処刑直前の姫に転生したみたいですが、料理家だったのでスローライフしながら国民の胃袋を掴んでいこうと思います

邉 紗

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畑でおやつ。ピクニックみたいで最高だわ。2

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「甘い…」
「お、なんだこれ口のなかでほろっとする」
「うめえ!」

作業の合間だし、男の人達ばかりなので、砂糖を入れすぎずに、さっぱり目の甘さにしておいた。
みんなの反応を見てから、わたしもあーんと口に含む。口の中に優しいミルクの甘さがじんわりと広がった。

噛みくだくとぷるんとはじけ、ほろりと崩れる。後から甘く煮た豆の食感と砂糖の甘み。川の水のお陰で冷え冷えだ。喉越しもよくパクパク食べられた。


「ゆづかは不思議な食べ物をたくさん作るんだな。こんな料理初めて見たぞ」

スプーンに乗せたミルク寒天を目の前に掲げ、カウルはマジマジと眺めた。

「カウルはどう?おいし?」

「すごく美味い」

夢中でちゅるちゅると食べてくれるので、嬉しくなった。おかわりもあっという間になくなってしまう。ひとり途中で食べるのを辞めてしまったおじさんがいた。

「お口にあいませんでしたか」

声をかけるとおじさんはあせった。

「あー、いや…」

リア姫を恨んでる人だっけ?でもこの人に嫌みを言われたことないかも。

「これ、持ち帰れないか?すごく美味いから、子供にも食べさせてやりたいなって…」

思わぬ答え目を丸くした。おじさんはしきりに汗を拭きながら「いや、無理か。難しいよな。うん」と独り言を言っている。
わたしはずいっとおじさんのほうへ身を乗り出した。

「また直ぐに作れます。なんなら今日の夕食のデザートで出しますから、これはおじさんが全部食べてくれると嬉しいです!」

「そ、そうか?」

「ええ!ぜひ!」

あまりのうれしさにおじさんの手を掴んでぶんぶんと振ると、おじさんは「馬鹿野郎こぼれるじゃねぇか」と照れた。

「簡単につくれるのか?」

カウルがこそっと耳打ちしてくる。彼はわたしが一週間ほどかけてコツコツと仕込みをしていたのをしっているからだ。

「うん。ミルクを固める寒天っていう素材を作るのは少しだけ時間がかかるけど、寒天の素さえ出来ていればあとは簡単なの」

海辺へ連れて行って貰ったとき、海中でテングサを発見したのだ。テングサとは、寒天やところてんの材料である。こんなところに素敵な食材が!!と興奮したわたしは!ざぶざぶと海の中に突き進み、カウルに猫のようにつまみ上げられ怒られたのだった。


花を摘み取るように採ったテングサを、天日干しをして乾かしたら、あとは長めにコトコトと煮て布でこすだけだ。
こした寒天は常温でも固まるし、また溶かして加工することができる。まだ煮出したストックはあるから、今夜の分はミルクを混ぜて固めるだけだ。

「そうか、では城のみんなにも作ってくれるか」

「もちろん!たくさん作るね!」



「やった。また夜に食べられるってよ!」

話を盗み聞きしていたみんなは喜んだ。畑仕事を共にしている人たちと、調理場の人は以前より仲良くなってきた気がする。
やっぱりおいしい料理は人と人の絆をつなげてくれる。異世界の人もそれは変わらない。
早く城に帰り、300人分を作らなくては。その作業を想像するとやりがいがありすぎてワクワクした。



「よーし、頑張って畑仕事を終わらせるぞー」

少しだけ早く休憩を切り上げ、スコップを持って立ち上がったわたしに、おじさんが「ゆづかは元気だなぁ」と苦笑した。

「ーーーえ?名前ーーー…」

ぽかんとすると、「え?な、なんだよ。お前はゆづかって名前だろ。総長だってそう呼ぶし」とおじさんが顔を赤くした。


「ーーーうん。そう」

カウル以外にも認めて貰えたようで、じんわりと涙が滲んだ。カウルがよかったなと背中に手を添えた。ポンポンと叩かれると涙がポロポロと零れた。叩かれると零れるなんて、まるでところてんみたいだ。


「ゆづかー泣いてんのかー」
「元気出せよゆづかー」

みんなに名前を呼ばれてからかわれた。
笑いながら、肩や背中を叩かれる。
涙が止まらなくなるから、それ以上叩かないでほしい。

「みんな、なんで呼び捨てなんだ?」

見守っていたカウルが苦笑しながら聞いた。

「だって、姫って感じじゃねーし」
「ゆづかさん、とかちゃんって感じでもねぇしさぁ」
「確かに」
「ゆづかはゆづかなんだよなぁ」

ガハハと笑うみんなに囲まれて、わたしはやっとノーティ・ワンに居場所が出来た気がした。
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