妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊

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第14章 裏切り

14-4

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昼下がりの中庭。
春の光がやわらかく降り注ぐその場所で、
アラン・リステアはベンチに腰を下ろしていた。

背筋はいつも通りに伸びている。
けれど、指先が小さく震えているのを、フローラは見逃さなかった。

「アラン様……」

声をかけると、彼ははっとして振り返った。
いつものように丁寧な微笑を浮かべようとする。
けれど、その笑みはどこかぎこちない。

「フローラ嬢……ああ、すみません。少し考えごとを。」

「……噂のこと、ですか?」

一瞬、彼の表情が止まる。
否定もできず、肯定もできず。
その沈黙が、何よりの答えだった。

「皆さん、いろんなことを言いますけど……」
フローラはそっと腰を下ろし、手の中の紅茶カップを見つめた。
「私は、アラン様がどういう方か、ちゃんと知っています。」

「え……?」

「だって、アラン様はいつも誰かのために動いているじゃないですか。
 最初に私を助けてくださったときも、
 それからずっと……人の痛みに、真剣に向き合っておられます。」

言葉が、静かにアランの胸に染みていく。

彼はうつむいたまま、僅かに息を吸った。
「……ありがとう。
 けれど、それはただの自己満足なんです。
 守りたいと思っても、結局は誰かを困らせてばかりで。」

フローラは、ゆっくり首を振る。
「そうは思いません。
 優しさを行動にできる人って、そう多くありませんから。」

沈黙が流れる。
けれど、その沈黙は重くなかった。

中庭の噴水が、穏やかに水音を立てる。
鳥のさえずりが、少しだけ春を運んでくる。

やがて、アランが小さく笑った。
「……フローラ嬢は、強いですね。」

「そんなことないですよ。」
フローラも、柔らかく微笑んだ。
「私も昔、たくさん間違えました。
 でも、誰かに励まされて、少しずつ前を向けたんです。」

アランが顔を上げる。
その瞳の奥に、わずかな光が戻っていた。

「だから、今度は私が言いたいです。
 大丈夫です、アラン様。」

彼は、何かを堪えるように目を細めた。
「……ありがとう。
 本当に、あなたには救われます。」

春の風が、二人の間を優しく通り抜けた。

その笑顔を、少し離れた廊下から――
シリウスが、黙って見つめていた。
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