処刑直前の姫に転生したみたいですが、料理家だったのでスローライフしながら国民の胃袋を掴んでいこうと思います

邉 紗

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わたしってば天才。裁縫もできちゃうんだな。

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***

カウルはゆづかのバラバラな髪を改めて確認し、項垂れた。

(なんたる失態だ………)

安易に剣をだしてしまった自分の責任だ。まさか、自分の髪を切るために使うとは思わなかったのだ。

城へ帰ってきた時も、城中の者がゆづかを見て次々と悲鳴をあげる中、彼女だけは満足げな顔をして、髪が短くなったことなど露ほども気にしていなかった。

今も目を爛々とさせ、与えた服を引っかき回していた。

「いったい何をしているんだ?」

「うーん、なるべく伸縮性のありそうな布をさがしてるんだ。
ストッキング的なのがあったら最高なんだけどな~。でもたしか、代わりになりそうな服があったはず。どこ行ったっけ」

何やらブツブツと呟いている。すとっ……?なんだそれは。

「あ、あった!あとナイフ…」

目当ての服を掲げると、立ち上がり走り出そうとした。カウルは、ガシッと頭を掴み阻止をした。ナイフだって?今度は何を切るつもりだ。

「待て!先に着替えろ。いつまでびしょ濡れでいる気だ?!」

「あ、そうだった。忘れてた」

ゆづかは自分を見下ろして瞬きをした。カウルは盛大なため息をつく。

「必要な道具は揃えておいてやるから、一度体を温めて着替えてからにしてくれ」

「はあい」とかわいらしい返事をして、ゆづかは走っていった。




ちゃんと暖まって来いと言ったのに、ゆづかはザブンと風呂に入ってきただけで、すぐに出てきてしまった。
髪の毛も変わらずびしょ濡れで、川の水が風呂の水に変わっただけだった。



ゆづかはそのまま、作業台に向かって何かを作り出した。
さっき見つけた高級な衣服を、ためらいも無くナイフで切り裂いてしまい、カウルは面食らう。
いくらすると思ってるんだ。リアが気に入って着ていた服だった。少しでも染みができたら大騒ぎしていたのに……。
こんなところにも、以前とは違う人格であるのだと思い知らされた。
ゆづかは動きやすさ重視で、お洒落に興味は無いらしい。
煌びやかな服は苦手らしく、使わないのももったいないから、城の者にあげてしまったらどうかと提案されるほどであった。


「髪くらいふいてくれ。風邪をひくだろ」

作業に集中する彼女の頭を、後ろから拭いてやったが「短いしすぐ乾くもん」となにも気にしていなく、作業の手を休めない。カウルは美しく輝く金の髪に布を当て、丁寧に水分をとっていった。

そう言えば“ゆづか”になってから、リアが大事にしていた髪と肌の手入れも殆ど行っていないことに気がついた。
自分の美貌だけが命という、以前の彼女の欠片も見られない。最近、畑仕事ばかりで日に焼けたかも。ゆづかは鼻歌を口ずさみながらご機嫌で何かを切ったり貼り付けたりしていた。
午前の畑仕事から働きっぱなしだ。

「昼食作りもお掃除もサボってごめんね。どうしても明日までにこれを仕上げたいの」

「別にいいけど、何を作っているんだ?」

「フェンの妹さんにあげるカツラを作ってるの」

「かつら?なんだそれは?」

「帽子みたいなやつ」

切り裂いてしまった服を丸く縫い合わせ、樹液の接着剤で切った髪を少しずつ束ねると、糸で括ってから、布に縫い付けてゆく。

カウルはその横で助手のようになり、言われたとおりに手伝った。

ゆづかは黙々と集中し、話しかけても視線を寄こさなかった。
昼食の時間になっても、その位置から動かない。さらには夕食も食べようとしないので、カウルは見かねて食事をとってきてやった。

口に食べ物を入れてやる。

「ありがとう、美味しい!」

口は動かしたが、やはり真剣な眼差しは手元に注がれたままだった。

「お腹空いてるんだろう。休憩したらどうだ?」

「うん。でも、もうちょっとだから」

全然言うことを聞いてくれない。
もうちょっとで終わるからを繰り返し、結局、明け方まで作業は続いた。

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