処刑直前の姫に転生したみたいですが、料理家だったのでスローライフしながら国民の胃袋を掴んでいこうと思います

邉 紗

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米を食いたいのです!

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風邪は数日ですっかり良くなり、また元気に働き出してから数ヶ月が過ぎた。
フェンはぶっきらぼうなのは変わらないが、わたしの作った料理を食べてくれるようにはなり、以前よりは距離を縮められたと思っている。

畑の復活には時間がかかり、作物を収穫し、国民がひもじい思いをしなくなるまでしっかりとやり遂げないと、認めては貰えないだろう。

あいらわらず雨を降らせることなど元より、桶1杯の水を操ることも出来ない。人の魔力は体力と一緒で、使える量に限りがある。よって警備隊のみんなにも、他の仕事があるなか無理をさせることは出来ず、さらには今は乾季で、川の水位も底が見えるほど。ふんだんに使えるわけでは無い。
気長にやっていくしかなさそうだった。


「ゆづか、きょうの飯も最高だったよ」
「このスープなんて言うんだっけ?」
「味噌汁だよ」

朝食の片付けをしていると、みんなが声をかけてくれるようになった。胃袋を掴む、なんて言ったら聞こえは良くないが、わたしの作ったご飯がみんなの心に響いたのだと思うと素直に嬉しかった。
やはり、食べてくれる人の表情が見えるというのは良いものだ。

大豆を熟成させ味噌をつくった。醤油は、仕上がりに半年以上かかるからまだ先だ。以前はスーパーで買えば良かっただけの調味料も、全て手作りしなくてはならないが、そんな手間もとても楽しい。
ノーティ・ワンの生活は、ずっと夢見ていたスローライフそのものだった。

雨季が来たら稲を植えよう。お米が食べたい。みんなにも白いご飯を食べて貰いたいな。あとは狩りだけではなく、食肉としての家畜を育て、コンスタントに肉を配給出来るようにしたい。

あの日食べ損ねたササミフライを、未だわたしは渇望している。でも、その願いは少し変わった。
今の願いは、白い米とササミフライをみんなで一緒に食べることだ。それには卵も、一度にもっとたくさん取れるようにしなくてはならない。
あの日の夕食を再現するには、もっともっとがんばらなくては…!


「おい、ゆづか。今日は山菜を取りにいくんだろう?片付けが終わったらすぐ出発でいいのか?」

鼻歌を歌いながら朝食の食器を片付けていると、料理長のプーリーが声を掛けてきた。

「うん。お願いします!あー楽しみぃ!!何があるのかな。ワクワクするね」

料理に関する情報交換で、プーリーとは切磋琢磨しあえる存在となっていた。パイナップル頭のプーリーは、見た目はヤクザでガラの悪いおっさんだが、実は豪快で気さくなおじ様だ。日本で言うと、食堂のおっちゃん、って感じだ。料理と食事に対する、わたしの熱い気持ちをわかってくれる、マブダチとなってくれた。

食品の加工の知識はわたしのほうがあるが、素材の種類や、それを手に入れる方法は、やはりプーリーの方がよく知っている。
一緒に出掛け、調理方法や味を議論しながら食材を集める。見たことのない木の実や植物を教えてもらうのは、楽しくて仕方がなかった。

今日は、待ちに待った遠征日であった。城から少し遠い距離にある森へ行くことになっている。

森の奥までいくと、珍しいハーブやきのこなどが採取できるらしいのだが、敵国のデリンクエンツとの国境が近く、さらには森は迷いやすく、獣もいるのでなかなか行かせて貰える機会がなかった。

危ない場所だから、欲しい食材があるなら取ってくるとカウルは言ってくれたが、それではわたしは面白くない。
頼みに頼んで、土下座をかまして勝ち取った行程であった。
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