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リアルわたしエクスプレス
其ノ二
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ドアノブを捻って屋上に入ってから、適当な位置に腰を下ろし、来る途中に買ったコーヒー牛乳にストローを突き刺す。屋上は校内の雑踏から解放される唯一の場所で、ここにいると誰に勝っているわけでもないけれど不思議と優越感に浸ることができる。だから蘇芳にとっては居心地がいい。
「おっ、いたいた」
コーヒー牛乳を飲んでいると、いつものように光太郎が姿を見せた。
「元気してるか、屋上の主」
「勝手に変なあだ名つけてんじゃねぇよ」
「悪い、悪い」
光太郎はいつものように蘇芳の隣に座ると、いつものように買ってきたパンの袋を開封する。学校の指導に従っていなくても、結局やっていることはいつも同じで、特に変わり映えがするものでもない。こんな生活にもいつかは終止符を、とは思っているけれど、進みたい方向もいまいち定まらないから、結局現状を続けてしまう。
「でも、藤原ってほんとにブレないよな」
「何が?」
「いや、いつも変わらずここにいるしさ。そのやる気ないスタンスとか絶対に崩さないしさ」
「これはスタンスとかじゃなくて、ガチだから。こっちも苦労してんだよ」
それに、こうして屋上で時間を潰しているのは蘇芳だけじゃないだろう。
「てか、お前も同じじゃねぇか」
「確かに俺も結構さぼってるけどよ、それはここにくれば大抵はお前がいるからって部分が大きい気もしてるんだよな。もし、お前がここにいなくて俺一人だったら、多分早々にこういうこと辞めて、嫌々でも授業に出てるんじゃねぇかなって、最近はちょっと思ったりもする」
らしくもなく真面目に語り始めるもんだから、何となくおかしい。と同時に、光太郎には少なからず仲間意識を抱いていたせいか、彼の言葉には若干だが寂寥感を感じてしまい、それを隠すために知らんふりをした。
「何だそれ」
「流れに逆行するのは大変だってことだよ。まあ、藤原には無縁かもしれないけどな」
楽かどうかよりも、自分がやりたいかどうかだろ、と思ったりもしたが、そういう考えこそが光太郎が言わんとしている所だと気がついて、口を噤んだ。
蘇芳とは違って、波風立てずに生きていくことに精魂つくしている人もいることは分かっているし、むしろそっちが多数派だってことも薄々気がついてはいる。だから、今まで蘇芳の考えを理解してくれる人は少なかったし、今だって友人が少ないのはそのせいでもあるだろう。
そんな事実になんとなくやるせなさもあったけど、ここで吐き出してもどうにもならないから、とりあえずストローを咥えて我慢した。
――ガタン。
背後でドアが開いたのが分かった。予期せぬ来訪者に、最悪のケース(この場合は先生の指導が入ること)が頭を過り、二人は思わず振り返った。
「お、おはようございます」
一瞬走った緊張は、目の前の存在を認めると同時に緩やかに緩和されていく。
大きく丸いくりくりとした相貌が、こちらをじっと見つめている。背丈に合ったブレザータイプの制服をきちんと着こなし、やや内側にカールしたセミロングの頭髪。先生たちからは文句も出ないだろう、清々しい印象を纏っている女生徒。校内でも男子からの受けがいいことは一発で分かる、可愛らしくふわふわとした面構えと大きく実った胸部に自然と目が惹きつけられる。
「そ、そこにいらっしゃるのは、藤原蘇芳さんでございますですますでしょうか?」
緊張しているのか、噛みに噛みまくりなその子は、どうやら蘇芳に用事があるらしい。この時間に屋上に来るには似つかわしくない彼女。面識は全くないし、見覚えもない。珍しいこともあるもんだと思う。
「俺だけど」
そう言って軽く手を上げると、少女は慌てふためきながら蘇芳に視線を向けた。
「実は蘇芳さんにお願いがあってやってきました。蘇芳さん、わ、わたしを弟子にしてください」
