【BL】異世界転移をしたい腐女子の妹は、その妄想のすべてに陰キャの兄が巻きこまれていることを知らない

ばつ森⚡️8/22新刊

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番外編:結婚式編【Wedding Invitation To...】

新郎 ヒュー レファイエット 後

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本日2つエピソードあります
―――― 



「泣いてたな……妹」
「認めてくれてよかったよ」

 夕日の差す庭園には、もう僕たち以外の姿はなかった。
 あのあと、僕たちはこの美しい庭園の中で、小さな結婚式を挙げた。参列者は羽里と勇者パーティの面々だけだったけど、最高に嬉しい結婚式だった。

 はじめは……結婚式だなんて恥ずかしくて、ちょっと緊張していたけど、でも実際にやってみたら……祝ってもらうということが、とても嬉しいことなんだと気がついた。
 式を挙げ、みんなで飲んで、食べて、いろんな話をして……みんながみんなずっと笑顔で、僕はこの日を一生忘れないと思った。
 こんなにお祝いしてもらったら、一生ヒューのことを幸せにするためにがんばるしかない。そう思っていたら、理論大好き合理的現実主義者の恋人が、身も蓋もないことを言った。

「できるだけたくさんの人に祝われたほうが、冷めたときにも逃げづらいだろう」
「言い方なんとかならないの」

 当初、ヒューが結婚を呪縛のように語っていたことを思い出して、僕は死んだ魚のような目になった。
 あとから教えてもらってびっくりしたけど、この庭園は空に浮いている小さな浮遊島らしい。
 庭園のはじっこには柵があって、そこから下には蘇ったユクレシアの風景が広がっていた。「ノアが見たいだろうと思ったんだ」と言ったヒューが、みんなで旅をした道を、思い出をなぞるように、指でさしながら教えてくれた。

 訪れた場所のすべてが美しい緑に溢れ、輝いていた。ヤマダくんがこの世界を本当に救ってくれて、ヒューの生まれた世界は蘇ったんだっていう実感がようやく湧いた。
 話している間中、ヒューがずっと僕のことを抱きしめて離さないからくすぐったかったけど、でも……あたたかな腕に包まれて、僕はこの世界でヒューに出会えたことを……その奇跡みたいな出会いを……その幸せを噛みしめた。

 そのあとは、庭園の中にある邸宅の二階のテラスに上がり、そこにあった大きなソファにヒューと一緒に座っているところだった。L字になっているソファの上で、二人で足を伸ばして、うしろからヒューに抱えられてる。
 さっきまで祭りのように騒いでいたみんなが帰ってしまって、少し寂しいなと思っていた。でも、ヒューは僕とは全然違って、「逃げづらい」だのなんだのって、こんなにもいろんなところで結婚式をしたというのに、まだ変な心配をしているのかと、僕はため息をついた。

「僕が……逃げると思ってるの?」
「どの世界でも、俺から逃げまくってただろ」

 それを言われると、それは事実だからなんとも言えなかった。
 でも、僕はヒューだとわかって逃げていたわけではないし、今はどのヒューだって僕の恋人だ。
 それに――。

「でも、ヒューからは逃げてないよ」
「どうだったかな……最後置いて行かれたからな」

 せっかく結婚したっていうのに、ヒューはまだ満たされてないみたいだ。さっきから、手を絡めたまま、抱きしめられて、キスをしたり、ゆっくりとした時間の中、二人で笑いあって、本当に新婚旅行……のようなことをしているのに。それでもだめなんだろうか……。
 でも、僕はあのとき――。
 あのときの僕は、ヒューに記憶を奪われていたけれども――。
 もしも記憶を残したままだったとしたら、どんな決断をしただろうと……たまに考えてしまう。ヒューはそのことがあって、羽里にあんまり優しくしてくれないんじゃないかとも思うのだ。

(家族と……恋人と……)

 僕はどちらを選んだのだろう。それは、今となっては考えてもしかたのないことだし、いろんな世界のいろんなヒューと過ごした時間も、きっと大切な時間だった。
 だけど、それがトゲとなって、ヒューの心に刺さっている。

 あのとき僕の記憶を奪ったのは、僕のためでもあったし、ヒューのためでもあったのかもしれないと……少しだけ思う。
 そればかりは、あのときの判断ばかりは、僕にはどうすることもできなかったし、今あのときに戻ったとしても、なにが正解だったのかはわからないだろう。
 僕の葛藤が伝わってしまったのか、ヒューが困ったように笑って言った。

「でも、幸せに……してくれるんだろ?」
「うん。世界一、幸せに」

 そう言いながら、僕はヒューに口づけた。ついばむたびに響く優しい音に、幸せを感じた。

「だったらどの俺のときも、抵抗しないで素直に言うこと聞いたらいいだろ」
「それとこれとはわけが…………って、でも結局言うこと全部聞かせるくせに!」

 でも全部のヒューを幸せにしようと思ったら、ヒューのいじわるも、フィリのわがままも、ユノさんの激しさも、エミル様の横暴も、ミュエリーの性癖も、隼斗との気恥ずかしさも、全部受け止めて、幸せにしてあげなくちゃいけないのだった。

(結構……大変そうだ)

 でも、僕はどのヒューのことも愛しているし、結局……ヒューが好きだった。ヒューと結婚するなんて、僕はまだ信じられない気持ちでいっぱいだった。
 ヒューの胸に寄りかかりながら、きゅっとヒューの白いローブを掴む。

「ありがとう、ヒュー。諦めないでいてくれて」
「……お前が諦めなかったから、しょうがない。最後までがんばるしかなかっただろ」
「あ、やっぱりエミル様のとき、諦めかけてたんだ!」
「ぎりぎりだったな。まさか夢でまで、体使って引き止められるとは思ってもみなかった」
「かッ体って! それは! ヒューが!」

 そうやっていじわるなことばっかり言うヒューとは、僕は出会ったときからケンカばっかりだ。
 はじめのころはあんまりいい思い出もないし、いつからヒューが僕のことを大切に思ってくれていたのかもわからない。でも――。
 誰が一番好きかなんて……言うつもりはないんだ。
 でも――それでも。

(僕が好きになったのは……ヒューだったと……思う)

 心の中でそう言いながら、僕は首を伸ばしてヒューにもう一度キスをした。
 そっと重なったヒューの薄い唇が、だんだんひらいて、濡れた音が響き始めたころ、くったりとしてしまった僕を抱えてヒューが立ち上がった。
 どこへ向かっているのかはなんとなくわかったけど、僕もその行き先に異論はなかった。




「好き……大好き……」
「ん、俺も……ノアが好きだよ」

 雲みたいにふかふかなベッドに横になった僕の肌の上を、ヒューの綺麗な唇が滑っていく。僕はヒューの薄茶色の髪を撫でながら、その甘い刺激に体を震わせた。

 はじめてヒューと体を重ねてから、何度こうして愛しあったかはわからない。
 でもいつも、いつもヒューと抱き合うたびに、その奇跡に感謝してる。

 思わず涙が浮かびそうになって、きゅっとヒューの髪を掴んでしまった。僕のことを見上げたヒューが優しげに目を細めて微笑んだ。その笑顔に見とれてしまったのが恥ずかしくて、僕は口をとがらせながら訊いた。

「……なに」
「んー、いつも……はじめてしたときのことを思い出すんだ」

 僕も今、そんなことを考えていたから、どきっと心臓が跳ねた。ヒューが僕の腹に唇を落としながら言った。

「あんなに緊張したのは、はじめてだった」
「……ぁっ……うそ」

 あんなにも大変な状況のユクレシアで、ヒューは勇者召喚だってやってのけたんだから、僕のことに一番緊張するわけないと思った。でも、ヒューは噛みしめるように続けた。

「それだけ大切だったんだ……」

 ぺろっとへそを舐められて、ヒューの髪が腹を撫でた。ひくっと腰がゆらめく。
 ヒューが優しい愛の言葉を紡いでくれているというのに、ときめきすぎた僕の……ペニスがヒューの胸に当たってしまいそうで、焦る。

(うそ……だめだ……嬉しい……好きすぎる)

 ぎゅっと目をつむって、僕はどうにかして気をそらす方法を考える。結果、どうでもいいことを口にするしかなかった。

「は、はじめて二回あったけどね……しかも、二回目は怯えてる僕に言ったセリフを入れ換えたのも……知ってるんだから」
 僕がそう言うと、ヒューはふっと笑って体を起こした。
「だって……」

 それから、ぽすっと僕の横に倒れてきたヒューが僕の手を取ると、自分の中心へと導く。

「え?」

 熱くなったヒューのペニスが手に触れて、僕がびっくりしていると、ヒューは目を細めて首をかしげながら言った。

「ノアじゃなかったらこんな風にならないのは……ほんとだろ」
「ッッ……な、なにそのかわいい顔! ずるい!」

 絶対に自分の性器を握らせながらする表情じゃないッと僕は思った。首をかしげてるくせに上から煽るように見てくるあたりは、非常にヒューっぽい。
 そして、さらに高圧的に傲慢なセリフを続けてきた。

「好きになっちゃう?」
「〰︎〰︎ッッ」

 恋……というものは、増殖する。
 ヒューに出会ってから、僕はずっとそう思ってる。言葉を交わすたびに、視線が合うたびに、一緒にいるだけで、僕は毎日毎日、この偏屈な魔術師に恋をしてしまって大変なのだ。いじわるなことばかり、嫌なことばかり言って僕を困らせて、それで最後に僕の心にとどめを刺しにくる。

 〝ツンデレ〟がいいだなんて一体誰が言い出したんだ。
 四六時中そのツンに翻弄されて、デレで落とされる僕の身にもなってほしい。こんなの、こんなの――。

(胸が……破裂してしまう)

 どきどき、どきどきと、まるではじめて恋したかのように鳴り響く僕の心臓。はじめてヒューと触れ合ったときよりもずっと、ずっと毎日緊張してる。好きで、好きで、好きな人が、僕のことを翻弄してやまないのだ。
 自然と、誘うように唇がひらく。物欲しそうに見つめていたら、ヒューの顔が近づいてきて、唇を奪われた。
 僕はヒューの熱を握りしめたまま離すタイミングを失ってしまってたけど、それでも構わないとばかりにヒューが覆い被さってきた。

「好きだよ……ノア」

 切なく寄せられた眉、そんなヒューを見るだけで、心臓を掴まれたみたいな衝撃が走る。

「僕も……好き」

 そう言い切る前に、ヒューの唇にその想いごと奪われる。くちゅ、くちゅと濡れた音が響いて、僕の頭はクリームにでもなったみたいにとろけた。
 ぽやっとした頭で、なんとかヒューにも気持ちよくなってほしくて、僕は小さく手を動かしてみる。一瞬、口の中にあったヒューの舌が震えて、それから、もっとと言わんばかりに腰を軽く揺すられた。

(えっち……ヒューのえっち……)

 腰で指図されるなんてと思いながら、僕は両手でヒューのペニスを包むと優しく上下させた。愛しい人の熱が手のひらに伝わる。僕にキスをしているだけで、こんなに硬くしてくれていることにきゅうっと胸が締めつけられる。
 だけど、触れば触るほど、どきどきしてしまって……なんかもう、だめだった。

 唇を離したヒューの手が僕の尻に伸びて、一体どうやっているのかあたたかなオイルみたいな感触が広がった。くるくると入り口をなぞられて、それだけで自分がなにをほしがっているのか思い知らされる。
 ぶわっと顔に熱が集まって、強く唇を噛みしめていたけど、ヒューの長い中指が入ってきて、思わず「あっ」と声が洩れてしまった。最初にその指を体の中に感じたときは、まだ恋人とは言えなかったかもしれない。そのまま体から流されて――結局、大好きになってしまった。
 僕のはじめてはヒューだった。全部のはじめてはきっと、ヒューだった。

(これからだって人生は続くのに、こんなにも感動的なことがあるのかな……)

 ヒューの指が僕の中を滑るだけで、僕はもう我慢できなくなってしまった。そんなこと、全部お見通しな天才魔術師は……それでも、簡単に僕の思うようにはしてくれない。だけど、希望は聞いてくれる。

「言って、ノア」
「んッ……ぁ……ヒューの、ほし……」

 ぎゅっと握りしめてしまっていたヒューのペニスから僕が手を離すと、僕の脚を掴んだヒューがぐっと体重をかけてきた。熱いヒューの中心が僕の尻を撫でる。その熱が僕に与えてくれる快感を思い出して、はしたなくも、ごくっと喉を鳴らしてしまった。
 ぐぐっとヒューのペニスが中に押し入ってくる。はあ、と期待に満ちた息が僕の口から洩れた。

