竜王様の専属お世話係になったら、過保護がすぎる件

エピローグ

永遠の誓い（ヴァルト視点）

俺は城のバルコニーに立ち、朝の光に包まれた庭園を見下ろしていた。

響人が温室で植物の世話をしている姿が見える。小さな体を屈めて、丁寧に水をやっている。その仕草の一つ一つが、俺の心を温かくしてくれる。

――あれから一年が過ぎた。

響人がこの世界に来てから、俺の人生は完全に変わった。いや、変わったというより、初めて本当の意味で生きているという実感を得た。

数百年の長い生涯の中で、俺は多くのものを見てきた。戦争、政治的な駆け引き、裏切り、そして孤独。竜王という地位は俺に力を与えたが、同時に深い孤独も与えた。

誰も俺の本当の姿を理解しようとはしなかった。皆、竜王としての俺にしか興味がなかった。

だが、響人は違った。

最初に出会った時、響人の瞳には恐怖があった。それは当然だった。突然異世界に連れてこられ、実験台にされそうになったのだから。

しかし、その恐怖の奥に、俺は何か別のものを見た。諦めではない。絶望でもない。それは――希望だった。

どんなに傷つけられても、どんなに否定されても、響人の心の奥底には小さな希望の光が残っていた。その光に、俺は魅了された。

「面白い」と言ったのは、本心だった。こんなにも純粋で、強い魂を持った人間に出会ったのは初めてだった。

響人を城に連れて帰った時、俺は彼を守りたいと思った。それは同情ではない。この美しい魂を、誰にも汚させたくなかったのだ。

最初の頃、響人は自分を卑下してばかりいた。「俺なんか」「価値がない」そんな言葉を聞くたびに、俺の胸は痛んだ。

誰がこの美しい人にそんな嘘を吹き込んだのか。誰がこの宝石のような魂に傷をつけたのか。

俺は響人の過去を知った時、激しい怒りを覚えた。母親、恋人、会社の同僚――響人を傷つけた全ての人間を、この手で罰してやりたいと思った。

だが、それでは響人の心は癒されない。復讐では響人の傷は治らない。

俺にできることは、響人を愛することだけだった。無条件に、完全に、永遠に愛すること。

響人が初めて笑顔を見せてくれた時、俺の心は歓喜に震えた。響人が初めて「愛してる」と言ってくれた時、俺は生まれて初めて涙を流した。

響人の成長を見守ることが、俺の最大の喜びになった。

自分を否定していた響人が、少しずつ自分の価値を認められるようになった。城の人々に避けられていた響人が、今では皆に愛される存在になった。

そして何より、響人が自分の意思で俺を選んでくれた。この世界で生きていくと決めてくれた。

俺は響人に出会えたことを、心から感謝している。

響人がいなければ、俺はただの孤独な王のままだった。力はあっても、心は空っぽの存在だった。

だが今は違う。俺には愛する人がいる。守るべき人がいる。共に歩む未来がある。

温室から出てきた響人が、俺を見つけ手を振ってくれる。その笑顔は、太陽よりも眩しい。

俺はバルコニーから降りて、響人のもとに向かった。

「おはよう。響人」

「おはよう。ヴァルト」

響人が自然に微笑みかけてくれる。この笑顔を守るためなら、俺は何でもする。

「今日は、何がしたい？」

「ヴァルトが、一緒にいてくれるだけで十分」

響人の言葉に、俺の心が満たされる。

俺たちには、まだまだ長い未来がある。響人は人間だが、俺の魔力で寿命を延ばすことができる。永遠とまではいかなくても、数百年は一緒にいられるだろう。

その間に、俺たちはもっと多くの思い出を作るだろう。喜びも悲しみも、全てを分かち合って。

俺は響人の手を取り、城の中へと向かった。

――響人、俺の最愛の人。
君に出会えたことが、俺の人生で最大の奇跡だった。

これからも永遠に、君だけを愛し続ける。

君が俺の隣で笑っていてくれる限り、俺は何も恐れない。

君こそが、俺の光。俺の希望。俺の全てだ。

――愛している、響人。永遠に。

竜王様の専属お世話係になったら、過保護がすぎる件

完