つい勢いで後輩の童貞を奪っちゃうような女ですが、こんな私でも愛してくれるんですか?

春音優月

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【第二部】

64、そんな話本当に知りたい?

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「二年も付き合ってたのに、よくキスだけで我慢できたね」
「親が家にいたから。バイト禁止の高校だったから金もなくて、どっか泊まったりも出来なかったし」
「なるほどね~。でも好きだったんだ?」
「付き合ってた時は」
「何がきっかけで付き合うことになったの? どっちから告白した?」
「答えてもいいですけど、そんな話本当に知りたいですか?」
 
 慧が何か言う前に次々に質問していたけど、慧はあんまり答えたくなさそうにしている。
 
「うん、知りたい」
 
 居心地が悪そうにしている慧の目をじっと見つめると、小さく息をついてから口を開いた。
 
「一年の時に二人で学級委員してた時に話すようになったんだけど、二年になってまた同じクラスになって向こうから告白されて付き合い始めました」
「えっ、慧が学級委員!?」
「変ですか」
「あ、ううん、ごめんね。ちょっと驚いたけど、変じゃないよ」
 
 学級委員ってタイプに見えなかったらびっくりしちゃったけど、付き合う前にも私の面倒とか色々見てくれてたし、友達の相談にも乗ってあげてるみたいだし、これで案外面倒見がいいからね。学級委員やっててもおかしくはないのかも。
 
 学級委員やってたかどうかよりも、今は彼女の話だ。
 
「それで、何で別れたの?」
「前も言ったような気がするけど、他に好きな人が出来たってフラれたんです。受験でお互いピリピリしてたのもあるけど、付き合った後も友達みたいな雰囲気だったので、卒業する少し前からなんとなく上手くいってなかったし」
「そうなんだ」
 
 付き合った後も友達みたいな雰囲気というのが私にはよく分からないけど。それってどんな感じなんだろ? でも二年、二年かぁ。自分から聞いといてなんだけど、やっぱり元カノの話なんて聞かない方がよかったかも。
 
「花音先輩も高校の時彼氏いましたよね?」
「一人いたけど。でも三ヶ月くらいで別れたなぁ」
「その彼氏が初めての人ですか」
「ううん、高校の時の彼氏とはキスまでしかしてない。私も初体験は大学に入ってからだったよ」
 
 そんなことを言いながら慧の顔を見ると、慧は少し驚いたような顔をしていた。
 
「意外?」
「少し」
「知りたい? 私の初めての人」
 
 意味ありげに笑うと、慧は視線を彷徨わせた後でうつむく。
 
「気になるけど、聞いたら忘れられなくなりそうなのでやめておきます」
「かしこい。過去の人の話なんて聞かない方がいいよ。私も慧の元カノの話聞いて、今後悔してるもん」
「だから言ったのに」
 
 隣に座っている慧との距離を詰め、慧の身体にもたれかかると、私の腰に慧の腕が回ってきた。
 
「でもさ~慧は元カノと友達みたいな雰囲気って言ったけど、それでもキスしたりはしてたんだよね」
「もう俺の元カノの話はやめませんか」
「やめるけど、最後にこれだけ話させて。いっこだけ」
「……どうぞ。本当に一つだけですよ」
 
 慧に身体を預けたまま元カノの話を再び持ち出すと、慧は嫌そうにしてたけど、それでも話は聞いてくれるみたい。
 
「慧は前の彼女のことがすごく好きだったんだね」
「何でそう思うんですか」
「だって、本当に好きな人には手を出せないってよく言うよね。大事にしたいからとかそういう」
「いやだから、俺が元カノとキスまでだった理由はさっき言っただろ。
それにその、本当に好きな人には手を出さないっていうのが俺にはよく分からないです。好きだったら触れたいと思うしキスもしたいし、抱きたいと思う。彼女がしたくないって言ったら我慢するけど、何で手を出したら大事にしてないってことになるのか分からない」
 
 真顔でそう言われ、たしかにと頷く。
 
 キスしかしてないのに二年も付き合ってたことが引っかかってそんなことを言っちゃったけど、慧の言う通りかも。長く付き合ってる友達で身体の関係持ってないって聞いたことないし、時と場所さえあればそうなるもので、別に大事にしてるかどうかは関係ないのかな。
 
「じゃあさ、もし私が今日から一年間えっちなしねって言ったら、慧は我慢してくれる?」
「一年……?」
「うん♡」
 
 唐突な質問に慧は目を瞬かせていたけど、少し時間をあけてから口を開く。
 
「それ、一ヶ月ぐらいにならない?」
「あははっ、一年から一ヶ月って」
 
 大真面目にそんなことを言い出した慧がおかしくて吹き出してしまったけど、でも真面目に考えてくれたことが嬉しくて、元カノへの嫉妬心も薄れていく。
 
「一年は長すぎだろ……」
「だよね。そんなこと言わないから大丈夫。もし慧が我慢出来ても、私が我慢できないもん。ごめんね、変なこと言って。ちょっと嫉妬した」
 
 慧の方に身体を押し付けると、私の身体に回されていた慧の手にも力が込められ、強く抱き寄せられる。
 
「俺は花音先輩が好きです。今までも、これからも」
「私も慧が好き」
 
 少し身体を離して慧の目を見つめると、慧はわずかに顔を傾け、唇を重ねてきた。本当に好き。まだ元カノと付き合ってた期間の半分もいってないけど、それよりも長く一緒にいられるといいな……。
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