 行為自体は、きっといつもと一緒なのに、僕の感じてることは……違った。
 いろんなことがあった。
 本当に、信じられないほどいろんなことがあった。

 たった十八年の人生なのに、きっと……そのうちの大半を恋していた人と、今日、結婚することになった。
 ヒューはもっと、もっと長くの間、ずっと僕のことを好きでいてくれて、今日――ようやく、ひとつの区切りを迎えた。
 なんだかそのことを……想ってしまった。

 ズッと中を撫でるように進んでいくヒューのペニスが、僕の奥の奥まで到達するとき、僕は……僕は――。
 じわっと涙で視界が滲む。込み上げたのは、胸が痛くなるほどの愛しさだけだった。

 濡れた紫陽花みたいな綺麗な瞳が僕を見下ろしていて、抱えた僕の脚にそっと唇を落とした。
 それだけで体に力が入って、ヒューの熱を強く締めつけてしまう。ぽろぽろと涙がこぼれて、僕は声にならない悲鳴をあげた。
 いつもしてることなのに――いつも、してる……ことなのに。
 ――同じ行為だとはまったく思えなかった。
 ぎゅうっと手が白くなるほどシーツを握りしめる。

「ぁ……あッまっ……あ、待って。なんか……ああぁッ」

 僕の体が大きく震えて、びくっびくっと大げさに腰が揺れた。
 僕の頭のてっぺんから足のつま先までが、恋に痺れて止まらない。ペニスからはなにも出てなかったけど、僕は「ぁ……あ……」と壊れたみたいに断続的な声をあげて、目の前の愛しい人が僕のことを優しいまなざしで見下ろすのだけを見てた。
 体の中に入ってる、愛しい人の形がわかる。
 ヒューがずいっと僕の脚ごと、僕の目の前までのしかかってきたせいで、苦しい。最奥にペニスを擦りつけられて、息もできない。僕の顔の横に腕をつきながら、ヒューが訊いた。

「ノア。ほんとは……俺が一番好きでしょ」
「ぁッ……あぁ〰︎〰︎」

 その質問に……なんて答えればいいのかなんて、頭の中身がとろとろになった僕には、見当もつかなかった。
 ただヒューのことが愛しくて、好きで好きでたまらなくて、もうなんでもしてあげたいし、もうどうにでもしてと思っていた。そんなことまで全部わかってるとは思いたくないけど、ゆっくりと腰を動かしながらヒューが言った。

「俺が言ったら、なんでも言うこと聞いちゃう?」
「ふ、ぅッ……あぁ」

 言葉にはならなくて、でも頷くのは恥ずかしくて、きゅっとヒューの腕を掴んだ。

「かわいい。俺に弱いな、ノアは」

 僕の頭を囲むように腕をついたヒューが、僕の大好きな綺麗な顔を見せつけるみたいに近づけてくる。なんでもお見通しな合理的魔術師には、きっと僕が最高に気持ちよくなる方法なんて全部把握されているのだ。
 僕にしか見せないえっちな顔も、いじわるそうな顔も、余裕のなさそうな顔も、全部好き。僕にだけ見せて。僕のことだけずっと好きでいて。

「好き、大好き……ひゅう」
「ん、俺も」

 いつもよりも深く、いつもよりも強く、つながってる気がした。
 幸せで、気持ちよくて、すぐにとろけてしまった僕が……何回目かの絶頂を迎えたとき、体の中にヒューの精液が広がるのがわかった。

「ぁ……あ……ッ」

 その一滴すらも全部僕のものにしたくて、僕はヒューのことを強く抱きしめた。
 体を震わせながら必死で抱きついていたら、また涙が溢れた。
 ヒューが体を少しだけ起こして、そっと僕の涙を拭ってくれる。はあはあと荒い息を吐き出しながら、ヒューが僕のことを見下ろして言った。

「ああ。これでもう……完全に俺のものだ」

 嬉しそうにそう言ったヒューを見ていると、本当に何回『俺のもの』にされるんだろうと、僕は困ってしまう。
 でも、何回だってヒューのものにしてくれていいと思った。
 それから、何度だって伝えようとも。
 僕は何度口にしたかわからないセリフをまた、ヒューに伝える。

「どこの世界にいたって僕は、はじめから、ヒューのものだったよ」

 その言葉を聞いたヒューが幸せそうに笑うのを見て、僕はずっと――ずっとこの笑顔を守っていこうと、思ったのだった。







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