泡沫のゆりかご 一部・番外編 ~獣王の溺愛~

丹砂 (あかさ)

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幕間

直後の2人 4

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雨の音が聞こえていた。

広すぎる寝台の上に転がる影は、寝台のサイズに合わない1つだけだった。眠ることもできないまま小さな物音を聞き続けてもう何時間が経っただろう。祭りの前で日に日に多忙になっているギガイの戻りはまだなかった。

「寒い…な……」

雨で少し気温が落ちたのか、部屋を満たす空気に思わず身体がフルッと小さく震えた。だけどいまは、その身体を温めてくれる温もりも、レフラの声を受け止めてくれる人もいないのだ。レフラの呟いた声がそのまま夜の空気に溶けていく。

誰もいない寝台の上を見たくなくて、ベッドの端に横になって反対側へ背を向ける。だからといって抱き寄せてくれる腕は存在しないままなのだから。ごまかしきれない独りの寂しさに、レフラがギュッと枕の端を握り締めた。

抱き寄せてくれる温もりを感じない夜は、もう今日で13回目の夜になる。

始めの3日間は拒絶したのはレフラの方だった。

『ただ寝ているだけだ、負担はない』

いくらそう言われても傷に間違えて触れる可能性もある状況なのだ。それなのに。

「また大丈夫だ、ってギガイ様が仰るから……」

どうして自分の身体をこうも大切にしてくれないのかと、腹が立ってしまっていた。だから抱き寄せようとされる度に『絶対にイヤです!』とレフラは逃げ回ってしまったのだ。

そんなレフラへ向けられたギガイの顔は、ひどく不満そうな表情だった。だけど最近ではただでさえ少ない睡眠時間をこんなことで消費できないと思ったのか、最期は『しかたない……』とギガイが諦めて別々に眠ることを繰り返していた。

そんな状態で迎えた4日目の夜には、ついにギガイも諦めたのだろう。警戒して見つめるレフラに溜息を吐いて、抱き寄せようとせずにレフラのそばに横たわったのだ。

『ほら、お前も早く眠れ』

ギガイの戻りを待っていたせいで夜はだいぶ更けていた。そう言いながら伸ばされた腕に、一瞬ビクッと警戒をしたレフラへギガイが少し不快そうな表情を浮かべていた。

『お前が望まないことを無理にはせん。そう警戒されるとさすがに不快だぞ』

そのままレフラの頭をクシャッと撫でたギガイに、さすがにやりすぎたとレフラも思ったのだ。

『申し訳ございません……』

『まぁ、これまでのこともあってだろうからお前だけを責められもしないがな。だが覚えておけ。お前が望まないことはもう二度と無理強いはしない。だからそう警戒するな』

苦笑と一緒にもう一度レフラの頭を撫でたギガイがくるりとレフラへ背中を向けた。

『ギガイ様?』

『こっちの方がお前も安心だろう。もう遅い、さっさと眠れ』

そのまま背を向けてギガイが眠り始めてしまう。正面からギガイに抱き締められることが多かったレフラがギガイの背中をこんな近距離で見つめたことはほとんどなかった。そんな見慣れていないギガイの背中に戸惑いながら、レフラもその日は眠りに落ちていった。

そしてそんな状況が今日までずっと続いているのだ。

「お話しされる時の声も、髪を結ってくださる手も変わらないし、目だって蜂蜜色のままだったのに……」

だからこそ、そんな体勢で眠りにつくようになったギガイの背中に戸惑いながらも、ケガが癒えていない間は落ち着いていられたのだ。

「それなのになんで……」

そろそろ傷も癒えてきたはずの今でも、なぜか眠る体勢には変わりがないのだ。ケガを理由とした状況のはずだったから回復した途端にいままでみたいに求められるのだと思っていた。それなのにいっこうにギガイから求められる様子はないままだった。

こんな状況は始めてで、レフラにはどうして良いのかが分からない。今まで求めてくれたのはずっとギガイの方からだったから、自分から求めることがこんなに難しくて怖いことだなんて思ったことさえなかったのだ。

それを感情的に拒絶してしまったことが、いまでは申し訳なくてしかたなかった。

「ギガイ様はすごいな……」

ずっと求め続けてくれたことも、何度も拒絶されながらも手を伸ばして、それでもレフラ自身を優先すると苦笑していたことも、レフラにはなかなかできそうにない。

レフラは握り締めていたマクラにポスッと顔を埋めた。

「……さみしい、な…」

マクラに吸い込ませたその声は、くぐもってハッキリとした音にはなっていなかった。

今までさんざん拒否をし続けたのが自分だと思えば、少し寂しくなったからといってすり寄ることはためらわれてしまうのだ。

そんな中ようやく聞こえた扉を開閉する物音に、レフラは慌てて目を閉じた。
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