処刑直前の姫に転生したみたいですが、料理家だったのでスローライフしながら国民の胃袋を掴んでいこうと思います

邉 紗

文字の大きさ
28 / 45

わたしってば天才。裁縫もできちゃうんだな。2

しおりを挟む
***

「出来たあああーーー!」


ゆづかの叫びで、カウルははっと目を覚ました。
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
ゆづかは出来上がった“カツラ”という、ものを上下左右からじっくり確かめると、満足げに頷いた。

「やっとできたか……」

椅子に座り頬杖をついて寝ていたため、肘が痛くなっていた。それをさすりながら、出来上がったものを眺める。帽子となる布に、昨日までリアのものであった美しい金髪が、それは丁寧に縫い付けられていた。

「すごいな……」

「でしょう?!わたしは料理が大好きだけど、裁縫も得意なんだなっ」

ゆづかはカツラを手に掛けてくるくると回す。ぱっと見、首と踊っているみたいで奇妙な気持ちになる。

「これを、フェンの妹さんにあげたいの。喜んでくれるかはわからないけど、今までのリアの言動を謝って、わたしなりの誠意をみせなくっちゃ」

ゆづかの気持ちと行動力を、カウルはそれが自分のことのように誇らしく思った。
やはり、ゆづかはリアではない。

「そうか。では、そのように手配しよう。なるべく早くフェンの実家に届くように……」

「え。駄目だよ。これは自分で届けるの」

当たり前のように言うゆづかに戸惑う。

「ーーは?いや、しかし」

「人を介して謝るなんて、社会人としてもってのほか!門前払いだろうが、皿を投げられようが、とにかく自分で謝りに行く。これ当たり前よ」

「は?しゃ、しゃか…?」

ゆづかは、たまにわからない単語を使う。


「とにかく、自分で届けに行くの!今すぐ連れて行って!」

「今すぐ?!」

「そうよ!フェンの実家は、前にそんなに遠くないって聞いたわ。今すぐ出発よ!!」

カウルは寝不足のまま、朝食も取らずに城を飛び出した。ゆづかに至っては一睡もしていないのに、アドレナリン全開でやけに元気であった。


馬小屋ならぬ駐輪場には、各隊員のバイクが並び光っている。ゆづかと二人でそこへ向かうと、整備係の数人がすでに働いていてバイクを磨いていた。


そこでばったり、夜回りから戻ってきたフェンとかちあってしまう。

カウルはしまったと思った。

魔力を込めながらエンジンを掛けるカウルを横目に、「朝っぱらからデートかよ」とフェンは蔑んだ。


カウルは喧嘩になる前に出発しようと、返事をせずにバイクに跨がり出発させた。いらぬトラブルは、基より発生させないに限る。
しかしゆづかは、悪びれもなく「フェンの妹さんに会いに行くの!行ってきますー!」と遠ざかっていくフェンに向かって叫んだ。

カウルはぎょっとした。
何をバカ正直に言っているのだ。想像通り、目の色を変えたフェンが凄い勢いで追いかけてきた。


「は?!てめぇ!何を勝手に……!!待て!おいカウル!!止まれえええ!!」




****



フェン・アゲラタムの実家は、城から比較的近い所にある。城下には商売が盛んな町が広がる。店が建ち並賑やかな通りを抜け、さらに隣町へと続く丘を越えると、森の横に集落がある。そこに見えてくる、テラコッタ色の瓦屋根が敷き詰められた可愛らしい家が、フェンの実家だ。

フェンの両親は、そこで薬草となる植物を集め、街中の薬師に売るという仕事をしていた。
元々父親は、石の切り出しの仕事をしていたらしいのだが、娘の病気を治してやりたくて、薬師の勉強をし転職をしていた。



カウル、ゆづか、フェンの三人は、朝も早くからフェンの実家にいた。


警備隊の総長であるカウルの来訪に加え、国の催しでもなければ、なかなかその姿を目にすることも叶わないという、金の髪の姫まで一緒に現れ、寝起きで出迎えたフェンの両親は、目を白黒とさせていた。


「おい!何しに来たんだよ!」

「フェンっっ総長と姫様になんて口を……!!」


舌打ちをしながら言ったフェンに、両親は恐ろしいものでも見たように顔を真っ青にした。フェンは気にせず、イライラと足を踏みならした。



しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

神様の人選ミスで死んじゃった!? 異世界で授けられた万能ボックスでいざスローライフ冒険!

さかき原枝都は
ファンタジー
光と影が交錯する世界で、希望と調和を求めて進む冒険者たちの物語 会社員として平凡な日々を送っていた七樹陽介は、神様のミスによって突然の死を迎える。そして異世界で新たな人生を送ることを提案された彼は、万能アイテムボックスという特別な力を手に冒険を始める。 平穏な村で新たな絆を築きながら、自分の居場所を見つける陽介。しかし、彼の前には隠された力や使命、そして未知なる冒険が待ち受ける! 「万能ボックス」の謎と仲間たちとの絆が交差するこの物語は、笑いあり、感動ありの異世界スローライフファンタジー。陽介が紡ぐ第二の人生、その行く先には何が待っているのか——?

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬
ファンタジー
白石悠真は、ある日突然異世界へ召喚される。しかし、特別なスキルとして授かったのは「牧場経営」。戦えない彼は、与えられた土地で牧場を経営し、食料面での貢献を望まれる。ところが、彼の牧場には不思議な動物たちが次々と集まってきて――!? 異世界でのんびり牧場ライフ、始まります!

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、チート能力だったと判明し、スローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件

☆ほしい
ファンタジー
勇者パーティーで「役立たず」と蔑まれ、役立たずスキル【畑耕し】と共に辺境の地へ追放された農夫のアルス。 しかし、そのスキルは一度種をまけば無限に作物が収穫でき、しかも極上の品質になるという規格外のチート能力だった! 辺境でひっそりと自給自足のスローライフを始めたアルスだったが、彼の作る作物はあまりにも美味しく、栄養価も高いため、あっという間に噂が広まってしまう。 飢饉に苦しむ隣国、貴重な薬草を求める冒険者、そしてアルスを追放した勇者パーティーまでもが、彼の元を訪れるように。 「もう誰にも迷惑はかけない」と静かに暮らしたいアルスだったが、彼の作る作物は国家間のバランスをも揺るがし始め、いつしか世界情勢の中心に…!? 元・役立たず農夫の、無自覚な成り上がり譚、開幕!

悪役令息の継母に転生したからには、息子を悪役になんてさせません!

水都(みなと)
ファンタジー
伯爵夫人であるロゼッタ・シルヴァリーは夫の死後、ここが前世で読んでいたラノベの世界だと気づく。 ロゼッタはラノベで悪役令息だったリゼルの継母だ。金と地位が目当てで結婚したロゼッタは、夫の連れ子であるリゼルに無関心だった。 しかし、前世ではリゼルは推しキャラ。リゼルが断罪されると思い出したロゼッタは、リゼルが悪役令息にならないよう母として奮闘していく。 ★ファンタジー小説大賞エントリー中です。 ※完結しました!

処理中です...