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Act 1 大事な恋の壊し方(本編)
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しおりを挟む遊園地でのダブルデートから数日後。
思いがけず、瀬川さんからのメッセージを受信してしまったスマートフォンにオレは困惑していた。
連絡する、と言っていた彼の言葉は嘘ではなかったらしい。
『今日か明日、飲みにいかない?』
簡潔で急なお誘いだ。今日も明日も、運良くバイトの予定が入っている。
オレは丁重にお断りする旨のメッセージを送信した。
その二日後。
またしても瀬川さんからのメッセージを受信してしまった我がスマートフォンが、オレを呼ぶ。
友人と遊びに行くための準備をしていた手を仕方なく止めて、画面を覗く。
『女の子と飲む予定なんだけど、明日来れる?』
……これは合コンのお誘いということなのか?
千華ちゃんという彼女がいながら、瀬川さんはやや誠実さに欠けていらっしゃる。まあ、予感させる言動はあったし、あれだけモテていれば仕方ないのかもしれないが。
ただ、オレまで巻き込んでくるのは勘弁して欲しいものだ。知らぬ間に合コンの補欠要員にされていたことにも驚きだった。
瀬川さんには、今回も丁重に、お断りする旨のメッセージを送信した。
一週間後。
またしてもオレのスマートフォンへと飛んできたのは、瀬川さん発のメッセージ。
千華ちゃんのために仲良くしたい、という線は薄いだろう。……思い返せばあの二人、千華ちゃんばかりがメロメロで熱を上げている印象だったし。
じゃあ何故そんなにオレと飲みたいんだ? また飲みのお誘いだよな?
首を傾げる。瀬川さん、案外友人が少ないんだろうか。
仕方なくオレはメッセージを開けてみた。
『飲みに行こう。いつなら行ける?』
予想通りの内容だが、瀬川さん、誘い文句を微妙に変えてきている。これは断りづらい。さて、どうしよう。
オレはとりあえず、近いうちにバイト先のシフトを確認する旨を送信し、彼のお誘いを一旦保留にさせていただいた。
――瀬川さんとは、そんな感じでやりとり自体はあったので。
浮かない顔で智実が口にした友人の近況に、どう反応したらいいものかと戸惑った。
「……え?」
「だから、千華たち最近あまりうまくいってないんだって。何回も言わせないでよ」
「あ、ごめん。いやだって、一緒に遊び行ったの先々週だよ?」
「あの後なかなか連絡もつかないんだって。瀬川さん、バイトが忙しいとかで」
大学の食堂の端で、無料サービスの緑茶を飲みながら、オレたちはテーブルを挟んで向かい合っていた。
智実が今フォークでつついている小さなショートケーキは、オレが先程、寂しい財布の中からおごらされたやつだ。彼女の我儘に弱い自覚は十分ある。
それにしてもバイトって。瀬川さん、女遊びが忙しいの間違いではないのかなとオレはちょっと勘ぐった。
ぶっちゃけ想定内の展開ではあるのだけど、……ちょっと早過ぎない?
「りっちゃん、瀬川さんと連絡先交換してたよね? なにか聞いてない?」
落ち込んでいるらしい千華ちゃんが心配なのだろう。縋るような眼差しで智実は訊ねてくる。
そうは言われても、オレだって理由らしい理由は知らないわけで。
「し、知らないかな」
「……嘘よね。その顔は何か知ってるって顔だもん、言いなさい!」
ついつい視線を泳がせた馬鹿正直なオレを、勘の良い智実が見逃してくれるはずがなかった。
迷った末に、瀬川さんから何度か誘いがあったことをまず白状する。憶測でどうこう言うのが良くないっていう認識くらいはあるわけで、だけども下手に隠し事をすればこちらにまで飛び火しそうで、頭を抱えたくなってしまう。
「飲みの誘い? バイトが忙しいんじゃないの?」
「そこまではオレにもわかんないよ。でも、バイトだけでもないような」
「どういうこと?」
少なくとも、誘ってきた以上はオレとの予定を入れられるだけの時間の余白を彼は持っていたはずなのだ。それを千華ちゃんに充てないとなると。
これ以上の勝手な推論は口にするのも悪い気がして、言葉に窮した。すると躊躇するオレに、智実が優しく微笑みかけてくる。目が笑っていない。
「りっちゃん。いいから。知ってること全部教えて」
「…………この前遊んだ時も、瀬川さん、実は二人がいないところでナンパされてたんだよ」
「え!? そういうことは早く教えてよ! モテるだろうとは思ってたけど、ナンパされてたなんて知らない!」
「ご、ごめん、言いにくくて」
「それで!?」
「あー、うん。だいぶ断り慣れてる感じだったから、多分だけど、日常的にナンパとかあるんだろうなって。……出会いの多い人なんだろうとは感じたんだ」
だから、まあ多分女の影なのでは? ということを暗に匂わせる。
あくまでオレの勝手な予想だということを強調はしてみたものの、同じ男としての勘が、それで間違いないと伝えてくる。
あれだけ途方もなくモテる人なのだ。遊び人としての一面があったとしても、それはある意味で仕方のないことのようにも思うわけで。
そもそもが、千華ちゃんとの出会いだってナンパだと言っていたわけだし。
軽い男というものに特に偏見や苦手意識があるわけでもないオレは、例え瀬川さんがどういう男であっても、特に感じることはない。自分とは違うな、というだけだ。
しかし千華ちゃんと仲が良くて、女性で、しかも友人想いである智実はきっとそうは思わない。
オレは恐る恐る、智実のほうを窺ってみた。
――ああ、そうだよね。瀬川さんオレ、やっぱりあなたの肩は持てないや。
テーブルの反対側に腰を降ろす彼女の、女神のように美しく可愛い顔が珍しく怒りに染まっている。すぐにでも神罰を与えに行きそうだ。
智実の黒い感情に薪をくべてしまった自覚のあるオレは、そっと床に視線を落とした。
とげとげしい感情の矛先が自分じゃないとわかっていても、彼女の今の雰囲気はものすごく怖かった。
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