183 / 229
幕間
直後の2人 4
しおりを挟む
雨の音が聞こえていた。
広すぎる寝台の上に転がる影は、寝台のサイズに合わない1つだけだった。眠ることもできないまま小さな物音を聞き続けてもう何時間が経っただろう。祭りの前で日に日に多忙になっているギガイの戻りはまだなかった。
「寒い…な……」
雨で少し気温が落ちたのか、部屋を満たす空気に思わず身体がフルッと小さく震えた。だけどいまは、その身体を温めてくれる温もりも、レフラの声を受け止めてくれる人もいないのだ。レフラの呟いた声がそのまま夜の空気に溶けていく。
誰もいない寝台の上を見たくなくて、ベッドの端に横になって反対側へ背を向ける。だからといって抱き寄せてくれる腕は存在しないままなのだから。ごまかしきれない独りの寂しさに、レフラがギュッと枕の端を握り締めた。
抱き寄せてくれる温もりを感じない夜は、もう今日で13回目の夜になる。
始めの3日間は拒絶したのはレフラの方だった。
『ただ寝ているだけだ、負担はない』
いくらそう言われても傷に間違えて触れる可能性もある状況なのだ。それなのに。
「また大丈夫だ、ってギガイ様が仰るから……」
どうして自分の身体をこうも大切にしてくれないのかと、腹が立ってしまっていた。だから抱き寄せようとされる度に『絶対にイヤです!』とレフラは逃げ回ってしまったのだ。
そんなレフラへ向けられたギガイの顔は、ひどく不満そうな表情だった。だけど最近ではただでさえ少ない睡眠時間をこんなことで消費できないと思ったのか、最期は『しかたない……』とギガイが諦めて別々に眠ることを繰り返していた。
そんな状態で迎えた4日目の夜には、ついにギガイも諦めたのだろう。警戒して見つめるレフラに溜息を吐いて、抱き寄せようとせずにレフラのそばに横たわったのだ。
『ほら、お前も早く眠れ』
ギガイの戻りを待っていたせいで夜はだいぶ更けていた。そう言いながら伸ばされた腕に、一瞬ビクッと警戒をしたレフラへギガイが少し不快そうな表情を浮かべていた。
『お前が望まないことを無理にはせん。そう警戒されるとさすがに不快だぞ』
そのままレフラの頭をクシャッと撫でたギガイに、さすがにやりすぎたとレフラも思ったのだ。
『申し訳ございません……』
『まぁ、これまでのこともあってだろうからお前だけを責められもしないがな。だが覚えておけ。お前が望まないことはもう二度と無理強いはしない。だからそう警戒するな』
苦笑と一緒にもう一度レフラの頭を撫でたギガイがくるりとレフラへ背中を向けた。
『ギガイ様?』
『こっちの方がお前も安心だろう。もう遅い、さっさと眠れ』
そのまま背を向けてギガイが眠り始めてしまう。正面からギガイに抱き締められることが多かったレフラがギガイの背中をこんな近距離で見つめたことはほとんどなかった。そんな見慣れていないギガイの背中に戸惑いながら、レフラもその日は眠りに落ちていった。
そしてそんな状況が今日までずっと続いているのだ。
「お話しされる時の声も、髪を結ってくださる手も変わらないし、目だって蜂蜜色のままだったのに……」
だからこそ、そんな体勢で眠りにつくようになったギガイの背中に戸惑いながらも、ケガが癒えていない間は落ち着いていられたのだ。
「それなのになんで……」
そろそろ傷も癒えてきたはずの今でも、なぜか眠る体勢には変わりがないのだ。ケガを理由とした状況のはずだったから回復した途端にいままでみたいに求められるのだと思っていた。それなのにいっこうにギガイから求められる様子はないままだった。
こんな状況は始めてで、レフラにはどうして良いのかが分からない。今まで求めてくれたのはずっとギガイの方からだったから、自分から求めることがこんなに難しくて怖いことだなんて思ったことさえなかったのだ。
それを感情的に拒絶してしまったことが、いまでは申し訳なくてしかたなかった。
「ギガイ様はすごいな……」
ずっと求め続けてくれたことも、何度も拒絶されながらも手を伸ばして、それでもレフラ自身を優先すると苦笑していたことも、レフラにはなかなかできそうにない。
レフラは握り締めていたマクラにポスッと顔を埋めた。
「……さみしい、な…」
マクラに吸い込ませたその声は、くぐもってハッキリとした音にはなっていなかった。
今までさんざん拒否をし続けたのが自分だと思えば、少し寂しくなったからといってすり寄ることはためらわれてしまうのだ。
そんな中ようやく聞こえた扉を開閉する物音に、レフラは慌てて目を閉じた。
広すぎる寝台の上に転がる影は、寝台のサイズに合わない1つだけだった。眠ることもできないまま小さな物音を聞き続けてもう何時間が経っただろう。祭りの前で日に日に多忙になっているギガイの戻りはまだなかった。
「寒い…な……」
雨で少し気温が落ちたのか、部屋を満たす空気に思わず身体がフルッと小さく震えた。だけどいまは、その身体を温めてくれる温もりも、レフラの声を受け止めてくれる人もいないのだ。レフラの呟いた声がそのまま夜の空気に溶けていく。
誰もいない寝台の上を見たくなくて、ベッドの端に横になって反対側へ背を向ける。だからといって抱き寄せてくれる腕は存在しないままなのだから。ごまかしきれない独りの寂しさに、レフラがギュッと枕の端を握り締めた。
抱き寄せてくれる温もりを感じない夜は、もう今日で13回目の夜になる。
始めの3日間は拒絶したのはレフラの方だった。
『ただ寝ているだけだ、負担はない』
いくらそう言われても傷に間違えて触れる可能性もある状況なのだ。それなのに。
「また大丈夫だ、ってギガイ様が仰るから……」
どうして自分の身体をこうも大切にしてくれないのかと、腹が立ってしまっていた。だから抱き寄せようとされる度に『絶対にイヤです!』とレフラは逃げ回ってしまったのだ。
そんなレフラへ向けられたギガイの顔は、ひどく不満そうな表情だった。だけど最近ではただでさえ少ない睡眠時間をこんなことで消費できないと思ったのか、最期は『しかたない……』とギガイが諦めて別々に眠ることを繰り返していた。
そんな状態で迎えた4日目の夜には、ついにギガイも諦めたのだろう。警戒して見つめるレフラに溜息を吐いて、抱き寄せようとせずにレフラのそばに横たわったのだ。
『ほら、お前も早く眠れ』
ギガイの戻りを待っていたせいで夜はだいぶ更けていた。そう言いながら伸ばされた腕に、一瞬ビクッと警戒をしたレフラへギガイが少し不快そうな表情を浮かべていた。
『お前が望まないことを無理にはせん。そう警戒されるとさすがに不快だぞ』
そのままレフラの頭をクシャッと撫でたギガイに、さすがにやりすぎたとレフラも思ったのだ。
『申し訳ございません……』
『まぁ、これまでのこともあってだろうからお前だけを責められもしないがな。だが覚えておけ。お前が望まないことはもう二度と無理強いはしない。だからそう警戒するな』
苦笑と一緒にもう一度レフラの頭を撫でたギガイがくるりとレフラへ背中を向けた。
『ギガイ様?』
『こっちの方がお前も安心だろう。もう遅い、さっさと眠れ』
そのまま背を向けてギガイが眠り始めてしまう。正面からギガイに抱き締められることが多かったレフラがギガイの背中をこんな近距離で見つめたことはほとんどなかった。そんな見慣れていないギガイの背中に戸惑いながら、レフラもその日は眠りに落ちていった。
そしてそんな状況が今日までずっと続いているのだ。
「お話しされる時の声も、髪を結ってくださる手も変わらないし、目だって蜂蜜色のままだったのに……」
だからこそ、そんな体勢で眠りにつくようになったギガイの背中に戸惑いながらも、ケガが癒えていない間は落ち着いていられたのだ。
「それなのになんで……」
そろそろ傷も癒えてきたはずの今でも、なぜか眠る体勢には変わりがないのだ。ケガを理由とした状況のはずだったから回復した途端にいままでみたいに求められるのだと思っていた。それなのにいっこうにギガイから求められる様子はないままだった。
こんな状況は始めてで、レフラにはどうして良いのかが分からない。今まで求めてくれたのはずっとギガイの方からだったから、自分から求めることがこんなに難しくて怖いことだなんて思ったことさえなかったのだ。
それを感情的に拒絶してしまったことが、いまでは申し訳なくてしかたなかった。
「ギガイ様はすごいな……」
ずっと求め続けてくれたことも、何度も拒絶されながらも手を伸ばして、それでもレフラ自身を優先すると苦笑していたことも、レフラにはなかなかできそうにない。
レフラは握り締めていたマクラにポスッと顔を埋めた。
「……さみしい、な…」
マクラに吸い込ませたその声は、くぐもってハッキリとした音にはなっていなかった。
今までさんざん拒否をし続けたのが自分だと思えば、少し寂しくなったからといってすり寄ることはためらわれてしまうのだ。
そんな中ようやく聞こえた扉を開閉する物音に、レフラは慌てて目を閉じた。
20
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる