな映像見せたくはありません。
しかしこれは見てもらわなければならないのです。それはマツカワの非道を知らしめるためではない。楜澤の辛さをわかってもらうためでもない。
もう少し冷静になってご覧いただけないでしょうか。」
首元に刃を向けられた男の言う台詞じゃない。国王の方を向き真っ直ぐな眼差し。"真の忠誠"と"確固たる意思"だ。
王への信頼。
それを受け取った国王は静かに席に座り、また映像を見始める。
六本の針を刺されたあと、楜澤は浅い息を繰り返し、整えながら言葉を紡ぎ始める。
『……ぁー……ま、まつかわくん……ぼくはしって、い、ました。……ぼくが、すずきくんに、じさつのそ……だんに、いったとき……そのあと、すずきくんが、きみのもとに、いったこと………。
わかってたんです。すずき、くんが……どんなたちばに、あってて……ちゆうがくのときも、いまも………でも、ぼくはよわいから………それでいいって。──きにかけてくれるだけで、うれしかった……。
ぼくは……"くるみさわ"の、なかでも、いとわれた、ちちと、しゃかいから……すてられたははのこども。
そしてべんきょうしかできない、ただのまぬけ。
そんなぼくを、みてくれた、すずきくん。……ぼくは、かれに、かんしゃしているんです。……りゆうがあっても、はなしかけてくれた……すずきくん。ぼくはすずきくんに、えらばれた"死"で、しのうとおもいました。』
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