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俺が魔法師である意味
2 クリスポーチの中身
しおりを挟む今日俺はどうしてもやっておきたいことがあった。
「クリス、ちょっとポーチ貸して」
「ん?」
俺が何も知らずに収納魔法を付与したクリスのポーチは、あれからずっと役に立ってる…はず。
こっちに戻ってきてから時間停止も付与したから、二つとない便利グッズ……あ、いや、ほかにもいくつかあるや。俺が付与したやつ。ギルマスにも二つ…三つくらい渡した気がするし、クリスポーチ予備が一枚か二枚ある。
……結構作ってたわ、俺。
「またなにかするのか?」
クリスは椅子に座ったまま腰のポーチを外して俺に渡してくれた。
「えーと、整理整頓?」
「は?」
「だって、クリスってば色々突っ込みすぎてるから」
腐りもしなければ傷みもしないけどさ、でも、入れすぎてて何が入ってるのかわからなくなってそうだし、色々カオスな気がするし。
「…別に構わないが、執務室でやるのか?」
「え?うん。……あ、もしかして、邪魔になる?」
…と、クリスの傍らに立つオットーさんと、書類をまとめているザイルさんを交互に見た。
「問題ありません。むしろいてください」
「ええ。アキラさんがここにいないと、殿下が脱走しますし」
「だって。二人から許可出たし。マシロだってクリスの傍にいたいよね?」
「う?」
俺の足元でズボンを握りしめてたマシロが、こてんと首を傾げて俺を見た。
「ましろね、あきと、っしょがいい。うぃす、いなぃ」
「あー……」
そこはお世辞でいいから、「そうだね!」と言ってほしかったけど、マシロにわかるわけもなかった。いない…いらない?とまで言われちゃったよ……。
あはは…とごまかし笑いをしたら、ザイルさんが吹き出すし。
「ほら、俺もクリスと一緒の部屋のほうがいいし!何かあったらすぐ聞けるから!」
「アキ」
苦笑したクリスが俺に手招きするから、ポーチを握りしめたまま近づいたら、ちゅって音を立てて額にキスをされた。
「クリスっ」
「ここでやるのは構わない。いるのはこの二人だけだしな。俺も、アキが視界に入るところにいてくれると安心できる」
「うう…」
恥ずかしいけど、嬉しい。
「ちゅう?ぃの?」
俺の足元でマシロが滅茶苦茶ズボンを引っ張って『自分も!』アピールしてるけど、いやいや、駄目だから。目の前で普通にキスされたけど、駄目だから。
「ちゅうは、だめ」
「ういす、した」
むむーと口を尖らせたマシロは可愛いけど、駄目なものは駄目。
「こっちのテーブル使うね」
「ああ」
ポーチを握りしめて、片手はマシロと手を繋いで、ソファに腰掛ける。
「あき!」
座った途端、にこにこのマシロが俺の頬にちゅうをした。
「マシロ……」
「あき、しゅき」
自分でちゅうをしてきて、きゃあと喜んで俺にしがみつく。可愛い。可愛いけど、ちゅうは駄目だってば……。
「……っ、そりゃ、殿下があれだけところ構わずなんですからっ、マシロだってしていいんだって思いますよ……っ」
「ザイルさん……」
目に涙をためながら笑うザイルさん。
……ああ、もう。マシロの前にクリスを教育し直さねばならないのか、俺。……無理だな。無理だよね?絶対無理。
溜息しかでてこないけど、マシロが嫌いなわけじゃないからね…のつもりで、マシロをぎゅっと抱きしめる。
マシロもによによしてるから、問題なさそう。
「マシロ、こっちに座って。いい?手を出したらだめだからね?」
「う!」
俺の隣に座り直したマシロは、手を膝の上で握る。……手を出さないための姿勢だ……。賢い……うちの子。
ザイルさんはいつの間にやらお茶を用意していて、執務机にクリスとオットーさんの分を置いて、応接テーブルの上に俺とザイルさんの分を置いて、マシロの前には持ちやすそうなグラスというかマグカップみたいなものをおいた。…いつの間に用意されてたんだろう。
「いただきます」
「ましゅ!」
いいお返事をしたマシロだけど、手を膝の上で握りしめてることに気づいて、手と、俺の顔と、マグカップを順番に見て少し悲しい顔をした。
「う…」
手を出さないでねって言っからね……。
「マシロ、カップはいいよ」
「う!」
許可がでた!って勢いで笑顔になったマシロが、カップを手に持って飲み始めた。
「マシロ……可愛すぎます……」
とにかくザイルさんのツボに入ったらしく、とにかくずっと笑いっぱなしのザイルさん。うんうん。いいです。いいですよ。たくさん笑ってください。
さて。
お茶も飲んだし、気を取り直してポーチの中身整理だ。
特に深く考えずにポーチの中に手を入れて取り出してみたら、口の閉じた紙袋。見慣れたそれにマシロの目がキラキラし始めた。
「ぁんまぃの!」
「うん。お菓子だね」
俺の好きなやつ。口の中で溶ける焼き菓子。あれか。お茶請けがほしいなぁとか、無意識に思ったんだろうか。
「ぃい?あむして、ぃい?」
「たくさんは駄目だよ」
「ぁい!」
袋を渡したらマシロは大事そうに抱えてそっと口を開いた。小さな手で小さなお菓子をつまみ上げて口に入れて、ん~!って嬉しそうに足をばたばたしてる。
わかる。わかるよその気持ち。
俺も好きだから。
そんなふうにほっこりしながら手についたものを取り出したんだけど。
「……あ、れ?」
似たような袋がもう一つ。
てか、同じものだ。
それから、また一つ。
それからまた。
それから…。
「っぱぁい!」
「……」
テーブルの上に。同じ紙袋が九袋並んだ。マシロが持ってるものを含めれば十袋。
これは、一体。
「………クリス?なに、これ」
「いや……、アキが好きな菓子だから、なくならないように、と……」
傍らのオットーさんが、やれやれ…って感じで肩をすくめた。
好きだけど、好きだけどさ!
「限度ってものがあるでしょ……っ」
「……すまない」
やっぱりクリスの教育から始めよう!!
*****
クリスポーチの中身は次回も。
本当にやばいのはお菓子じゃない。
そのことに気づかないアキ……。
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