妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

第13章 フローラの理解

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放課後の校舎は静かだった。
廊下の窓から射し込む夕陽が床を金色に染め、風がカーテンをやさしく揺らす。

フローラは教室を出たところで、ふと足を止めた。
前方の角を曲がったところに、白金の髪が見えたのだ。

「……アラン様？」

声をかけると、アランが小さく肩を跳ねさせた。
振り返った彼は、どこか落ち着かない様子で笑う。

「フローラ嬢……おや、奇遇ですね。えっと……お帰りのところですか？」

「はい。アラン様は？」

「その、考えごとをしていて……気づいたらこんな時間でして。」

苦笑いの奥に、少し疲れが見えた。
普段は理屈っぽいのに、今日はどこか言葉を選んでいる。

フローラは少しだけ勇気を出して尋ねた。
「最近、何かあったんですか？」

アランは一瞬、目を逸らした。
窓の外、沈みゆく光を見ながら小さく息をつく。

「……もし、俺が少し……おかしな態度をしていたなら、申し訳ありません。気づかないうちに誰かを困らせていたかもしれなくて。」

その声音は誠実で、少し不器用だった。
フローラは微笑む。

「アラン様、謝ることなんてありませんよ。
むしろ……私、アラン様の気持ち、少しわかる気がします。」

「……気持ち？」

「急に関係性が変わるのって、怖いですよね。
それまでの“当たり前”が壊れそうで、どう接したらいいか分からなくなる。
――でも、変わることって、きっと悪いことじゃないと思うんです。」

その言葉に、アランは目を瞬いた。
いつものように理屈で返そうとして、何も出てこない。

「……フローラ嬢は、強いですね。」

「そんなことありません。ただ……アラン様が優しい方だって、知ってるだけです。」

柔らかい沈黙が落ちた。
夕陽が二人の間を照らし、影がゆっくりと重なる。

アランは少しだけ頬を緩めた。
「……ありがとう。少し、楽になりました。」

フローラは微笑んで、軽く会釈した。
「お礼なんて要りません。私は……お話できて、うれしかったです。」

その背を見送りながら、フローラは静かに思う。
――この人は、やっぱり“誰かのため”に笑う人。
でも、いつかその笑顔が、自分自身のためになりますように。