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私が淡い期待を持ちながらも楽しみに抽選発表を待っている時、私には想像もできないことが起きていた。
「ねぇ、八代さん」
オアシスの打ち合わせ室で年明けの配信の打ち合わせが終わり、部屋に残っていたケイとマネージャーの八代。
「なんだい、ケイ」
年上の分だけ顔のシワのホリは深いけれど、配信者のケイと並んでもスタイルもルックスも遜色ない八代が片付けをしている手を止めずに返事を返す。声も渋くてかっこよく、男でアイドル配信者のケイですら時々ドキッとしている。
「だいぶ、集まった?」
「何がだ?」
ケイはそっけない顔をしながら天井を見上げて黙っている。そんなケイをチラッと見てフッと笑う八代。
「お前がナンバーワンだ」
「ふーん、そっか」
そう言ってカバンからスマホを取り出し、いじり出すケイ。自分が一番好きなアップテンポの持ち歌「ハルソラ」を鼻歌で歌い出した。
「ほら、行くぞ」
片付け終わった八代が荷物をまとめ、ケイのそばに立つ。
「早めにちょうだいね? 30通」
ケイがポーチを肩にかけ立ち上がる。
「渡すのは10通だ」
「えっ」
「7人はこっちで選ぶ。それとその7人と話す時用に落選の3通はクセの強いのを選ぶから、ちゃんと10人のプロフィールを頭に叩き込んでおいてくれ。ボロを出すなよ? スーパーアイドル」
八代は後ろからケイの肩に手を添え退室を促すがケイは動く気はない。
「・・・・・・ケイ」
「いやいや! 八代さん。ファンを裏切っちゃいけないでしょ」
「裏切っちゃいないさ、お前は。やるのはファンのいないオレたちだ」
「もしかして・・・・・・八百長じゃないの」
ケイは八代の腕を振り払い、八代の二の腕をガシッと掴む。
「・・・・・・」
「ねぇ、答えてよ。八代さん」
「・・・・・・」
「ちゃんと、スタッフで全部に目を通すんだよね?」
「・・・・・・」
「ねぇってば!」
「お前のファンは多すぎる。とてもじゃないが無理だ」
目を逸らしながら八代は答えた。
「なんでだよ・・・・・・なんで・・・・・・」
ケイは項垂れる。八代はケイの腕を優しく払い、ケイを抱きしめる。
「お前がファンを大事にしているのはよく分かっている」
「スタッフさんが大変ならボクが」
「ケイっ」
今度は八代が抱きしめた腕をほどき、ケイの二の腕を握る。
「お前は次の打ち合わせがあるだろ?」
「移動時間なら・・・・・・」
八代は歯がゆい顔をする。八代だってケイの言うことを尊重したかった。けれど、目の前には虚ろな目をしているケイがいる。目には少し疲れが出ていた。
「昔みたいに一人ひとりの名前を覚えてなんてできる人数じゃない、分かるだろ? 人気が出たら、その分色んな方法でファンの手の届くように頑張る。人気に応じて頑張ることを変えてかなきゃいけない。それがアイドルだ」
その言葉にケイは悔しそうに両手の拳を振るわせた。
「ねぇ、八代さん」
オアシスの打ち合わせ室で年明けの配信の打ち合わせが終わり、部屋に残っていたケイとマネージャーの八代。
「なんだい、ケイ」
年上の分だけ顔のシワのホリは深いけれど、配信者のケイと並んでもスタイルもルックスも遜色ない八代が片付けをしている手を止めずに返事を返す。声も渋くてかっこよく、男でアイドル配信者のケイですら時々ドキッとしている。
「だいぶ、集まった?」
「何がだ?」
ケイはそっけない顔をしながら天井を見上げて黙っている。そんなケイをチラッと見てフッと笑う八代。
「お前がナンバーワンだ」
「ふーん、そっか」
そう言ってカバンからスマホを取り出し、いじり出すケイ。自分が一番好きなアップテンポの持ち歌「ハルソラ」を鼻歌で歌い出した。
「ほら、行くぞ」
片付け終わった八代が荷物をまとめ、ケイのそばに立つ。
「早めにちょうだいね? 30通」
ケイがポーチを肩にかけ立ち上がる。
「渡すのは10通だ」
「えっ」
「7人はこっちで選ぶ。それとその7人と話す時用に落選の3通はクセの強いのを選ぶから、ちゃんと10人のプロフィールを頭に叩き込んでおいてくれ。ボロを出すなよ? スーパーアイドル」
八代は後ろからケイの肩に手を添え退室を促すがケイは動く気はない。
「・・・・・・ケイ」
「いやいや! 八代さん。ファンを裏切っちゃいけないでしょ」
「裏切っちゃいないさ、お前は。やるのはファンのいないオレたちだ」
「もしかして・・・・・・八百長じゃないの」
ケイは八代の腕を振り払い、八代の二の腕をガシッと掴む。
「・・・・・・」
「ねぇ、答えてよ。八代さん」
「・・・・・・」
「ちゃんと、スタッフで全部に目を通すんだよね?」
「・・・・・・」
「ねぇってば!」
「お前のファンは多すぎる。とてもじゃないが無理だ」
目を逸らしながら八代は答えた。
「なんでだよ・・・・・・なんで・・・・・・」
ケイは項垂れる。八代はケイの腕を優しく払い、ケイを抱きしめる。
「お前がファンを大事にしているのはよく分かっている」
「スタッフさんが大変ならボクが」
「ケイっ」
今度は八代が抱きしめた腕をほどき、ケイの二の腕を握る。
「お前は次の打ち合わせがあるだろ?」
「移動時間なら・・・・・・」
八代は歯がゆい顔をする。八代だってケイの言うことを尊重したかった。けれど、目の前には虚ろな目をしているケイがいる。目には少し疲れが出ていた。
「昔みたいに一人ひとりの名前を覚えてなんてできる人数じゃない、分かるだろ? 人気が出たら、その分色んな方法でファンの手の届くように頑張る。人気に応じて頑張ることを変えてかなきゃいけない。それがアイドルだ」
その言葉にケイは悔しそうに両手の拳を振るわせた。
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