『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』

segakiyui

文字の大きさ
219 / 228
第3話 花咲姫と奔流王

26.星宮(3)

しおりを挟む
「へい…か…っ」
 無事だった。
 一瞬で滲んだ視界を瞬いて振り返ると、右目に血塗れの布を巻き付けたレダンが立っていて、血の気が引いた。
「さて、交代だ、シャルン」
「目が、右目がっ」
「出血は派手だが、頭までやられずに済んだ。多分、視界も保っている…今は真っ赤だが…あ」
「真っ赤…」
 なおも血が引いて行く思いに呟くと、
「っ」「このばかっ」「ってえ!」
 左右に立っていたガストとルッカの脚が同時に不穏な動きをして、レダンが蹲りかける。
「お前らなあっっ!」
「陛下っっ!」
 重症を負った主人に何をするっと怒鳴りかけたレダンが思った以上に元気だと気づいて、シャルンは思わずしがみついた。
「大丈夫だよ、シャルン。あなたを置いて行くことなんて二度とないから」
 甘い甘い囁きを返したレダンが、声音を変えて頭越しに呼びかけた。
「右目の所望には応じたぞ。妃を泣かせた罪は重い。何を支払うつもりだ」
 この世界の理を超えた存在に何と不遜な。
 震えながらレダンを見上げると、確かに血で汚れた右側を布で覆われてひどい有様だが、薄笑いが浮かんでいる。子どものような、珍しいおもちゃを手に入れたような、挑発する微笑。
 こんな顔もするんだわ。
 穏やかで優しくて、時に意地悪で切なげで、けれどひょっとすると、越えられない大きな障害物が目の前を塞いだ時、この人はこんな風に全てを楽しんでしまうのかしら。
 そろそろとレダンの視線を辿るように背後を振り返ると、炎を集めたような龍の姿は、薄赤い靄に変わりつつあった。
「逃げる気か」
 レダンの声が殺気を帯びる。薄笑いが消えた。
「従ぜよ炎龍、ムリャムリュン」
 低く忍びやかな、命じているとはとても思えないほど穏やかな声、だが顕現した龍は大きく波打ち動きを止めた。
「お前達の契約は理解したぞ。『かげ』を見つけ、代償を与えれば、お前達は主を護ることしかできない。主の願いを叶えるために、世界を滅ぼすことも辞さないが、主が死ぬまで背くこともできない。それが龍の契約だな?」
 再び赤い靄が明滅する、忌々しげに、不服そうに。
「では我が望みを叶えよ、破滅の龍。シャルンを二度と泣かせるな」
「は?」「そこ?」
 パラディオスとサリストアが思わず突っ込む。
「陛下?」
「世界最大の、最重要な案件だろうが」
 レダンが不満げに2人を振り返る。それから、まるで迷い犬に話しかけるようにさっくりと命じた。
「それさえ守ればお前は用済みだ。服せよ炎龍、ムリャムリュン」
 赤い靄は苦しげに波打ち、苛立たしげに広がりかけ、諦めたように渦を巻いて唐突に消えた。
「ふう…」
「陛下?」
 立っていたレダンが溜息をついて、軽くこちらにもたれてくる。
「さすがに少し疲れた」
「へい………っ」
 気丈に立っていたのだと気づくと同時に、右目の布の下からつるつると赤い雫が滴り始めたのが見えて息を呑んだ。気にした様子もなく、横殴りに擦って、レダンが微笑む。
「わかったこともわからないこともある…一度城に戻って検証しないか、シャルン」
 あなたのお母上を見つけられなかったのは残念だけど。
「いえ…いえ、陛下」
 こんな状態でも、シャルンの望みを考えてくれる愛しい相手に、シャルンは涙が滲みかけた微笑みを投げた。
「私、母の足跡に少し近づきました」
 ありがとうございます。
 シャルンを泣かせてはいけない、そう命じた主自らが泣かせる不手際を防ぐべく、シャルンは深く深く礼を捧げた。
 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】離縁など、とんでもない?じゃあこれ食べてみて。

BBやっこ
恋愛
サリー・シュチュワートは良縁にめぐまれ、結婚した。婚家でも温かく迎えられ、幸せな生活を送ると思えたが。 何のこれ?「旦那様からの指示です」「奥様からこのメニューをこなすように、と。」「大旦那様が苦言を」 何なの?文句が多すぎる!けど慣れ様としたのよ…。でも。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。  それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。  婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。  その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。  これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

【完結】婚約者なんて眼中にありません

らんか
恋愛
 あー、気が抜ける。  婚約者とのお茶会なのにときめかない……  私は若いお子様には興味ないんだってば。  やだ、あの騎士団長様、素敵! 確か、お子さんはもう成人してるし、奥様が亡くなってからずっと、独り身だったような?    大人の哀愁が滲み出ているわぁ。  それに強くて守ってもらえそう。  男はやっぱり包容力よね!  私も守ってもらいたいわぁ!    これは、そんな事を考えているおじ様好きの婚約者と、その婚約者を何とか振り向かせたい王子が奮闘する物語…… 短めのお話です。 サクッと、読み終えてしまえます。

わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
※完結しました。 離婚約――それは離婚を約束した結婚のこと。 王太子アルバートの婚約披露パーティーで目にあまる行動をした、社交界でも噂の毒女クラリスは、辺境伯ユージーンと結婚するようにと国王から命じられる。 アルバートの側にいたかったクラリスであるが、国王からの命令である以上、この結婚は断れない。 断れないのはユージーンも同じだったようで、二人は二年後の離婚を前提として結婚を受け入れた――はずなのだが。 毒女令嬢クラリスと女に縁のない辺境伯ユージーンの、離婚前提の結婚による空回り恋愛物語。 ※以前、短編で書いたものを長編にしたものです。 ※蛇が出てきますので、苦手な方はお気をつけください。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

処理中です...