双月の果てに咲く絆

藤原遊

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6巻

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夜明けの風が遺跡を抜け、二人の間に一瞬だけ冷たい静けさを運んできた。

セイランはまだリオの腕の中にいる。その顔は青白く、額には汗が滲んでいた。まるで彼が持つ光そのものを削り取られたかのような、儚い姿だった。リオは唇を噛み、セイランの体をそっと地面に下ろした。

「……なぜ、あんな無茶をする?」

リオの声には怒りが含まれていた。だが、その怒りは彼自身にも向けられているように聞こえた。目の前で自らを削るようにして闇と戦うセイランを、なぜ止められなかったのか――その後悔が、胸の奥でくすぶっていた。

セイランは目を閉じたまま、少しだけ微笑んだ。その微笑みは、遠く何かを見つめるような、どこか現実から離れたものだった。

「……それが俺の役目だから」

「役目だと?」

リオは拳を握りしめた。だが、セイランはその拳をただ見つめ、穏やかな声で続けた。

「双月がある限り、この世界の均衡は保たれる。だが、その均衡を見守る者が必要だ。俺がその一人なんだ」

その言葉には不思議な説得力があったが、同時に彼の言葉がどれほど重い意味を持つのか、リオには完全に理解することができなかった。

「均衡を守る者……? お前が?」

リオの問いに、セイランは静かに頷いた。そして、彼はそっと空を見上げた。

「双月が交わるとき、闇が現れる。それは、この世界が持つ影……。誰かがその闇を引き受けなければならない」

「だからお前がその役を引き受けるっていうのか? そんなの、バカげている!」

リオの声は荒れていた。セイランはその声に少しだけ驚いたようだったが、すぐに穏やかな微笑みを浮かべた。

「……そうだな。バカげている。でも、それが俺の存在理由なんだ」

その言葉に、リオは胸の奥に何か重いものが落ちるような感覚を覚えた。目の前のセイランは、自分とまるで違う存在のように思えた。リオはこれまで生きるために戦い、ただその瞬間を乗り越えるだけの人生を歩んできた。だがセイランは違う――彼は、すべてを背負う覚悟を持っている。

「……お前は、本当にそれでいいのか?」

リオは問いかけた。その声には、どこか哀しみが混じっていた。セイランは少しだけ目を見開き、それから目を伏せた。

「……それしかできないんだ。俺には、それしかない」

その答えに、リオは何も言い返せなかった。ただ、胸の中で芽生えた感情――それが何なのかを、まだうまく言葉にすることができなかった。

その後、二人は遺跡を後にした。旅は続くが、二人の間にはどこかぎこちなさが残っていた。セイランは何事もなかったかのように振る舞おうとし、リオは彼に無理をさせないように少しだけ距離を取るようになった。

だが、その微妙な距離感が、リオの心をますますかき乱していった。


夜の闇が濃くなる頃、二人は焚き火を囲んで座っていた。風が静まり、火の明かりだけが二人の顔を照らしている。

「……お前は、この世界がどうなるべきだと思う?」

不意にセイランが問いかけた。その声は穏やかだが、どこか真剣さを帯びていた。リオは少し考え込み、それから短く答えた。

「俺は、ただ生きられればそれでいい。それ以外のことは考えたこともない」

「それでいいのか?」

セイランの問いは柔らかかったが、その言葉はリオの胸に突き刺さるようだった。リオはしばらく黙り込んだ。それから、ぽつりと呟くように答えた。

「……俺には、何も守れるものなんてない」

その言葉を聞いたとき、セイランはゆっくりとリオを見つめた。そして、ほんの少しだけ微笑んだ。

「……それでも、お前は俺を守ろうとした」

リオは息を呑んだ。その言葉には、不思議な温かさがあった。それは、これまで誰にも与えられたことのない感情だった。胸の奥で何かが震え、それが自分でも説明できない感覚を引き起こした。

「お前が、どうしてそんなことをしてくれるのか……俺には分からない。でも、ありがとう」

セイランの言葉に、リオは何も答えられなかった。ただ、焚き火の明かりが二人の間を揺らめきながら、静かな時間が流れていった。
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