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畑でおやつ。ピクニックみたいで最高だわ。3
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ゆづかは勢いよくベッドに倒れ込んだ。
ここ数日の疲れがどっと出たようだ。全身筋肉痛で腕は重い。さらには夕食の準備でやけどをしてしまい、腕がヒリヒリとした。
デザートの準備で寒天を作るとき、重い鍋をひっくり返しそうになり、熱したミルクがかかってしまったのだ。
(氷とかアイスノンがあったらいいんだけどなぁ)
リアは腕力も体力もない。以前の自分の感覚で動くと、持てると思った物が持ち上がらなかったり、直ぐに疲れてしまったりするから困ったものだ。
「あーやっぱりこのベッド最高」
だらだらとしていると、カウルも部屋に戻ってきた。彼がベッドに腰掛けると体が揺れる。
「ゆづか、今日はお疲れだったな。よく頑張ってくれた」
「夕食に間に合ってよかった。寒天の材料全部使い切っちゃったから、また今度採りにいかせてね」
「あんな海藻が食べ物になるとはおもわなかった。プーリーも興味津々だったな」
「うん。さすが料理長。他の食事にも使えるって興奮してメニュー考えてたよ。今度採りにいくときは彼も一緒に誘おう」
「そうだな。ーーん?腕が赤いぞ。どうしたんだ?」
「あ、ちょっとやけどを…でもお水で冷やしてたし、今は少しヒリヒリするだけだから大丈夫」
「見せてみろ」
カウルはわたしの腕を引っ張ると目を近づけた。そしてくわっと顔を険しくする。
「ロット!控えているか!」
声を荒げると、扉の向こうから男の子が「へいっ」と慌てて顔を出した。
ロットは中学生くらいの年齢だ。
カウルの雑務のお世話係として、側に控えていることが多い。
「良く冷えた地下水と、やけどに効く塗り薬を持ってきてくれ」
「はいっ!」
ロットは指示を聞くとお任せを、と直ぐに走って行った。
「そんな、軽いものだから大丈夫だよ」
「いいや、痛むのなら薬を塗っておかないと。お前の美しい肌に傷が残ったらどうする。ただでさえ畑仕事や調理で傷が増えているのに…。
はあ…リアの時は少しは働けと思っていたのに、ゆづかは働きすぎだな。あまりにも弄らしいと、そんなに頑張らなくていいと、腕の中に閉じ込めておきたくなる」
カウルは真剣な顔をして、歯の浮くようなセリフを言った。
「ええと、あ、ありがとう…」
しまった。こういうときなんて返せばいいんだ?人生を趣味だけに走っていたわたしは男性経験ゼロであった。日々甘さを増してゆくカウルに戸惑う。そういえば、元々リアは婚約者だったんだっけ?
「他に痛いところはないか?ああ、手も豆だらけだな」
手のひらにふわりと唇の感触がして、わたしは「ふおー」と悲鳴をあげた。
「総長!薬と水もってきやしたーっ!」
フリスビー犬のように嬉しそうに息を切らして、ロットが駆け込んできた。
「ああ、助かった、そこに置いたら下がっていい」
「りょーかいっす!」
カウルは充分に冷やしたあと薬を塗り、包帯のような物を巻いてくれた。少々大袈裟な気がするが、やけどに効くと言う薬草が、火照ってヒリヒリとしていた皮膚をひんやりと沈めてくれ気持ちがいい。
「明日も畑に行くんだろ?大丈夫なのか?」
「勿論。骨折してるわけじゃないんだし、それに畑は急ピッチで作業を進めないとでしょ?」
「そうだが、無理をするなよ。困ったことがあったら言ってくれ」
カウルが心配性なお父さんのようになっているので、何かないかと考えた。
「あ、そうだ。土と石灰を混ぜた畑に水を撒かないといけないの。大雨が降ると良いんだけど…それか川の水を大量に運ぶ方法ってないかな?」
「水を運ぶ方法か…」
「本当は何回か石灰を巻く、畑を耕す、真水をかけるを繰り返したいんだけど、時間がかかるから、最初の畑は塩に強い野菜を植えようと思ってる」
「そんな野菜があるのか」
「もう少し濃度が下がればトマトやネギ、あとキャベツもいけるかも。これを第一陣にして育てている間に、違う畑をテコ入れしていくつもり!」
「…ゆづかの知識はすごいな。料理も、作物に対してもとても頼もしい。俺達は慌てふためいていただけで恥ずかしいな」
「そんなことないよ。たまたま得意分野だったの。これはリアであるわたしの責任でもあるし、力仕事はみんなに助けて貰わなくちゃ出来ないから。みんなが居てこそなんだよ。
わたしカウルに助けて貰ったこと忘れてないからね!恩は絶対返すし、カウルの顔に泥は塗らない!
