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第5章 王子の観察眼
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学院の中庭は、午後の陽光に満ちていた。
噴水の水音が心地よく響き、木々の影が芝の上に落ちる。
フローラ・エヴァンジェリンは、教本を胸に抱えながら歩いていた。
穏やかな風が頬を撫でる。
彼女はふと足を止め、視線を少し先に向けた。
ベンチのそばに、アラン・リステアと王太子シリウスの姿が見えた。
二人とも穏やかな表情で何かを話している。
近くまでは聞こえないが、静かな空気が漂っていた。
張り詰めたものも、敵意もない。
むしろ――どこか、柔らかい。
(あのお二人……なんだか不思議な雰囲気ですね。)
アランは、貴族らしい威圧感をほとんど見せない。
いつも控えめで、話すときは相手の目をまっすぐ見つめる。
それが彼の誠実さだと、フローラは思っていた。
初めて出会った頃は少し怖かった。
悪役令息と呼ばれるような人、そう思っていた。
けれど、話してみると――違った。
「どうしてそんなに、わたしを気にかけてくださるのですか?」
そう尋ねたとき、彼は少し困ったように笑って答えた。
『大切な人のためなんです。だから放っておけなくて。』
その言葉を思い出すたび、胸の奥があたたかくなる。
(“恋”では、ないんです。たぶん。)
ただ、人として尊敬できる。
相手を思いやる気持ちに、嘘がないから。
だからこそ、彼の隣に立つ殿下の表情に気づいたとき――
フローラは少し、驚いた。
金の瞳が、穏やかに揺れていた。
それは政治のためでも、義務でもなく。
誰かを真正面から見つめる人の目。
(……殿下が、そんな顔をするなんて。)
風が吹き抜け、花弁がひとつ、アランの肩に落ちた。
殿下が何気なく手を伸ばしてそれを払う。
その距離は近く、仕草は自然で――どこか、優しかった。
フローラは立ち止まったまま、そっと息をつく。
胸の奥で、何かが静かに変わるのを感じた。
(わたし、もう少しだけ……お二人を見ていたい。)
“羨ましい”とか“切ない”とか、そういう感情ではない。
ただ、心のどこかで祈るように思った。
どうか――この優しさが、誰も傷つけない形で続きますように。
そして、午後の鐘が鳴る。
フローラは微笑んで、本を抱え直した。
「アラン様は……とても優しい方です。」
誰に言うでもなく、風の中にそっと呟いた。
その言葉は光に溶け、やわらかな春の匂いとともに消えていった。
噴水の水音が心地よく響き、木々の影が芝の上に落ちる。
フローラ・エヴァンジェリンは、教本を胸に抱えながら歩いていた。
穏やかな風が頬を撫でる。
彼女はふと足を止め、視線を少し先に向けた。
ベンチのそばに、アラン・リステアと王太子シリウスの姿が見えた。
二人とも穏やかな表情で何かを話している。
近くまでは聞こえないが、静かな空気が漂っていた。
張り詰めたものも、敵意もない。
むしろ――どこか、柔らかい。
(あのお二人……なんだか不思議な雰囲気ですね。)
アランは、貴族らしい威圧感をほとんど見せない。
いつも控えめで、話すときは相手の目をまっすぐ見つめる。
それが彼の誠実さだと、フローラは思っていた。
初めて出会った頃は少し怖かった。
悪役令息と呼ばれるような人、そう思っていた。
けれど、話してみると――違った。
「どうしてそんなに、わたしを気にかけてくださるのですか?」
そう尋ねたとき、彼は少し困ったように笑って答えた。
『大切な人のためなんです。だから放っておけなくて。』
その言葉を思い出すたび、胸の奥があたたかくなる。
(“恋”では、ないんです。たぶん。)
ただ、人として尊敬できる。
相手を思いやる気持ちに、嘘がないから。
だからこそ、彼の隣に立つ殿下の表情に気づいたとき――
フローラは少し、驚いた。
金の瞳が、穏やかに揺れていた。
それは政治のためでも、義務でもなく。
誰かを真正面から見つめる人の目。
(……殿下が、そんな顔をするなんて。)
風が吹き抜け、花弁がひとつ、アランの肩に落ちた。
殿下が何気なく手を伸ばしてそれを払う。
その距離は近く、仕草は自然で――どこか、優しかった。
フローラは立ち止まったまま、そっと息をつく。
胸の奥で、何かが静かに変わるのを感じた。
(わたし、もう少しだけ……お二人を見ていたい。)
“羨ましい”とか“切ない”とか、そういう感情ではない。
ただ、心のどこかで祈るように思った。
どうか――この優しさが、誰も傷つけない形で続きますように。
そして、午後の鐘が鳴る。
フローラは微笑んで、本を抱え直した。
「アラン様は……とても優しい方です。」
誰に言うでもなく、風の中にそっと呟いた。
その言葉は光に溶け、やわらかな春の匂いとともに消えていった。
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