懇願するように頭を下げる女生徒。
放たれた言葉は、およそ蘇芳に向けられる類のものとは思えないから、首を傾げてしまったのは必然で、これは面倒なことになったなと、無意識のうちにため息を漏らしてしまった。
「おっ、いたいた」
コーヒー牛乳を飲んでいると、いつものように光太郎が姿を見せた。
「元気してるか、屋上の主」
「勝手に変なあだ名つけてんじゃねぇよ」
「悪い、悪い」
光太郎はいつものように蘇芳の隣に座ると、いつものように買ってきたパンの袋を開封する。学校の指導に従っていなくても、結局やっていることはいつも同じで、特に変わり映えがするものでもない。こんな生活にもいつかは終止符を、とは思っているけれど、進みたい方向もいまいち定まらないから、結局現状を続けてしまう。
「でも、藤原ってほんとにブレないよな」
「何が?」
「いや、いつも変わらずここにいるしさ。そのやる気ないスタンスとか絶対に崩さないしさ」
「これはスタンスとかじゃなくて、ガチだから。こっちも苦労してんだよ」
それに、こうして屋上で時間を潰しているのは蘇芳だけじゃないだろう。
「てか、お前も同じじゃねぇか」
「確かに俺も結構さぼってるけどよ、それはここにくれば大抵はお前がいるからって部分が大きい気もしてるんだよな。もし、お前がここにいなくて俺一人だったら、多分早々にこういうこと辞めて、嫌々でも授業に出てるんじゃねぇかなって、最近はちょっと思ったりもする」
らしくもなく真面目に語り始めるもんだから、何となくおかしい。と同時に、光太郎には少なからず仲間意識を抱いていたせいか、彼の言葉には若干だが寂寥感を感じてしまい、それを隠すために知らんふりをした。
「何だそれ」
「流れに逆行するのは大変だってことだよ。まあ、藤原には無縁かもしれないけどな」
楽かどうかよりも、自分がやりたいかどうかだろ、と思ったりもしたが、そういう考えこそが光太郎が言わんとしている所だと気がついて、口を噤んだ。
蘇芳とは違って、波風立てずに生きていくことに精魂つくしている人もいることは分かっているし、むしろそっちが多数派だってことも薄々気がついてはいる。だから、今まで蘇芳の考えを理解してくれる人は少なかったし、今だって友人が少ないのはそのせいでもあるだろう。
そんな事実になんとなくやるせなさもあったけど、ここで吐き出してもどうにもならないから、とりあえずストローを咥えて我慢した。
――ガタン。
背後でドアが開いたのが分かった。予期せぬ来訪者に、最悪のケース(この場合は先生の指導が入ること)が頭を過り、二人は思わず振り返った。
「お、おはようございます」
一瞬走った緊張は、目の前の存在を認めると同時に緩やかに緩和されていく。
大きく丸いくりくりとした相貌が、こちらをじっと見つめている。背丈に合ったブレザータイプの制服をきちんと着こなし、やや内側にカールしたセミロングの頭髪。先生たちからは文句も出ないだろう、清々しい印象を纏っている女生徒。校内でも男子からの受けがいいことは一発で分かる、可愛らしくふわふわとした面構えと大きく実った胸部に自然と目が惹きつけられる。
「そ、そこにいらっしゃるのは、藤原蘇芳さんでございますですますでしょうか?」
緊張しているのか、噛みに噛みまくりなその子は、どうやら蘇芳に用事があるらしい。この時間に屋上に来るには似つかわしくない彼女。面識は全くないし、見覚えもない。珍しいこともあるもんだと思う。
「俺だけど」
そう言って軽く手を上げると、少女は慌てふためきながら蘇芳に視線を向けた。
「実は蘇芳さんにお願いがあってやってきました。蘇芳さん、わ、わたしを弟子にしてください」
懇願するように頭を下げる女生徒。
放たれた言葉は、およそ蘇芳に向けられる類のものとは思えないから、首を傾げてしまったのは必然で、これは面倒なことになったなと、無意識のうちにため息を漏らしてしまった。
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