17 / 45
じゃがいも?こうしてこうやってこうしてやる!6
しおりを挟む
***
「うううう、ぐすっ」
い草を布で包んだだけの枕ともいえない枕は、水分を含むとよけいに青臭い香りがした。ゆづかはそこに顔を押しつけて呻いていた。
「くやしいいいいい」
料理を貶されたのも、あんな風に扱われたのも初めてだった。
いくらリアが悪い奴だったからって、食べ物を粗末にするなんて許せない。
けっこう捏ねる作業って力を使うんだぞ。
300人前の麺を捏ねたのに。
せめてスープ一口でも味わってくれよ。めちゃくちゃ美味しく出来たのに。
今までは自慢のようにネットにアップするだけだったが、今日わたしは、みんなで作る楽しさを知った。
食べてくれる人の顔を見れる喜びを知った。
「一生懸命作ったのにーーーー!!」
「おい!うるさいぞ!」
「いつまで泣いてんだ黙れ!」
叫ぶと隣の牢屋のおじさんにも、見張り役にも怒られてしまう。
「ぐすっ」
わたしは鼻水をすすって泣くのを堪えた。
絶対ぜったいぜーったい!見返してやる。畑だって復活させてみせる。見てなさいよ。わたしには家庭菜園という実績があるんだから。
フェンにわたしのご飯を食べさせて、美味しいって笑わせてみせるわ!
わたしは静な闘志を燃やした。
明日は早朝から、カウルに畑に連れて行ってもらう予定だ。畑は体力を使う。たくさん寝て万全の状態で向かわなければ。
わたしはその晩、悔し泣きをしながら眠りについたのであった。
眠っているとボソボソと声が聞こえた。
石で出来た地下牢は声が響く。
「ーーーさん…」
「どうされたんですか?」
「煩いな。お前らに関係ないだろ。さっさと開けろよ」
「は、はいっ」
見張り役と誰かが話している。
煩いなぁとモゾモゾと寝返りを打って鉄格子に背を向けた。
するとガラガラガラっと背中で音が鳴る。開いたのはわたしがいる場所の格子のようだった。
眠い目を擦りうっすらと瞼を開いたが、この部屋には灯りもないため真っ暗で何も見えない。牢屋の外にある炎の揺らめきが、ゆらりと人影を浮かび上がらせた。
「え、だれ…」
何かあったのかと思い起き上がろうとしたら、首をがっと掴まれてベッドに逆戻りした。
「っあ…!」
掴まれた瞬間、喉がくっつきぐえっと嗚咽がもれる。意識は一気に覚醒し、心臓がドクドクと音を立てた。
(何?!)
「暴れんなよクソ女」
掛けられた低い声には聞き覚えがあった。
(ーーーフェン!!)
「んんんん!!」
身長にだって殆ど変わらない。彼の腕はわたしのそれと大して差はない。なのに、引き離そうとしてもびくともしない。
手と足をバタバタさせるが、お腹の上に乗っていたフェンにさらに押さえつけられてしまった。
首を絞められているようで息苦しい。フェンの手を叩きガリッと引っ掻いたが彼は鬱陶しそうに眉を動かしただけだった。
「ったく、総長であるカウルがなまっちょろいことしてるから……こんな女早く処分しちまえばいいんだ」
首を押さえる力が緩められる。途端に取り込めるようになった酸素に喉がヒューと鳴り、次に吐きそうなほど噎せた。
「ゴホッゴホッゴホッ…ふ、フェン…」
「フェンさん?!な、何を…」
見張り役が駆け込んできた。彼らが持っていた灯りでフェンの顔が浮かび上がる。
わたしを見下ろす目は何の色も灯していなかった。冷たい視線は落ちているゴミを見るようだ。
「うるせぇって、誰も動かないなら俺がやる。早く始末しまったほうが城も平和なんだよ」
フェンは右手をボウッと青白く光らせると、手のひらから腕より長い剣を取り出した。
(!!)
