妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

第20章 婚約発表

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音楽が鳴り、花弁が舞っていた。
王宮の天井から吊るされたシャンデリアが金の光をこぼし、
その下で二人の婚約が、盛大に祝われている。

フローラは、少し離れた列の端に立っていた。
笑顔を作ることはできる。
けれど、胸の奥にある何かが、どうしても動かない。

リリィ様は本当に美しかった。
姿勢も、言葉も、息を呑むほど完璧。
殿下と並ぶ姿は、まさに王家の未来にふさわしい。

そして――その隣の列の少し後ろに、
アラン様の姿があった。

彼は静かに、微笑んでいた。
妹を誇らしげに見つめるような、穏やかな笑み。
けれど、それがどこか痛々しく見えるのは、なぜだろう。

（……アラン様。）

フローラは、拳を胸元でぎゅっと握った。
知っている。
彼がどれほど妹を思い、殿下を尊敬しているか。
その優しさが、どんなにまっすぐで純粋か。

だからこそ、分かってしまう。
彼の微笑みが――“本当の幸せ”ではないことを。

（あの人は、誰かのために笑う人。
　でも、今だけは……自分のために泣いてほしい。）

視界がにじむ。
どうして涙が出るのか、自分でも分からなかった。
ただ、この胸の奥の苦しさが、彼のものと似ている気がした。

人を好きになることは、祝福されるはずのこと。
けれどこの世界では、それが誰に向くかで、
喜びにも、痛みにもなる。

拍手が鳴り響く。
二人の婚約を讃える音。
フローラはその中で、そっと瞳を伏せた。

（お幸せに……リリィ様。そして、アラン様。）

声にはならなかった。
それは祝福ではなく――祈りのような沈黙だった。