処刑直前の姫に転生したみたいですが、料理家だったのでスローライフしながら国民の胃袋を掴んでいこうと思います

邉 紗

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じゃがいも?こうしてこうやってこうしてやる!8

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カウルの体温が手から全身に伝わってきて、ほかほかと暖かい。どっとでた気疲れからか、急速に眠気が襲う。

(このベッド最高)

すでに半分意識はなく、むにゃむにゃと喋っていた。

「あの、…さっき、何で来てくれたの?どうしてフェンが居るってわかったの?」

「たまたまだ。夕食の出来事が気になって、ちょっと様子を見に行っただけだ。
あと、なんとなく、嫌な予感もしてな」

「…夕食の事が?」

「泣いてないか心配になったんだよ」

閉じていた瞼をあげると、カウルがじっとこちらを見ていた。繋いでいた手を伸ばし、目の下を親指がつっとなぞる。

「泣いた跡があるな…」

「ちょっとだけだし。ちょっと悔しかっただけで、そんなには…」

泣いていた事がバレたのが気まずくて口を尖らせると、カウルはふっと笑った。
一瞬、心臓がとくんと跳ねて、わたしは目を逸らした。

「ええと、助けてくれてありがとう…わたしまた死んでしまうのだと思った」

はは、と軽く笑うと、カウルは何かを考えたのか黙った。


「わたし助けてもらってばかりだね。ぜったい恩返しするからね。カウルに迷惑になるようなことしないよ。ちゃんと、ノーティ・ワンを立て直せるように、がんばるから……だから」

うつらうつらしながら話していると、「もう寝ろ」と促された。

「…あとひとつだけ…」

「なんだ?」

「カウルは、どうして“リア”を助けてくれるの?」

カウルにとっても、国を混乱させたリアは憎い筈だ。

「…先代の総長は、俺の恩人だからな」

(…恩人?)

「俺は孤児だ。幼いころ、国境付近に捨てられ死にそうになっていたところを、先代に拾ってもらったんだ。リアはその総長の忘れ形見だ。強くなってリアを守れる男になれよっていうのが先代の口癖だった」

「そっか…」

「だから俺は、なるべく、最後の最後まで見捨てたくはないと思っている。それにーーーー」

カウルがちゃんと話してくれているのに、どうにも低く落ち着いた声が心地よい。声はわたしの全身を包み、穏やかな気持ちにさせた。
もっと話していたいのに、ずぶずぶと夢の中へと落ちてゆく。

遠くの方で名前を呼ばれた気がした。それに返事をすることなく、パチンとスイッチを切ったように意識は途切れた。




****



「ゆづか?」

話している途中で、規則正しい吐息がきこえた。名前を呼んだが当然返事はない。

「ーーー寝たのか」

安堵し、カウルは深く息を吐いた。


二週間様子を見ていたわけだが、ゆづかは本当に記憶がないらしく城内の部屋の場所、道具の使い方、生活の仕方など、全てがたどたどしかった。
聞けば違う世界から来たと言う。慣れない生活で、ゆづかは少し疲れた顔をしていた。

フェンはどうやっても信じようとしないが、この全てが演技などと思えない。しかしまさか、フェンが実力行使にでるなんて。本当に間に合ってよかった。他にも同じような考えを持った人間は何人も居るだろう。

(ーーー守らなくては)

繋いでいた手を離すと、顔にかかっていた美しい金髪をさらりと背中へ流してやる。
長い睫毛がぴくぴくと動いていた。夢でも見ているのか。

成長してからはこんな風にじっくりと寝顔を見ることなんてなかった。
リアが幼かった頃は遊び相手になり、そのまま寝かしつけを任されたり、一緒に過ごすことも多かったのに。いつからかリアは俺を避け、誰に対してもトゲトゲしかった。

ゆづかは、違う。
嘘のない優しさが魂から滲み出て、以前より輝いて見えた。

「話している途中で寝るとはひどいな」

早く寝ろと言ったのは自分だが、けっこう大事な話をしていたぞ。

(“ーーそれに、俺は、お前が気になるし”)

まぁ、そんなこと言えるわけないか。

指で頬をそっと撫でると、「んんん」と体を丸めて抵抗した。
昔の愛おしさが蘇ると同時に、なんとも言えない感情が湧き出る。
誰にもとられたくなくて、そっと腕の中に入れると、彼女の柔らかさを感じながらカウルも眠りについた。



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