銀の剣身は先の方が太くわん曲していた。灯りの炎を映しオレンジの光を反射する。
「改心したんだか気が狂ったんだかしんないけどさ、このノーティ・ワンの為に役に立ちたいって言うんなら、死んでくんない?」
可愛らしい顔がニヤリと歪んだ。フェンはわたしの顎をつかみ口を塞ぐと、剣先を下に向けて持ち直した。
「まぁ俺も非道じゃないからさ、苦しまないように一瞬であの世に送ってやるよ」
自分を狙う剣先が目の前に迫る。
ガタガタと体が震え、全身から汗が噴き出した。
もう、一回死んでるんです。
なんなら最初、ここがあの世だと思ってたくらいで。
「んんーーーー!!」
わたしは力いっぱいもがいた。
(それ、悪役のセリフだからーーーーっっ!!)
わたしの喉元に向かって振り下ろそうとしたとき、「やめろ!!」という叫び声とともに、フェンの体がわたしの足元の方へふっ飛んだ。
「うううう、ぐすっ」
い草を布で包んだだけの枕ともいえない枕は、水分を含むとよけいに青臭い香りがした。ゆづかはそこに顔を押しつけて呻いていた。
「くやしいいいいい」
料理を貶されたのも、あんな風に扱われたのも初めてだった。
いくらリアが悪い奴だったからって、食べ物を粗末にするなんて許せない。
けっこう捏ねる作業って力を使うんだぞ。
300人前の麺を捏ねたのに。
せめてスープ一口でも味わってくれよ。めちゃくちゃ美味しく出来たのに。
今までは自慢のようにネットにアップするだけだったが、今日わたしは、みんなで作る楽しさを知った。
食べてくれる人の顔を見れる喜びを知った。
「一生懸命作ったのにーーーー!!」
「おい!うるさいぞ!」
「いつまで泣いてんだ黙れ!」
叫ぶと隣の牢屋のおじさんにも、見張り役にも怒られてしまう。
「ぐすっ」
わたしは鼻水をすすって泣くのを堪えた。
絶対ぜったいぜーったい!見返してやる。畑だって復活させてみせる。見てなさいよ。わたしには家庭菜園という実績があるんだから。
フェンにわたしのご飯を食べさせて、美味しいって笑わせてみせるわ!
わたしは静な闘志を燃やした。
明日は早朝から、カウルに畑に連れて行ってもらう予定だ。畑は体力を使う。たくさん寝て万全の状態で向かわなければ。
わたしはその晩、悔し泣きをしながら眠りについたのであった。
眠っているとボソボソと声が聞こえた。
石で出来た地下牢は声が響く。
「ーーーさん…」
「どうされたんですか?」
「煩いな。お前らに関係ないだろ。さっさと開けろよ」
「は、はいっ」
見張り役と誰かが話している。
煩いなぁとモゾモゾと寝返りを打って鉄格子に背を向けた。
するとガラガラガラっと背中で音が鳴る。開いたのはわたしがいる場所の格子のようだった。
眠い目を擦りうっすらと瞼を開いたが、この部屋には灯りもないため真っ暗で何も見えない。牢屋の外にある炎の揺らめきが、ゆらりと人影を浮かび上がらせた。
「え、だれ…」
何かあったのかと思い起き上がろうとしたら、首をがっと掴まれてベッドに逆戻りした。
「っあ…!」
掴まれた瞬間、喉がくっつきぐえっと嗚咽がもれる。意識は一気に覚醒し、心臓がドクドクと音を立てた。
(何?!)
「暴れんなよクソ女」
掛けられた低い声には聞き覚えがあった。
(ーーーフェン!!)
「んんんん!!」
身長にだって殆ど変わらない。彼の腕はわたしのそれと大して差はない。なのに、引き離そうとしてもびくともしない。
手と足をバタバタさせるが、お腹の上に乗っていたフェンにさらに押さえつけられてしまった。
首を絞められているようで息苦しい。フェンの手を叩きガリッと引っ掻いたが彼は鬱陶しそうに眉を動かしただけだった。
「ったく、総長であるカウルがなまっちょろいことしてるから……こんな女早く処分しちまえばいいんだ」
首を押さえる力が緩められる。途端に取り込めるようになった酸素に喉がヒューと鳴り、次に吐きそうなほど噎せた。
「ゴホッゴホッゴホッ…ふ、フェン…」
「フェンさん?!な、何を…」
見張り役が駆け込んできた。彼らが持っていた灯りでフェンの顔が浮かび上がる。
わたしを見下ろす目は何の色も灯していなかった。冷たい視線は落ちているゴミを見るようだ。
「うるせぇって、誰も動かないなら俺がやる。早く始末しまったほうが城も平和なんだよ」
フェンは右手をボウッと青白く光らせると、手のひらから腕より長い剣を取り出した。
(!!)
