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第一部
跳び族での日々 6
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「黒族の掟だ。七部族の上に立つだけの強さの証明が次期族長には必要なのだ。だから、あの谷で二晩を過ごし無事に生還できた者だけが族長となる資格を得る」
掟という言葉で片付けられる命の扱い。ずっと釈然としなかった周囲の反応への正体に気が付いて、レフラがギュッと拳を握った。
御饌という定めの下に、レフラとしての存在を見て貰えない自分の姿が重なっていく。
(もしかしたら、ギガイ様も同じなのだろうか…)
フッと浮かんだ考えだった。だが相手は最強種族とい言われるあの黒族の長子なのだ。最弱種族と侮られる自分と同じな訳がない。レフラはそんな考えに陥った自分が少し恥ずかしかった。
「生還できなかったらどうなるんです?」
イシュカの言葉に問題はそこなのだ、と集まった一同が首を振る。案じているのはギガイの身についてではない。
「万が一にでもギガイ様が倒れてしまったなら、御饌を対価とする庇護は現在の黒族長であるヴァレクト様が覇権を握られている間になる」
「お前達は御饌の庇護を失う事となるのだから、その際は心しておけ」
イシュカの目がレフラの方をちらっと見る。その表情が何を思っているのかは分からない。ただ唇を引き結ぶように話しを聞いていたイシュカがレグシスへ真っ直ぐな目を向けていた。
「そう成ったとして何が問題なのですか!俺たちだって日々鍛錬はしております!!」
声には隠しようもない悔しさ。他種族の力を当てにするしかない生き方に、この跳び族を背負う誇りを持った弟が納得していない事が伝わった。
「イシュカ、お前はまだ若く物を知らなさすぎる。勇敢であろうとする事は良いが、一歩間違えれば無謀でしかない。子どもでいる時期はそろそろ終わりだ」
これ以上の反論は子どもの駄々と捉えられる可能性があるせいか、諫めるようなレグシスの声にイシュカがムスッとした表情で黙り込んだ。
「イシュカもレフラもよく肝に銘じておけ。お前達の志がどうであろうと、私たち跳び族は黒族の庇護無しには今の安寧を保つ事さえ難しい。だからこそ御饌の庇護は最も重要な事なのだ。その事を心に刻んで、イシュカは庇護を失った時の万が一への備えを、レフラは庇護を得るための最大限の務めを果たせ。特にレフラ、お前の有り様は一族の存続に関わるのだからな。分かったな」
性徴の事を暗に告げられているのだろう。イシュカを除いた全員が、同じような目をレフラの方へ向けていた。
頷く以外に許されない空気の中だった。だが、存続がかかると言われた言葉が、今日はいつもより重たかった。
(そうか、御饌として一族を守るのか……)
さんざん言われていた言葉が意味を持ってレフラの心に落ちてくる。
何がきっかけだったのかはレフラ自身も分からなかった。幼子を抜けた心の成長なのか。意識を向けられずに誰かの背中だけを見つめる日々の疲れなのか。もしかしたら、御饌として当然嫁ぐと思っていたギガイの死を、可能性だろうと初めて意識したせいかもしれない。
それでもレフラへ降りかかった定めが初めて、レフラを支える矜持となった瞬間だった。
掟という言葉で片付けられる命の扱い。ずっと釈然としなかった周囲の反応への正体に気が付いて、レフラがギュッと拳を握った。
御饌という定めの下に、レフラとしての存在を見て貰えない自分の姿が重なっていく。
(もしかしたら、ギガイ様も同じなのだろうか…)
フッと浮かんだ考えだった。だが相手は最強種族とい言われるあの黒族の長子なのだ。最弱種族と侮られる自分と同じな訳がない。レフラはそんな考えに陥った自分が少し恥ずかしかった。
「生還できなかったらどうなるんです?」
イシュカの言葉に問題はそこなのだ、と集まった一同が首を振る。案じているのはギガイの身についてではない。
「万が一にでもギガイ様が倒れてしまったなら、御饌を対価とする庇護は現在の黒族長であるヴァレクト様が覇権を握られている間になる」
「お前達は御饌の庇護を失う事となるのだから、その際は心しておけ」
イシュカの目がレフラの方をちらっと見る。その表情が何を思っているのかは分からない。ただ唇を引き結ぶように話しを聞いていたイシュカがレグシスへ真っ直ぐな目を向けていた。
「そう成ったとして何が問題なのですか!俺たちだって日々鍛錬はしております!!」
声には隠しようもない悔しさ。他種族の力を当てにするしかない生き方に、この跳び族を背負う誇りを持った弟が納得していない事が伝わった。
「イシュカ、お前はまだ若く物を知らなさすぎる。勇敢であろうとする事は良いが、一歩間違えれば無謀でしかない。子どもでいる時期はそろそろ終わりだ」
これ以上の反論は子どもの駄々と捉えられる可能性があるせいか、諫めるようなレグシスの声にイシュカがムスッとした表情で黙り込んだ。
「イシュカもレフラもよく肝に銘じておけ。お前達の志がどうであろうと、私たち跳び族は黒族の庇護無しには今の安寧を保つ事さえ難しい。だからこそ御饌の庇護は最も重要な事なのだ。その事を心に刻んで、イシュカは庇護を失った時の万が一への備えを、レフラは庇護を得るための最大限の務めを果たせ。特にレフラ、お前の有り様は一族の存続に関わるのだからな。分かったな」
性徴の事を暗に告げられているのだろう。イシュカを除いた全員が、同じような目をレフラの方へ向けていた。
頷く以外に許されない空気の中だった。だが、存続がかかると言われた言葉が、今日はいつもより重たかった。
(そうか、御饌として一族を守るのか……)
さんざん言われていた言葉が意味を持ってレフラの心に落ちてくる。
何がきっかけだったのかはレフラ自身も分からなかった。幼子を抜けた心の成長なのか。意識を向けられずに誰かの背中だけを見つめる日々の疲れなのか。もしかしたら、御饌として当然嫁ぐと思っていたギガイの死を、可能性だろうと初めて意識したせいかもしれない。
それでもレフラへ降りかかった定めが初めて、レフラを支える矜持となった瞬間だった。
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