とある田舎の恋物語

やらぎはら響

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 優を連れて家に帰ると、無事でよかったとバタバタと秋と夾が出迎えた。
 もう大丈夫だと言ってみんなで夕食にしたけれど、まるでお通夜だった。
 夕食が終わっても重苦しい雰囲気は変わらず、優はあぐらをかいている知臣の膝に乗り上げてぎゅうと抱きついて離れない。
 秋もチラチラと知臣の方を見ていた。

「日向君のおかげで、あいつはもう来ないから安心しろ」
「……そうなのか?」

 秋が知臣の言葉におずおずと尋ねてくる。
 あのビンタのことを言っているのだろうなと思いながら、日向も。

「追っ払ったから、大丈夫だよ」

 優がべったりと知臣にくっついたまま、ぐりぐりと知臣の胸に頭を擦りつけた。
 夾にいたっては、むっつりと黙り込んでいつもの快活さが微塵もない。
 どうにかしてあげたいと思っても、日向には何も出来ない。
 歯がゆく感じていると、数日前の事を思い出した。
 ヒナの歌に大興奮していた夾。

(歌ったら、少しは元気でるかな)

 そんなことが脳裏をよぎる。
 けれど、ヒナだとバレるだとか、自分なんかの歌でだとか諸々の感情がストップをかけてくる。
 しかし、立てた膝に夾が顔を伏せた瞬間に日向はぐっと一度唇を引き結ぶと、すうと息を吸ってから歌い出した。

「え……!」

 バッと顔を上げた夾が目を見開いて日向を凝視する。

「その歌声」

 秋も目を丸くした。
優も突然の日向の歌に、頭を上げてから振り返った。
 知臣も、驚いた顔で日向を見ている。
 即興で元気を出してと歌った日向は、短い一曲を歌い終えた。
 どんな反応がくるかは怖かったけれど。

「ヒナがひな君!?」

 夾が素っ頓狂な声を上げたことに、日向は内心ホッとして小さくうんと頷いた。

「凄い!凄い!」

 夾が興奮してバッと立ち上がる。

「日向君」

 いいのかと言うように知臣から名前を呼ばれた。
 それにしんなりと瞳をたわめると。

「みんなにはバレてもいいんだ」

 ハッキリと口にした。
 自分のうじうじした気持ちよりも、この兄弟が元気でいる事の方が日向には重要だった。

「夾がよく聞いてるやつですよね?学校でも聞いてるやつ多いのに!」

 秋も、夾同様に目を丸くしてから声を上げた。

「学校って……そうなの?」
「そうですよ!」

 不思議そうに質問すると、秋が鼻息荒く答える。
 夾はなおも本当に!?などと頬を紅潮させている。
 兄達の様子と日向の歌に、優も知臣の膝からうんしょと下りた。

「ゆうもおうたうたえるよ!」

 元気を取り戻したように、はいとぷくぷくの手を優が上げた。
 それに安堵の息をこっそりと吐きながら笑いかける。

「そっかあ、一緒に歌う?」
「うん!」

 頷いた優に、よくある童謡を歌ってあげると、幼児独特の調子っぱずれな音程の歌が被さってくる。
 それに夾まで歌い初めて、いつもの中川家の雰囲気になったことに、日向は心の底からよかったと安心した。
 そのまましばらく小さな合唱会は続いたのだけれど、笑って弟達の歌を聞く知臣の様子が日向は気にかかっていた。
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