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第8章 雨宿りと密談
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雨が、まだ止まない。
外は薄暗く、遠くで雷の残響がかすかに響いた。
馬屋の中には、濡れた藁の匂いと、火打石の小さな炎。
それだけ。
静かすぎて、息づかいがやけに大きく聞こえる。
シリウス殿下は、濡れた外套を干したまま、無言で腰を下ろしていた。
肩まで落ちた黒に近い青髪から、まだ少し水滴が伝っている。
焚き火の光がそれを照らして、金の瞳がちら、と揺れた。
(……静かだ。静かすぎる。)
「……」
「……」
(しゃべらないの? え、会話終了? いや、もう少し雑談とか……!)
外では馬が低く鼻を鳴らし、雨が藁屋根を叩く。
火が小さく弾ける音。
その全部が、ひとつのリズムみたいに重なっていた。
(落ち着け、アラン。これはただの雨宿り。
なにもイベントじゃない。フラグじゃない。絶対に違う。)
……でも、空気が近い。
距離にすれば一メートルもない。
殿下の指先が視界の端に入るたび、心臓がひとつ跳ねる。
(あれ? さっきまで、こんなに近かったっけ?)
ふと、殿下が視線をこちらに向けた。
金の瞳。
焚き火の明かりを反射して、ほんの一瞬、光が走る。
「……っ」
言葉が出ない。
呼吸が浅くなる。
なにか言わなきゃと思っても、声が出ない。
手を動かそうとした、その瞬間。
かすかに、殿下の指先が俺の手の甲に触れた。
ほんの一瞬。
でも、時間が止まったみたいだった。
(ちょ、まっ……!?)
反射的に引こうとして、逆に指が絡まりそうになる。
慌てて離すも、もう遅い。
鼓動の音だけが耳の奥でドクドク鳴っていた。
「……すまない。」
殿下の声は、驚くほど穏やかだった。
怒っても、焦ってもいない。
ただ、少しだけ息が掠れていた。
「い、いえっ、こちらこそ!」
(こちらこそって何!? 今のどう見ても俺が勝手にドジっただけ!
というか、なにこの空気!?)
再び沈黙。
火の音が、心臓の鼓動を隠すように弾ける。
(なにこれ、乙女ゲーみたいな雰囲気出すのやめてください……!)
殿下は少しだけ目を伏せて、炎を見つめていた。
その横顔が、あまりにも穏やかで。
なぜか、目を逸らせなかった。
雨音が、ゆっくり弱まっていく。
でも、俺の胸の音は、まだ止まらなかった。
外は薄暗く、遠くで雷の残響がかすかに響いた。
馬屋の中には、濡れた藁の匂いと、火打石の小さな炎。
それだけ。
静かすぎて、息づかいがやけに大きく聞こえる。
シリウス殿下は、濡れた外套を干したまま、無言で腰を下ろしていた。
肩まで落ちた黒に近い青髪から、まだ少し水滴が伝っている。
焚き火の光がそれを照らして、金の瞳がちら、と揺れた。
(……静かだ。静かすぎる。)
「……」
「……」
(しゃべらないの? え、会話終了? いや、もう少し雑談とか……!)
外では馬が低く鼻を鳴らし、雨が藁屋根を叩く。
火が小さく弾ける音。
その全部が、ひとつのリズムみたいに重なっていた。
(落ち着け、アラン。これはただの雨宿り。
なにもイベントじゃない。フラグじゃない。絶対に違う。)
……でも、空気が近い。
距離にすれば一メートルもない。
殿下の指先が視界の端に入るたび、心臓がひとつ跳ねる。
(あれ? さっきまで、こんなに近かったっけ?)
ふと、殿下が視線をこちらに向けた。
金の瞳。
焚き火の明かりを反射して、ほんの一瞬、光が走る。
「……っ」
言葉が出ない。
呼吸が浅くなる。
なにか言わなきゃと思っても、声が出ない。
手を動かそうとした、その瞬間。
かすかに、殿下の指先が俺の手の甲に触れた。
ほんの一瞬。
でも、時間が止まったみたいだった。
(ちょ、まっ……!?)
反射的に引こうとして、逆に指が絡まりそうになる。
慌てて離すも、もう遅い。
鼓動の音だけが耳の奥でドクドク鳴っていた。
「……すまない。」
殿下の声は、驚くほど穏やかだった。
怒っても、焦ってもいない。
ただ、少しだけ息が掠れていた。
「い、いえっ、こちらこそ!」
(こちらこそって何!? 今のどう見ても俺が勝手にドジっただけ!
というか、なにこの空気!?)
再び沈黙。
火の音が、心臓の鼓動を隠すように弾ける。
(なにこれ、乙女ゲーみたいな雰囲気出すのやめてください……!)
殿下は少しだけ目を伏せて、炎を見つめていた。
その横顔が、あまりにも穏やかで。
なぜか、目を逸らせなかった。
雨音が、ゆっくり弱まっていく。
でも、俺の胸の音は、まだ止まらなかった。
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