160 / 229
第一部
揺れる足元 13
しおりを挟む
「ギガイ様は今まで耕したことはあるんですか?」
「あぁ、幼少の頃に散々な。確か剣を振るうための筋力を付けるため、とかだったか」
横に立ったレフラの視線がこちらの方へ向いているのを感じていた。その視線を受けながら、ギガイは遠い日々を思い出すように、少しだけ視線を遠くへ投げる。
怜悧な頭脳が即座に思い出した過去の日々は、目の前の光景のように細部まで思い出せながらもどこか色がくすんでいるようだった。
物心付いた頃にはすでに剣を握っていた。
そして剣を握る頃にはすでに身体を作るような鍛錬も体術も当たり前となっている日々だった。
自分がいつ歩き出したのか分からないのと同じように、その鍛錬等がいつから始まったのか、それはギガイ自身も分からなかった。
ただすでに気が付いた頃には自分で狩りをして作物を手に入れなければ、飢えることさえあったことを覚えている。
「……ギガイ様」
そばから聞こえたレフラの声に、どこか遠くを見ていた視線を斜め下へと引き戻す。レフラがギガイの手を改めて掬い上げ、指先で掌をなぞっていた。
「その時からずっと頑張っているんですね」
固くなった手の皮の下に、その当時の柔い皮膚があるとでも言うかのように、レフラが掌に唇を落として頬を寄せた。
「まぁ、あの当時は生きるために必要だっただけだ」
今のレフラのように何かを成し遂げたいと思っていたわけでもなく、思い出と呼べるような感慨深いものでもない。ただ生きぬくだけだった日々の記憶に苦笑して、そのままレフラの頬をスルリと撫でた。
「それでもです。必要だったのだとしても、その時の努力も苦しみも消えるわけではございません」
心が消えるわけではないのだから…、と呟いた小さな声は聞かせるつもりはなかったのかもしれない。
「もともとやらざる得ないことなのだと、その頃のギガイ様の努力をギガイ様自身も誰も認めて差し上げないのならそれでも良いです。私だけでもそうします!」
その言葉にギガイが吹き出すように笑い出す。
「こんな所でお前に褒められるのなら、あながちあの日々も無駄でもなかったな」
「ほ、褒めるだなんて」
「なんだ褒めてくれたわけではないのか?」
クツクツと笑いながら視線を彷徨わせていたレフラの顔を覗き込む。戸惑うように上げられたレフラの手が、キュッとギガイの頭を抱え込んだ。
「そんな頃からずっと頑張っていてすごいと思います。それに何でもできちゃう所もすごいです」
耳元で聞こえた声は風にかき消えそうなぐらい小さかった。
チュッとこめかみにキスが落とされて、レフラが恥ずかしそうに離れて鍬を振るい始める。
3人が戻ってきた頃には顔を真っ赤にしながら懸命に耕すレフラと、機嫌良さそうにクククッと笑うギガイの姿がそこにはあった。そんな姿に呆気に取られているのだろう。
「そろそろ戻るが、明日にでも訓練用の剣を1本準備しろ。お前らは自分の剣を持ってこい」
ようやく我に返った3人の焦った返答が聞こえてきたのは、レフラの頭をひと撫でしてギガイが完全に背中を向けて歩き出した後だった。
「あぁ、幼少の頃に散々な。確か剣を振るうための筋力を付けるため、とかだったか」
横に立ったレフラの視線がこちらの方へ向いているのを感じていた。その視線を受けながら、ギガイは遠い日々を思い出すように、少しだけ視線を遠くへ投げる。
怜悧な頭脳が即座に思い出した過去の日々は、目の前の光景のように細部まで思い出せながらもどこか色がくすんでいるようだった。
物心付いた頃にはすでに剣を握っていた。
そして剣を握る頃にはすでに身体を作るような鍛錬も体術も当たり前となっている日々だった。
自分がいつ歩き出したのか分からないのと同じように、その鍛錬等がいつから始まったのか、それはギガイ自身も分からなかった。
ただすでに気が付いた頃には自分で狩りをして作物を手に入れなければ、飢えることさえあったことを覚えている。
「……ギガイ様」
そばから聞こえたレフラの声に、どこか遠くを見ていた視線を斜め下へと引き戻す。レフラがギガイの手を改めて掬い上げ、指先で掌をなぞっていた。
「その時からずっと頑張っているんですね」
固くなった手の皮の下に、その当時の柔い皮膚があるとでも言うかのように、レフラが掌に唇を落として頬を寄せた。
「まぁ、あの当時は生きるために必要だっただけだ」
今のレフラのように何かを成し遂げたいと思っていたわけでもなく、思い出と呼べるような感慨深いものでもない。ただ生きぬくだけだった日々の記憶に苦笑して、そのままレフラの頬をスルリと撫でた。
「それでもです。必要だったのだとしても、その時の努力も苦しみも消えるわけではございません」
心が消えるわけではないのだから…、と呟いた小さな声は聞かせるつもりはなかったのかもしれない。
「もともとやらざる得ないことなのだと、その頃のギガイ様の努力をギガイ様自身も誰も認めて差し上げないのならそれでも良いです。私だけでもそうします!」
その言葉にギガイが吹き出すように笑い出す。
「こんな所でお前に褒められるのなら、あながちあの日々も無駄でもなかったな」
「ほ、褒めるだなんて」
「なんだ褒めてくれたわけではないのか?」
クツクツと笑いながら視線を彷徨わせていたレフラの顔を覗き込む。戸惑うように上げられたレフラの手が、キュッとギガイの頭を抱え込んだ。
「そんな頃からずっと頑張っていてすごいと思います。それに何でもできちゃう所もすごいです」
耳元で聞こえた声は風にかき消えそうなぐらい小さかった。
チュッとこめかみにキスが落とされて、レフラが恥ずかしそうに離れて鍬を振るい始める。
3人が戻ってきた頃には顔を真っ赤にしながら懸命に耕すレフラと、機嫌良さそうにクククッと笑うギガイの姿がそこにはあった。そんな姿に呆気に取られているのだろう。
「そろそろ戻るが、明日にでも訓練用の剣を1本準備しろ。お前らは自分の剣を持ってこい」
ようやく我に返った3人の焦った返答が聞こえてきたのは、レフラの頭をひと撫でしてギガイが完全に背中を向けて歩き出した後だった。
14
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる