泡沫のゆりかご 一部・番外編 ~獣王の溺愛~

丹砂 (あかさ)

文字の大きさ
83 / 229
第一部

跳び族での日々 8

しおりを挟む
夜中には一層増した痛みにレフラは小さく唸りを上げた。ヘソよりも掌の分だけ下がった位置。その場所の奥がズキズキと鈍い痛みを訴えていた。

(やっぱりどこか悪いのかもしれない……)

今となっては日中に逃げ出すように医癒者の所を去ってしまった事が悔やまれる。ちゃんと身体を見て貰うべきだったのだ。

レフラは恐る恐る寝台から身体を起こした。それだけでも鈍い痛みに蹲りたくなる。でも少しでも動ける内にどうにかするしかない。

痛む場所へ手を添えて立ち上がれば、さらに増した痛みで思わず低い唸りを上げてしまう。でも今は真夜中なのだ。隣の部屋では兄弟達が、今日の疲れを明日へ持ち越さないよう休んでいる。レフラは唇を噛んで声を殺した。

フラフラと壁に手をついて外に出る。柵に手を付き、木に身体を支えながら、どうにか医癒者の小屋まで辿り着いた時には、身体は嫌な汗で冷たく濡れていた。

日中に運び込まれたイシュカの為なのか、小屋にはわずかな光りが灯っていた。

「誰か居るのか?」

運良く扉の開閉に気が付いて貰えたのだろう。ようやく辿り着けた安堵からか、入口でズルズルと座り込んでしまったレフラの耳に奥から誰かがやってくる音が聞こえてくる。

「レフラ、どうした!?」

噛み殺せない自分の唸り声に混ざって、医癒者の声が上から聞こえてきた。

「おい、すまない。来てくれ」

他にも看護手伝いの女性達や、イシュカに付き添っていた者が何名か居たのかもしれない。医癒者の顰め声での呼びかけに、さらに奥から数人の足音が聞こえてきた。

痛みの中で朦朧とするレフラの身体が運ばれる。イシュカの眠る寝台とは逆の方へだった事に、レフラは少しだけ安堵した。

痛む箇所を触診され、唾液の分泌を調べるという葉を含まされる。痛みを堪えながらの数分間は、酷く長く感じられた。

「そろそろ良いな、見せてみろ」

咥えていた葉を取り出した医癒者が、明かりの側で様子を確認する。跳び族にだけ密やかに受け継がれてきたという薬草は、緑一色だった葉がわずかに赤紫がかっていた。紫蘇を思わせるようなその色が、何かの結果を示していると言う事だ。

「あぁ、なるほど。これは性徴による痛みだな。レフラお前の身体の中に、胎が形成されようとしているって事だ。ほらここが赤いだろ。これは子を成す事ができる者の唾液にだけ反応してこう成るからな」

痛む箇所を指しながら説明する医癒者の顔には、ハッキリと安堵の表情が浮かんでいた。

「ただお前の場合は男性体の性徴も備わってしまった状況から、普通の女性体のような形成ができなかったんだろう。ただでさえ胎の形成時は陣痛のような痛みが生じるが、お前の場合は通常と違う状態での形成と成るせいでさらに痛みが強いのかもしれないな」

事態についていけないレフラの耳を医癒者の言葉が滑っていく。ただ胎が出来るのだと、そう言われた事だけはかろうじて理解は出来ていた。
しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...