双月の果てに咲く絆

藤原遊

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14巻

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冷たい夜風が焚き火の炎を揺らし、影を踊らせる。リオは無言で剣を膝に置き、じっと焚き火を見つめていた。その隣では、セイランが薄く目を閉じたまま、どこか遠い世界を漂っているような静けさを纏っていた。

しかし、その静寂の中で、リオの胸には渦巻くような感情が満ちていた。

「なあ、セイラン」

突然、リオが口を開いた。その声には、普段とは違う張り詰めたものが含まれていた。

「お前さ、本当は怖いんだろ?」

その問いに、セイランは目を開けた。その瞳は月明かりを受けて淡く輝いているが、そこには微かな驚きと戸惑いが浮かんでいた。

「……どうしてそう思う?」

「見てりゃ分かる。お前、いつも平気なフリしてるけど、たまに目が揺れてるんだよ。何かに怯えてるみたいに」

リオの声は低かったが、その言葉は鋭く核心を突いていた。セイランは短い息を吐き、視線を空へ向けた。

「……怖いのは事実だ。自分が何を失うのかも分からないまま、ただ運命に従うことしかできない。それがどれほど恐ろしいか……君には想像もつかないだろう」

「なら、やめりゃいいだろ」

リオの言葉は短く鋭かった。その目には、明らかに苛立ちが浮かんでいる。

「やめるなんてできない。俺には、他に道がないんだ」

「そんなの、誰が決めたんだよ」

リオは怒りを抑えきれない様子で言葉を続けた。セイランはその言葉を聞きながら、ゆっくりと目を閉じた。

「誰が決めたかなんて、分からない。ただ……この世界が俺をそうさせるんだ。双月の均衡を保つために、俺は必要な存在だと言われてきた。それを否定することは……俺自身を否定することと同じだ」

セイランの声は静かだったが、その中にはどうしようもない諦観が混じっていた。リオはその言葉に拳を握りしめた。

「ふざけるな……!」

その一言は、まるで夜の静けさを引き裂くようだった。セイランは驚いたようにリオを見上げた。その目には、わずかな困惑が浮かんでいる。

「お前、自分の命を何だと思ってるんだよ! そんな……世界のためだとか、均衡のためだとかで、自分を犠牲にしていいわけないだろ!」

リオの声は荒かったが、その中には切実な想いが込められていた。セイランはその言葉を受け止めるように、じっとリオを見つめた。

「……君は、本当に優しい人だな」

「だから、それをやめろって言ってんだろ!」

リオは苛立ちながら叫んだ。その顔には怒りと焦燥が浮かんでいたが、それ以上に、セイランを守りたいという想いが透けて見えた。

「俺が優しいんじゃねぇ。お前が馬鹿みたいに自分を犠牲にするのが気に食わないだけだ!」

その言葉に、セイランは少しだけ目を見開いた。そして、静かに微笑む。

「……ありがとう、リオ」

その微笑みは、どこか儚く、美しいものだった。それがリオの胸をさらに締めつける。

「……もういい」

リオは立ち上がり、焚き火を背にして夜空を見上げた。二つの月が淡い光を放ち、彼らを見下ろしている。その光景に、リオは拳を握りしめた。

「お前が何と言おうと、俺はお前を勝手に犠牲になんかさせねぇ」

その言葉は、リオ自身への誓いだった。セイランはその背中を見つめながら、胸の奥で微かな痛みを覚えた。

「リオ……」

セイランが静かにその名前を呼ぶ。その声には、言葉にならない感情が込められていた。

「俺は……君に会えて、本当に良かったよ」

リオは振り返らなかった。ただ、その言葉を心の奥で受け止めながら、月を見上げていた。

運命の歯車が動き出す。

翌朝も二人は再び旅を続けていた。だが、その道の先に待っているものが何なのか、彼らにはまだ分からない。

リオの胸には、セイランを守り抜くという決意が宿っていた。セイランの胸には、リオへの感謝と、どうしようもない切なさが広がっていた。

二人の間に漂う静けさは、いつか大きな波に飲み込まれる前の静寂のようだった。
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