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厄介な幹部たち
しおりを挟む「朝から辛気臭いのぉ。」
その声に眉間に皺を寄せるとふにっと柔らかいものをこれでもかと頭を二つの大きく柔らかな双丘で包む。勘弁してくださいと思いつつ見上げるとぷっくりとした薔薇色の唇で弧を描き、私の頭を強引に掴み、自身の胸の谷間に埋める。
「わぷっ、セク…セクハラですよッ!? 」
「セクハラ? お主と妾の仲じゃろう。遠慮するでない。ほーれ、もっと愛しいお主を存分に愛でさせておくれ。」
「うわわっ!! 本気で…、本気でやめてもらっていいでしょうかッ!!? 疲れてるんでこれ以上の面倒事は勘弁し…。」
「愛いのぉ。愛いのぉ。顔を真っ赤にして照れて。本当に食べてしまいたいわ。」
「ちょっと!! 本気でやめてください。これをコタに見られるのだけは絶対に嫌なんですってッ。例え、脈なしでも。」
「ふっふっふ…。いいではないか。いいではないか。」
朝から悩みの種の一つがまた存分にやらかしてくれる。
魔王軍幹部が一人、シャルマン・アンピュルテ。ヴラディア一の魔法の使い手である意味働かないパレスより厄介な相手。幹部の中で一番招集したくない相手だ。
「失礼な。妾はお主にラ・モールよりも深く忠誠を誓い、誰よりも愛しみ誰よりも仕事をしておるぞ。パレスより厄介とは随分な言いようよな。」
………シャルマンの瞳は心を読む魔眼でガウェインさん以上に勝手に人の心を読んでくる。
「えぇい、魔眼の力じゃないわ。愛じゃ、愛。愛が為せる技じゃのう。」
そして、断る事で全てを愛で片付けようとしてくるとても厄介な人だ。
「…本当につれんのぉ。お主は。」
お得意の愛で片付けられず、しょぼんとしつつも一切、頭を胸から離してくれないシャルマン。この人は私がいると会議の時ですらこんな感じで、最早皆、見なかった事にしている。以前の私も諦めていた。
そう前ならそれでも問題はなかった。だが、コタが来た今は困るのだ。ググッと展開した結界で引き剥がそうとするが魔族落ちした元人族の魔女であるこの人は無駄だと言わんばかりの笑顔で魔法を瞬時に解体する。そして更にこれでもかと胸をくっつけて、しまいには「愛い。愛い。」と頬擦りしてくるので無我の境地だ。…お願い、コタ。今だけは帰って来ないで。
「そんな邪険にするでない。妾は一応、元老院のジジイどもに愛しいお主が口で負かされないよう助言しに来たのだ。」
「口で負かされるも何もあのご老人方は私が元ゴブリンってだけで話し合いすらさせてくれないんですけどね。」
「うむ。全くもって腹立たしい事よ。ゴブリンでもお主はこんなにも愛らしいというのに。あのジジイどもの目は腐っておる。」
話し合いを取り合ってくれないのは貴方も同じなんですけどねと溜息を吐きつつ、元老院議長の拒絶の言葉を思い出す。
『魔族こそ至高。仕掛けてくるというのであればその愚かさを死を持って知ればいい。』
そう声を高々に元老院議長が言い切れば、元老院の面々から盛大な拍手が贈られる。その拍手を「どうだ。」と私に見せつけ、元老院議長はほくそ笑む。
『陛下は元は人族如きに遅れを取る弱きゴブリンの種族。人族を恐れるのは仕方のない事ではありますな。』
ゴブリン如きがでしゃばるな。
そう私を映すその瞳に侮蔑の色を浮かべて愚弄し、それ以上の話合いすら拒絶する。
ー 馬鹿馬鹿しい。
私が要求したのは軍事強化は進めつつも魔王と勇者の代理戦争の線でこの戦争を進める事。
勇者が幾ら代理戦争を拒絶しようと。人族の国が幾ら、軍事強化をして仕掛けてこようと。私が勇者に決闘を申し込んだ時点で代理戦争を相手もせざるおえなくなる。
決闘はどの種族でも共通に申し込まれたら受けねばならず、勝利した者が決めた勝利報酬は払わなければならないと古くから定められている。私が決闘を申し込むのを大人しく見ていてくれてれば無駄な争いは別にしなくて済む。多くの血が流れる事もない。
私がカタをつけるから先走るなと釘を刺しているのだが、元老院は取り合わないし、幹部の何人かは人の話を聞かない。そして、唯一の幸せ(コタの寝顔の鑑賞)も今はない。
テーブルに突っ伏したい気分だったが、シャルマンは全く離してくれないし、なんならニッコリと…。
「アヴァリスの奴がお主の部屋の前でそわそわと待機しておったぞ。妾が部屋に入ろうとしたら『ずるい。』と新参者の若造の癖に進路を阻みよったから転移魔法で火口に飛ばしてやったわ。…という訳で奴は今日会議には来んぞ。」
更なる爆弾を投下してくる。
ついでにアヴァリスとは意思疎通の出来ない幹部其のニ。
何時もこちらを尊敬してますと言わんばかりのキラキラした目で見て、自身より古参の幹部を押し退けて隣に座ろうとしてくる。
ここまでは普通に可愛い部下なのだが、何を話しても「さすが陛下。今日も素敵です。」しか返答しない。「私の言いたい事分かりましたか? 」と聞いても同じ返答しか来ないので、私の言葉を理解しているのかかなりあやしい。
ー 癒しが欲しい…。
そう溜息を吐き、顔を覆う。
その癒しを嫌われて当然な事をしているコタに求める事の愚かさは分かってる。でも、癒しが欲しい。
もう一度溜息を吐くと素早く粥をかき込む。
「…はぁ。それで何を助言してくれるんですか。」
しかし、辛くても癒しがなくても元より諦めるという選択肢はない。
泥舟に乗る気持ちで椅子から立ち上がった。
「助言というより提案じゃが、精神魔法で元老院のジジイどもを洗の…。」
「却下です。」
…うん。今日も自力で乗り切ろう。
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