妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊

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第21章 表向きの平穏

21-1

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――婚約発表から、半年。

王都は、まるで何事もなかったかのように穏やかだった。
断罪式の混乱も、噂も、すっかり過去の話だ。
そして今、王宮の政務棟では――

「リステア令息、こちらの報告書の確認をお願いします。」
「はい、すぐに。」

アラン・リステアは机に向かい、黙々と書類を整理していた。
現在の彼は、王太子付の政務補佐官。
同時に、フローラ・エヴァンジェリンとの婚約者でもある。

婚約発表は静かに行われた。
“庶民出身の娘と公爵令息の婚約”という見出しは、
一時的に人々の話題をさらったが、
今ではすっかり「お似合いの二人」と受け入れられている。

フローラは相変わらず明るく、
アランの仕事場にも時々、差し入れを持って訪れた。

「アラン様、また徹夜ですか?」
「いや、ちょっと数字の辻褄を合わせてただけだ。」
「“ちょっと”って言葉の意味、知ってます?」
「……痛いところを突くな。」

笑いながら返すと、彼女は軽く息をついた。
その何気ないやり取り――
それだけで、この世界が落ち着きを取り戻したように感じられた。

(……穏やかだな。)

心の中で、そう呟く。
穏やかで、静かで、
そして――少しだけ、息苦しい。

妹のリリィは、王太子妃として完璧に務めを果たしている。
兄として、これほど誇らしいことはない。

けれど。

(なぜだろうな。
 “平穏”って、こんなに重いものだったか?)

ペンを置いて、窓の外を見上げた。
春の風が王都を撫で、
庭園の花々が優しく揺れている。

――その光景の中に、
時折よぎる金の瞳を、今でも忘れられない。

彼は笑う。
フローラの前でも、リリィの前でも、
完璧な“理想の令息”として。

(……これでいい。
 俺は、みんなを守る側でいる。)

そう言い聞かせながら、
アランは今日も笑顔で仕事に戻った。

ただ一瞬だけ、
机の上の紙に落ちた影が――
金色に見えた。
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