処刑直前の姫に転生したみたいですが、料理家だったのでスローライフしながら国民の胃袋を掴んでいこうと思います

邉 紗

文字の大きさ
25 / 45

畑でおやつ。ピクニックみたいで最高だわ。6

しおりを挟む
「いらねぇよ」

「でも、お腹空いてるよね?フェンがリアをどうしても許せないのはわかるの。でも、食べないと元気が出ないし、倒れちゃうよ」

何を話しかけても返事をしてくれないフェンに、「どうしたら別人だって認めてもらえるのかな」とサンドイッチを見つめながら呟いた。

「もうその顔が気に食わないんだよ。金の髪を自慢げに靡かせて、俺の妹を侮辱したのを一生忘れはしないからな。今思い出しても腹が立つ」

「妹さんを?」

「はっ。それも忘れているっていうのか。妹は病気で髪が抜けるんだ。それをリアは鼻で笑ったんだよ。リアの金の髪に憧れ、美しいと誉めた妹に、『あなたにはその頭がお似合いよ』とバカにしたんだ!」

「髪が……」

わたしは後ろに束ねてあった髪を触る。なんて酷い姫だ。フェンは20歳前後に見える。その妹ならまだきっと10代。容姿について貶されるのは傷ついただろう。

「妹さんは、今、病気は…」

「ああ?治んねえよ。原因不明だって前にも言っただろ!?薬がねぇんだ!」

それを聞いたわたしは、サンドイッチが入った籠をフェンの膝に押しつけると、勢いよく立ち上がった。

「カウル!剣をだして!」

凄い剣幕で詰め寄ったわたしに、カウルは少しのけぞった。

「剣を?何に使うんだ?」

「いいから!出してー!」

いきり立つわたしに、「ちょっと落ち着けよ」と困惑しながらも手に赤い光を宿らせる。
体にしまってある道具を引き出すように、ぬうっと剣を取り出すと、周りのみんなが感心しながら軽く拍手をした。バイクを動かすのも魔力がないと出来ないが、これはさらに高等技術らしく、警備隊の中でもトップクラスの人たちだけのスキルであった。

出し切った剣を「かして!」と奪う。

「あ。バカ。ゆづか危ないからーーー……」

取り返えされる前に、わたしは1つに縛っていたゴム紐の上あたりで、ジャキンと髪を切り払った。

「っな…!!」
「はぁぁ?!」

耳の下あたりで散切りになったそれらは、太陽の日を受けて輝いた。数本が、風をうけてキラキラと飛んでゆく。

みんなが目をひんむくなか、わたし一人「ようし!!」と切り取った髪を左手に掴かみ掲げた。



「よしじゃないっっ!!何やってるんだ!」

カウルは慌てて剣を消し去ったがもう遅い。
みんなは頭を抱えて叫んだ。

「ぎゃーーーー!!尊き金の髪がーー!!」
「ゆづかーー!なんてことを!」

みんなは発狂していた。
フェンさえも、「お前、何やってんだ…」と呆然としている。

「金の髪は平和の象徴!とても希少で、お金で買いたいという者さえいるほどなんだぞ?!」

カウルは、わたしの散切りになった髪をすくって嘆いた。

「えー?べつにまた生えるんだし大袈裟な。その国民である女の子一人も幸せに出来ない金髪なんて、なんの意味もないからね!」

「……なんだって?」

「フェンごめんなさい!まだ畑仕事残ってるけど、わたし城へ戻って、すぐにやりたいことが出来たから帰るね!この埋め合わせは明日以降必ず!カウル!わたしを今すぐ城へ連れて帰って!」

「なんだってぇ?」

カウルが変な顔になる。

「ほらほら!急いで!みんなごめんね!あ、どなたかポテチ食べおわったら籠の回収お願いします!あとフェンにあげたサンドイッチ、食べなかったら抽選で一名様に差し上げま~す!」

わたしは切り取った髪の毛を大事に抱えて、カウルより先にバイクに飛び乗った。
勢いにのまれたカウルは慌ててエンジンをかける。

「フェン、畑は頼んだ。日が暮れる前に撤収してくれ」

「あ、ああ……?」

フェンは状況が飲み込めないまま承諾した。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

神様の人選ミスで死んじゃった!? 異世界で授けられた万能ボックスでいざスローライフ冒険!

さかき原枝都は
ファンタジー
光と影が交錯する世界で、希望と調和を求めて進む冒険者たちの物語 会社員として平凡な日々を送っていた七樹陽介は、神様のミスによって突然の死を迎える。そして異世界で新たな人生を送ることを提案された彼は、万能アイテムボックスという特別な力を手に冒険を始める。 平穏な村で新たな絆を築きながら、自分の居場所を見つける陽介。しかし、彼の前には隠された力や使命、そして未知なる冒険が待ち受ける! 「万能ボックス」の謎と仲間たちとの絆が交差するこの物語は、笑いあり、感動ありの異世界スローライフファンタジー。陽介が紡ぐ第二の人生、その行く先には何が待っているのか——?

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬
ファンタジー
白石悠真は、ある日突然異世界へ召喚される。しかし、特別なスキルとして授かったのは「牧場経営」。戦えない彼は、与えられた土地で牧場を経営し、食料面での貢献を望まれる。ところが、彼の牧場には不思議な動物たちが次々と集まってきて――!? 異世界でのんびり牧場ライフ、始まります!

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、チート能力だったと判明し、スローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件

☆ほしい
ファンタジー
勇者パーティーで「役立たず」と蔑まれ、役立たずスキル【畑耕し】と共に辺境の地へ追放された農夫のアルス。 しかし、そのスキルは一度種をまけば無限に作物が収穫でき、しかも極上の品質になるという規格外のチート能力だった! 辺境でひっそりと自給自足のスローライフを始めたアルスだったが、彼の作る作物はあまりにも美味しく、栄養価も高いため、あっという間に噂が広まってしまう。 飢饉に苦しむ隣国、貴重な薬草を求める冒険者、そしてアルスを追放した勇者パーティーまでもが、彼の元を訪れるように。 「もう誰にも迷惑はかけない」と静かに暮らしたいアルスだったが、彼の作る作物は国家間のバランスをも揺るがし始め、いつしか世界情勢の中心に…!? 元・役立たず農夫の、無自覚な成り上がり譚、開幕!

悪役令息の継母に転生したからには、息子を悪役になんてさせません!

水都(みなと)
ファンタジー
伯爵夫人であるロゼッタ・シルヴァリーは夫の死後、ここが前世で読んでいたラノベの世界だと気づく。 ロゼッタはラノベで悪役令息だったリゼルの継母だ。金と地位が目当てで結婚したロゼッタは、夫の連れ子であるリゼルに無関心だった。 しかし、前世ではリゼルは推しキャラ。リゼルが断罪されると思い出したロゼッタは、リゼルが悪役令息にならないよう母として奮闘していく。 ★ファンタジー小説大賞エントリー中です。 ※完結しました!

処理中です...