銀の剣身は先の方が太くわん曲していた。灯りの炎を映しオレンジの光を反射する。
「改心したんだか気が狂ったんだかしんないけどさ、このノーティ・ワンの為に役に立ちたいって言うんなら、死んでくんない?」
可愛らしい顔がニヤリと歪んだ。フェンはわたしの顎をつかみ口を塞ぐと、剣先を下に向けて持ち直した。
「まぁ俺も非道じゃないからさ、苦しまないように一瞬であの世に送ってやるよ」
自分を狙う剣先が目の前に迫る。
ガタガタと体が震え、全身から汗が噴き出した。
もう、一回死んでるんです。
なんなら最初、ここがあの世だと思ってたくらいで。
「んんーーーー!!」
わたしは力いっぱいもがいた。
(それ、悪役のセリフだからーーーーっっ!!)
わたしの喉元に向かって振り下ろそうとしたとき、「やめろ!!」という叫び声とともに、フェンの体がわたしの足元の方へふっ飛んだ。
0
あなたにおすすめの小説
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
神様の人選ミスで死んじゃった!? 異世界で授けられた万能ボックスでいざスローライフ冒険!
さかき原枝都は
ファンタジー
光と影が交錯する世界で、希望と調和を求めて進む冒険者たちの物語
会社員として平凡な日々を送っていた七樹陽介は、神様のミスによって突然の死を迎える。そして異世界で新たな人生を送ることを提案された彼は、万能アイテムボックスという特別な力を手に冒険を始める。 平穏な村で新たな絆を築きながら、自分の居場所を見つける陽介。しかし、彼の前には隠された力や使命、そして未知なる冒険が待ち受ける! 「万能ボックス」の謎と仲間たちとの絆が交差するこの物語は、笑いあり、感動ありの異世界スローライフファンタジー。陽介が紡ぐ第二の人生、その行く先には何が待っているのか——?
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~
黒蓬
ファンタジー
白石悠真は、ある日突然異世界へ召喚される。しかし、特別なスキルとして授かったのは「牧場経営」。戦えない彼は、与えられた土地で牧場を経営し、食料面での貢献を望まれる。ところが、彼の牧場には不思議な動物たちが次々と集まってきて――!? 異世界でのんびり牧場ライフ、始まります!
神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、チート能力だったと判明し、スローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件
☆ほしい
ファンタジー
勇者パーティーで「役立たず」と蔑まれ、役立たずスキル【畑耕し】と共に辺境の地へ追放された農夫のアルス。
しかし、そのスキルは一度種をまけば無限に作物が収穫でき、しかも極上の品質になるという規格外のチート能力だった!
辺境でひっそりと自給自足のスローライフを始めたアルスだったが、彼の作る作物はあまりにも美味しく、栄養価も高いため、あっという間に噂が広まってしまう。
飢饉に苦しむ隣国、貴重な薬草を求める冒険者、そしてアルスを追放した勇者パーティーまでもが、彼の元を訪れるように。
「もう誰にも迷惑はかけない」と静かに暮らしたいアルスだったが、彼の作る作物は国家間のバランスをも揺るがし始め、いつしか世界情勢の中心に…!?
元・役立たず農夫の、無自覚な成り上がり譚、開幕!
悪役令息の継母に転生したからには、息子を悪役になんてさせません!
水都(みなと)
ファンタジー
伯爵夫人であるロゼッタ・シルヴァリーは夫の死後、ここが前世で読んでいたラノベの世界だと気づく。
ロゼッタはラノベで悪役令息だったリゼルの継母だ。金と地位が目当てで結婚したロゼッタは、夫の連れ子であるリゼルに無関心だった。
しかし、前世ではリゼルは推しキャラ。リゼルが断罪されると思い出したロゼッタは、リゼルが悪役令息にならないよう母として奮闘していく。
★ファンタジー小説大賞エントリー中です。
※完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる