13 / 50
みっかめ ~へんかするこころ~
そうぐうとおどろき
しおりを挟む
俺は、箪笥の中に詰め込まれたそれをぼうっと眺め、溜め息をついた。
「……」
瑠璃の昔着ていた、可愛い女児服。
――こういう服を着たい。こんな可愛らしいものを身に付けたい。可愛くなりたい。
本能が訴えかける。胸の高鳴る鼓動が抑えられない。
今までこんなこと思ったことないのに。男なのに。おかしいはずなのに。
否定しようとしても、否定しきれない。
理性で抑えつけることもできずに、俺は箪笥の中から一枚、白いワンピースを取り出して――
「なにしてるの兄貴」
「うわぁぁぁぁ!?」
背後から少女、というか妹の声。慌てて、掴んでいた布を背中に隠しつつ、振り向く。
「なんでもないっ! なんにもしてないよ!! 決して可愛い服が気になってたとかあまつさえそれを着てちょっとおしゃれしたいとか思っていたりとかしたわけじゃ決してないからねっっ!!!」
必死に言い訳するが。
「へぇ……可愛い服、着たいんだ」
「なななななんでわかった――――!?」
「当たったー」
軽い調子で笑いながら言う瑠璃。俺は涙目になりながら聞く。
「てか、なんでこんな早くに帰ってきてるんだ!?」
「ちょっと色々あって早退した」
「色々って? というか、なぜジャージなん……」
聞こうとすると、瑠璃は一変、慌てた様子で言い訳。
「はっ、恥ずかしいから聞かないでよロリコン兄貴!! それともわたしがおもらしした話をそんなに聞きたいの!?」
「ふーん……おもらししたんだ」
「ふぇっ!? なんでわかったのっ!?」
今度は瑠璃が涙目になる番なのであった。
「じゃあ、俺は自分の部屋戻ってるから……」
「あとで出掛けるから、準備していてね」
「無視かっ!」
とりあえず部屋の扉を開けて、廊下を歩く。
それにしても、この体にはあんまり慣れないな……。階段の一段一段がすごく高くて上り下りしにくいし、ドアノブも結構高くて使いにくいし。
何もかもが大きくて、まるでおとぎ話の小人にでもなったような感覚だ。本当に小さくなっているからあながち間違いでもないのだが。
ともかく、どうにか自分の部屋にたどり着き、背伸びしてドアを開け、ベッドによじ登る。
そして、枕元に置いてある板を手に取った。
電源ボタンを押すとそれは光りだし、様々な情報を映し出した。
「うわぁ。スマホ、通知めっちゃ溜まってる……」
そういえば、俺がこの姿になってからスマホを一切触っていなかった。
ゲームがいくつか、SNSが十数、メールが何十、そしてニュースがいっぱい。この数日間に溜められた大量の通知がどんどん出てくる。
それぞれの内容をさっと確認。
げ、友達から大量の安否確認メールが来ているよ……。というか、メアド教えた覚えのない奴からも何件か来てるし……。
俺は、高校の友人たちを思い浮かべて、改めて姿見の前に立った。
フリルやピンクで飾られた服、ぷにぷにのほっぺた。ふっくらと膨らんだ下半身で拙く歩くその姿は、どこからどう見ても未だにおむつがとれない可愛らしい幼女だ。数日前までの俺の面影はもうどこにもない。
こんな姿、高校のみんなには見せられねえな。
俺は溜め息をついた。
しばらくして、外出。
「なあ、今日はどこに行くんだ?」
「散歩。それと買い物。ずっと家にこもりっぱなしだと気が滅入っちゃうでしょ?」
確かにな……。だからといって今じゃなくてもいいような気はするが。
「買い物は……夕飯か?」
「それもあるけど、一番は……」
小さくなる瑠璃の声。見上げると彼女の顔は赤く染まっていた。
「何を買うんだよ~」
からかうように聞くと、瑠璃は照れを隠すように叫んだ。
「あっ、兄貴には関係ないからっ!」
すると、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
「はぁ……。日向ってば、今頃ナニしてるんだろうな」
「何日も学校休んでさ……。心配するこっちの身にもなれってんだよ……」
俺は静かに瑠璃の服の裾を引く。
「なによ」
「ちょうど今、俺の高校の友達が目の前に」
「……なんでわたしの影に隠れてるのかな?」
だって仕方ないだろう。俺がこんな姿になってるだなんて知られたら、恥ずかしくて生きていられない。それに――
「おっ、可愛い女の子みっけ」
悲しきかな、彼らもまた、いわゆる「ロリコン」という生物なのである。
どうやら、ターゲットにされてしまったらしい。じろじろと、鋭くねっとりとした視線が俺に突き刺さる。
「ぐへへ……すっげえ可愛いわ……」
「ってか、隣にいる中学生くらいの子も可愛くね? ちょっと垢抜けてない感じで」
「やべえ、超わかるわ。いやぁ、眼福眼福」
知ってるはずの人間の、結構聞きなれた……むしろ自分が率先してやっていたような会話。それが、目の前で、自分に対して行われると、印象がガラッと変わる。
端的に言えば、超キモい。すっげえキモい。
やめてくれ……。背筋がぞわっとして軽く吐き気がする。
さらに、俺は同類だから読めてしまう。その後の行動も――。
「早く行こう!」
「そうね……」
俺たちは彼らの視線が届かなくなるまで逃げるしかなかった。
やがて、奴らを撒いたところで。
「ふう……」
俺は座り込んだ。
気が緩むと同時におまたも緩んだようで、おむつの中の湿度がぐんぐんと上昇していく。
「……兄貴、なんだったのアレ……」
「俺の友達さ。ロリコンの」
「うわキッモ」
……こんなにド直球な罵声を浴びせられるのは結構久しぶりだな。
「あいつら多分、今夜俺たちをオカズにして……」
「言わないで。超やめて。キモい。ヴォエッ」
吐く真似までして嫌悪する瑠璃。なんかわかるぞその気持ち。
それはさておき。
「ほら、ちょうどついた。兄貴、ここ寄るよ」
目の前にあったのは、ドラッグストア。それも結構大きめの。
中に入り向かった先は――。
「おむつコーナー? なんでだ? 俺のやつはまだ……」
家にいっぱいあるだろう。そう言おうとしたが、次の瑠璃の行動に思わず驚愕する。
ムーミーマン、スーパービッグサイズ。子供用で一番大きなサイズ。その女の子用のピンクのパッケージを手に取ったのである。
それは、翡翠さんがお泊まりの時使っていたものと同じらしい。俺には入らないこともないはずだが、確実に大きい。つまり、これを普通に使えるのは……。
「お……おねしょ対策のためなんだから……っ!」
顔を赤らめて、自分に言い聞かせるように瑠璃は呟いた。
「……」
瑠璃の昔着ていた、可愛い女児服。
――こういう服を着たい。こんな可愛らしいものを身に付けたい。可愛くなりたい。
本能が訴えかける。胸の高鳴る鼓動が抑えられない。
今までこんなこと思ったことないのに。男なのに。おかしいはずなのに。
否定しようとしても、否定しきれない。
理性で抑えつけることもできずに、俺は箪笥の中から一枚、白いワンピースを取り出して――
「なにしてるの兄貴」
「うわぁぁぁぁ!?」
背後から少女、というか妹の声。慌てて、掴んでいた布を背中に隠しつつ、振り向く。
「なんでもないっ! なんにもしてないよ!! 決して可愛い服が気になってたとかあまつさえそれを着てちょっとおしゃれしたいとか思っていたりとかしたわけじゃ決してないからねっっ!!!」
必死に言い訳するが。
「へぇ……可愛い服、着たいんだ」
「なななななんでわかった――――!?」
「当たったー」
軽い調子で笑いながら言う瑠璃。俺は涙目になりながら聞く。
「てか、なんでこんな早くに帰ってきてるんだ!?」
「ちょっと色々あって早退した」
「色々って? というか、なぜジャージなん……」
聞こうとすると、瑠璃は一変、慌てた様子で言い訳。
「はっ、恥ずかしいから聞かないでよロリコン兄貴!! それともわたしがおもらしした話をそんなに聞きたいの!?」
「ふーん……おもらししたんだ」
「ふぇっ!? なんでわかったのっ!?」
今度は瑠璃が涙目になる番なのであった。
「じゃあ、俺は自分の部屋戻ってるから……」
「あとで出掛けるから、準備していてね」
「無視かっ!」
とりあえず部屋の扉を開けて、廊下を歩く。
それにしても、この体にはあんまり慣れないな……。階段の一段一段がすごく高くて上り下りしにくいし、ドアノブも結構高くて使いにくいし。
何もかもが大きくて、まるでおとぎ話の小人にでもなったような感覚だ。本当に小さくなっているからあながち間違いでもないのだが。
ともかく、どうにか自分の部屋にたどり着き、背伸びしてドアを開け、ベッドによじ登る。
そして、枕元に置いてある板を手に取った。
電源ボタンを押すとそれは光りだし、様々な情報を映し出した。
「うわぁ。スマホ、通知めっちゃ溜まってる……」
そういえば、俺がこの姿になってからスマホを一切触っていなかった。
ゲームがいくつか、SNSが十数、メールが何十、そしてニュースがいっぱい。この数日間に溜められた大量の通知がどんどん出てくる。
それぞれの内容をさっと確認。
げ、友達から大量の安否確認メールが来ているよ……。というか、メアド教えた覚えのない奴からも何件か来てるし……。
俺は、高校の友人たちを思い浮かべて、改めて姿見の前に立った。
フリルやピンクで飾られた服、ぷにぷにのほっぺた。ふっくらと膨らんだ下半身で拙く歩くその姿は、どこからどう見ても未だにおむつがとれない可愛らしい幼女だ。数日前までの俺の面影はもうどこにもない。
こんな姿、高校のみんなには見せられねえな。
俺は溜め息をついた。
しばらくして、外出。
「なあ、今日はどこに行くんだ?」
「散歩。それと買い物。ずっと家にこもりっぱなしだと気が滅入っちゃうでしょ?」
確かにな……。だからといって今じゃなくてもいいような気はするが。
「買い物は……夕飯か?」
「それもあるけど、一番は……」
小さくなる瑠璃の声。見上げると彼女の顔は赤く染まっていた。
「何を買うんだよ~」
からかうように聞くと、瑠璃は照れを隠すように叫んだ。
「あっ、兄貴には関係ないからっ!」
すると、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
「はぁ……。日向ってば、今頃ナニしてるんだろうな」
「何日も学校休んでさ……。心配するこっちの身にもなれってんだよ……」
俺は静かに瑠璃の服の裾を引く。
「なによ」
「ちょうど今、俺の高校の友達が目の前に」
「……なんでわたしの影に隠れてるのかな?」
だって仕方ないだろう。俺がこんな姿になってるだなんて知られたら、恥ずかしくて生きていられない。それに――
「おっ、可愛い女の子みっけ」
悲しきかな、彼らもまた、いわゆる「ロリコン」という生物なのである。
どうやら、ターゲットにされてしまったらしい。じろじろと、鋭くねっとりとした視線が俺に突き刺さる。
「ぐへへ……すっげえ可愛いわ……」
「ってか、隣にいる中学生くらいの子も可愛くね? ちょっと垢抜けてない感じで」
「やべえ、超わかるわ。いやぁ、眼福眼福」
知ってるはずの人間の、結構聞きなれた……むしろ自分が率先してやっていたような会話。それが、目の前で、自分に対して行われると、印象がガラッと変わる。
端的に言えば、超キモい。すっげえキモい。
やめてくれ……。背筋がぞわっとして軽く吐き気がする。
さらに、俺は同類だから読めてしまう。その後の行動も――。
「早く行こう!」
「そうね……」
俺たちは彼らの視線が届かなくなるまで逃げるしかなかった。
やがて、奴らを撒いたところで。
「ふう……」
俺は座り込んだ。
気が緩むと同時におまたも緩んだようで、おむつの中の湿度がぐんぐんと上昇していく。
「……兄貴、なんだったのアレ……」
「俺の友達さ。ロリコンの」
「うわキッモ」
……こんなにド直球な罵声を浴びせられるのは結構久しぶりだな。
「あいつら多分、今夜俺たちをオカズにして……」
「言わないで。超やめて。キモい。ヴォエッ」
吐く真似までして嫌悪する瑠璃。なんかわかるぞその気持ち。
それはさておき。
「ほら、ちょうどついた。兄貴、ここ寄るよ」
目の前にあったのは、ドラッグストア。それも結構大きめの。
中に入り向かった先は――。
「おむつコーナー? なんでだ? 俺のやつはまだ……」
家にいっぱいあるだろう。そう言おうとしたが、次の瑠璃の行動に思わず驚愕する。
ムーミーマン、スーパービッグサイズ。子供用で一番大きなサイズ。その女の子用のピンクのパッケージを手に取ったのである。
それは、翡翠さんがお泊まりの時使っていたものと同じらしい。俺には入らないこともないはずだが、確実に大きい。つまり、これを普通に使えるのは……。
「お……おねしょ対策のためなんだから……っ!」
顔を赤らめて、自分に言い聞かせるように瑠璃は呟いた。
0
あなたにおすすめの小説
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
妹の仇 兄の復讐
MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。
僕、寺内勇人は高校三年生。妹の茜は高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。
その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる