竜王様の専属お世話係になったら、過保護がすぎる件

なの

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第5章 愛されることを知った日 

16:愛された証、愛する覚悟

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朝、柔らかな光がレース越しに差し込む中、響人はゆっくりと目を覚ました。

──温かい。

身体の奥からじんわりと満ちる熱。腕の中には、昨夜何度も名前を呼び、愛を注いでくれた存在の温もりがある。

ふと視線を向ければ、ヴァルトが穏やかな表情で彼を見つめていた。

「……おはよう、響人」

「……起きてたの?」

「お前の寝顔が、可愛すぎて。ずっと見ていたかった」

その一言で、胸がじんと熱を帯びる。

「や、やめて……そういうの朝から反則だってば」

「ふふ、朝だろうと夜だろうと、俺の番は愛おしいな」

少し茶化すような口調に、響人は照れながら顔をそむける。けれど、その頬はほんのり赤く染まっていた。

ヴァルトは腕の中の存在をそっと抱き寄せ、額に唇を落とす。

「昨夜、お前が俺を受け入れてくれたこと……本当に嬉しかった」

「俺も……初めて、あんなふうに心も体も繋がれた気がした」

素直な言葉が、自然と唇からこぼれる。

響人はずっと、「与えられる側」にいた。無償の愛が怖くて、誰かを信じるのが怖くて、自分には価値がないと思い込んでいた。でも、今は──ほんの少しずつでも、与えたいと感じている。

「ねえ、ヴァルト。俺さ、何かしてあげられること……もっと増やしたい」

「ん?」

「番とか、お世話係とか、そういう立場を越えて……ちゃんと、あんたを幸せにしたい。俺なりに、できることを返していきたいんだ」

ヴァルトの目が、すっと細められる。その瞳に宿るのは、深い慈しみと喜び。

「響人……お前はもう十分、俺を救ってくれている。だが――その気持ちが、愛おしい」

ふたりの間に、ふわりと温かな空気が流れた。

***

その日の午後。

響人はふと思い立ち、ヴァルトの鱗の手入れを申し出た。寝室の扉を閉じ、ふたりきりの空間の中で、ヴァルトは静かに竜の姿へと変わる。

黒曜石のように輝く鱗が、胸元から肩、背中へと連なっていく。

その壮麗な姿に、思わず息をのむ。

「……やっぱり綺麗。何度見ても、圧倒される」

「お前の目にそう映るのなら、それは誇りだ。……さあ、触れてくれ」

響人はそっと指を伸ばし、鱗の縁をなぞるように撫でた。ヴァルトの身体が、かすかに震える。

「……気持ちいい?」

「……っ、ああ。……お前の手は、本当に……心まで届く」

ヴァルトの視点から見れば、それは快感以上の意味を持っていた。

かつて、彼にとって鱗とは誇りであり、武器であり、孤独の象徴でもあった。他者に見せるものではなく、触れさせるものでもない。

それなのに今、自分の最も敏感な部位に、響人の手が躊躇なく触れている。

「もっと、撫でてもいい……?」

「もちろんだ。……お前の指先に、俺はすべてを委ねられる」

響人はそっと微笑む。自分にもできることがある。たったひとつでも、あなたの癒しになれるなら、それが嬉しい。

触れて、撫でて、寄り添う時間の中で──ふたりの距離は、さらにひとつ深まっていく。

「……ねえ、ヴァルト」

「ん?」

「好き。……愛してる。ちゃんと、言えるようになったよ、俺」

その瞬間、ヴァルトの目が静かに潤んだ気がした。

「……響人。お前にそう言ってもらえる日が、来るなんて……」

長い命の中で、幾千年という孤独を抱えてきた男にとって、それは奇跡だった。

「俺も、愛してる。心から。……お前を手放すことなんて、もうできない」

「うん。俺も──離れたくない」

ふたりはそっと額を寄せ、そっと目を閉じる。

心も、身体も、今はただ静かに結びついていた。

──愛されること。それは、守られることじゃない。

一緒に在ること、相手のために何かをしたいと願うこと。響人は今、その真の意味を知り始めていた。

それは決して重荷ではなく、共に未来を紡ぐための、温かく優しい決意だった。

 
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