妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

第17章 断罪式の開幕

17-2

「王太子殿下を――誘惑したのです！」

突き刺すような叫び声が、広場に響いた。
一瞬にして静まり返る空気。
風すら止まったように感じた。

壇上に立つのは、魔導院の監察官。
手には、証拠と称する封筒と魔法陣の写し。
淡い紫の光を放つ紙片が、冷たく輝いていた。

「これが、彼女が使用したとされる“魅了魔法”の痕跡です。昨日の学園の舞台に仕掛けられておりました！」

どよめきが広がる。
貴族たちの間に「なんと」「まさか」などの声が飛び交う。
フローラは蒼白になりながらも、必死に首を振った。

「違います……そんな魔法、使っていません！」
「証拠があるのです。これをご覧ください。」

監察官が魔法陣の写しを掲げる。
その瞬間、陣の一部が淡く光を帯び――風が震えた。
まるで、実際に魔法が作動しかけたように。

「っ――！」

群衆の悲鳴。
魔法の光が爆ぜる前に、アランが咄嗟に手をかざした。
即座に防御結界を展開し、爆光を封じ込める。

「防御陣、展開完了……！」
思わず口から出たのは、前世仕込みの理屈っぽい呟き。
だがそれどころではない。

（今の魔法陣……明らかに後から“上書き”されてた！）
描線のゆがみ、符号の整合性――全部おかしい。
フローラが使うような初級魔術の構成じゃない。
明らかに、誰かが彼女を陥れるために細工したものだ。

「違う、それは――！」

アランが声を上げると同時に、壇上の視線が一斉にこちらへ向いた。
重く、鋭く、王族たちの目がアランを射抜く。

「……リステア令息？」

シリウスの声が静かに響く。
その声に含まれるのは――信頼か、それとも試しなのか。

アランは拳を握った。
（ここで言わなきゃ、フローラは終わる。）

だが、同時に脳裏をよぎる。
――この展開、ゲームでは存在しなかった。
つまり、この先は“未知の領域”。

広場の空気が再びざわめく中、アランは一歩、壇上へ踏み出した。