それに、わたし畑仕事も料理も大好きなの。全然苦じゃないわ!」
だてにフォロワー100万人の女じゃないのよ。任せなさい。誇らしげにどんと胸をたたくと、歓喜したカウルに突然抱き締められた。
「ゆづか!!」
「きゃう!うわぁっ」
「ああ、やっと俺は理想の女に出会えた。美しく聡明、民からの信頼も時期に回復するだろう。この警備隊が守るノーティ・ワンの象徴となる姫に相応しい。ゆづかが姫ならば、末永く民に愛されるに違いない」
(いや、まだそれほど信頼は回復していないぞ…)
がっかりさせないように尚更頑張らなくてはと、わたしは腕の中で密かに気合いを入れていた。
ゆづかは勢いよくベッドに倒れ込んだ。
ここ数日の疲れがどっと出たようだ。全身筋肉痛で腕は重い。さらには夕食の準備でやけどをしてしまい、腕がヒリヒリとした。
デザートの準備で寒天を作るとき、重い鍋をひっくり返しそうになり、熱したミルクがかかってしまったのだ。
(氷とかアイスノンがあったらいいんだけどなぁ)
リアは腕力も体力もない。以前の自分の感覚で動くと、持てると思った物が持ち上がらなかったり、直ぐに疲れてしまったりするから困ったものだ。
「あーやっぱりこのベッド最高」
だらだらとしていると、カウルも部屋に戻ってきた。彼がベッドに腰掛けると体が揺れる。
「ゆづか、今日はお疲れだったな。よく頑張ってくれた」
「夕食に間に合ってよかった。寒天の材料全部使い切っちゃったから、また今度採りにいかせてね」
「あんな海藻が食べ物になるとはおもわなかった。プーリーも興味津々だったな」
「うん。さすが料理長。他の食事にも使えるって興奮してメニュー考えてたよ。今度採りにいくときは彼も一緒に誘おう」
「そうだな。ーーん?腕が赤いぞ。どうしたんだ?」
「あ、ちょっとやけどを…でもお水で冷やしてたし、今は少しヒリヒリするだけだから大丈夫」
「見せてみろ」
カウルはわたしの腕を引っ張ると目を近づけた。そしてくわっと顔を険しくする。
「ロット!控えているか!」
声を荒げると、扉の向こうから男の子が「へいっ」と慌てて顔を出した。
ロットは中学生くらいの年齢だ。
カウルの雑務のお世話係として、側に控えていることが多い。
「良く冷えた地下水と、やけどに効く塗り薬を持ってきてくれ」
「はいっ!」
ロットは指示を聞くとお任せを、と直ぐに走って行った。
「そんな、軽いものだから大丈夫だよ」
「いいや、痛むのなら薬を塗っておかないと。お前の美しい肌に傷が残ったらどうする。ただでさえ畑仕事や調理で傷が増えているのに…。
はあ…リアの時は少しは働けと思っていたのに、ゆづかは働きすぎだな。あまりにも弄らしいと、そんなに頑張らなくていいと、腕の中に閉じ込めておきたくなる」
カウルは真剣な顔をして、歯の浮くようなセリフを言った。
「ええと、あ、ありがとう…」
しまった。こういうときなんて返せばいいんだ?人生を趣味だけに走っていたわたしは男性経験ゼロであった。日々甘さを増してゆくカウルに戸惑う。そういえば、元々リアは婚約者だったんだっけ?
「他に痛いところはないか?ああ、手も豆だらけだな」
手のひらにふわりと唇の感触がして、わたしは「ふおー」と悲鳴をあげた。
「総長!薬と水もってきやしたーっ!」
フリスビー犬のように嬉しそうに息を切らして、ロットが駆け込んできた。
「ああ、助かった、そこに置いたら下がっていい」
「りょーかいっす!」
カウルは充分に冷やしたあと薬を塗り、包帯のような物を巻いてくれた。少々大袈裟な気がするが、やけどに効くと言う薬草が、火照ってヒリヒリとしていた皮膚をひんやりと沈めてくれ気持ちがいい。
「明日も畑に行くんだろ?大丈夫なのか?」
「勿論。骨折してるわけじゃないんだし、それに畑は急ピッチで作業を進めないとでしょ?」
「そうだが、無理をするなよ。困ったことがあったら言ってくれ」
カウルが心配性なお父さんのようになっているので、何かないかと考えた。
「あ、そうだ。土と石灰を混ぜた畑に水を撒かないといけないの。大雨が降ると良いんだけど…それか川の水を大量に運ぶ方法ってないかな?」
「水を運ぶ方法か…」
「本当は何回か石灰を巻く、畑を耕す、真水をかけるを繰り返したいんだけど、時間がかかるから、最初の畑は塩に強い野菜を植えようと思ってる」
「そんな野菜があるのか」
「もう少し濃度が下がればトマトやネギ、あとキャベツもいけるかも。これを第一陣にして育てている間に、違う畑をテコ入れしていくつもり!」
「…ゆづかの知識はすごいな。料理も、作物に対してもとても頼もしい。俺達は慌てふためいていただけで恥ずかしいな」
「そんなことないよ。たまたま得意分野だったの。これはリアであるわたしの責任でもあるし、力仕事はみんなに助けて貰わなくちゃ出来ないから。みんなが居てこそなんだよ。
わたしカウルに助けて貰ったこと忘れてないからね!恩は絶対返すし、カウルの顔に泥は塗らない!
それに、わたし畑仕事も料理も大好きなの。全然苦じゃないわ!」
だてにフォロワー100万人の女じゃないのよ。任せなさい。誇らしげにどんと胸をたたくと、歓喜したカウルに突然抱き締められた。
「ゆづか!!」
「きゃう!うわぁっ」
「ああ、やっと俺は理想の女に出会えた。美しく聡明、民からの信頼も時期に回復するだろう。この警備隊が守るノーティ・ワンの象徴となる姫に相応しい。ゆづかが姫ならば、末永く民に愛されるに違いない」
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