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3 攻略したら…
しおりを挟む「一年の時から好きでした。」
ある日、周を放課後の屋上に呼び出して、橙空はそう告白した。
微かに眉を寄せて訝しげに自分を見る周に、橙空は畳み掛けるように少し声を張った。
「好きです!
お友達からでも良いからお試しに付き合ってくれませんか!」
「……え、っと…。
ごめんなさい?」
いやまあそうだろうな、と橙空は思った。
それは想定内だ。だって橙空は当然として、十中八九、周だって異性愛者だろうから。
すんなりOKが出るとは流石に自信家の橙空も考えてはいない。
いくら性に無軌道で奔放で好奇心いっぱいの高校生ったって、一気に同性愛はハードルが高い。
だから断られた時の対策も、ちゃんと考えてある。
普通ならこのシチュエーションは駄目元なんだろうが、何せ自分は天に愛された男、深町橙空なので。
「今はそれでも良いよ。
でも、少しづつ俺を知って欲しい。俺、頑張るから…チャンス、くれないか?」
少し瞳を潤ませながら上目遣い気味にそう言う。
普通なら気持ち悪がられるところだろうが、橙空は自分の美貌に絶対の自信がある。
男にだって何度か告白されてきたのだ。国籍性別問わず、美しいと思う筈だ。
きっと、目の前の周だって…。
反応を待っていると、周はまた僅かに眉を寄せた。
そして、低く響く声で答えた。
「……友達に、なら…まあ。」
「……え、ほんとに?」
自信満々だったとはいえ、友人には初回でしてくれるらしい。まさか本当に自分に告白してきた男と友情を築けるつもりなのか、橙空は内心で周を嗤った。
けれどそれを隠し、殊勝な表情で、
「ありがとう…嬉しい。」
と、少し涙ぐんですらみせたのだ。
周は相変わらず眉を寄せていたが、橙空にはどうやらそれが嫌悪などからではないのがわかってきた。
(コイツ、結構チョロいんじゃねえの?)
そう思って、俯きながら周に見えないようにほくそ笑んだ。
それからというもの、橙空は周と出来るだけ一緒にいる事にした。
勿論、遊び相手だった女生徒達も一旦全て切って。
切ったってその気になればセフレなんて直ぐに出来る。
でも、万が一にも真剣ではないとバレたら惚れさせる前に全てが水の泡で、橙空は告白し損だ。
ほんとに只、目障りな目の上のたんこぶに告白したという黒歴史が残るだけになってしまう。
絶対にそれだけは避けたかったのだ。
一緒に過ごすようになると、最初の内こそ周は少し居心地悪そうだったが、徐々に橙空の存在に慣れた。
何時しか傍にいるのが当たり前のようになり、周に気を遣われたりもするようになった。
本人がどう思っていたかは別にして、誰も寄せ付けない孤高だった周の傍を初めて陣取る存在になった事に、橙空は優越感を覚えた。
けれど、橙空の優越感が高まる程に、水面下では橙空に切られた女生徒達がちまちまと小さな嫌がらせを周にするようになっていた。
だが、橙空のシンパだったその女生徒達も、本人が預かり知らぬ内に勝手に大量発生している周の信奉者達の手前、隙をみても出来る事は限られていた。
精々が、別れろ!と書いた恨み言の手紙を机に入れたり、文具や私物を盗んだり隠したりする程度のちゃちい事。
しかも実はその中には、純粋に周のガチ恋信奉者の、"周様は孤高でいて欲しい"、という身勝手なものも混ざっていたのだから何とも理不尽な話だ。
周はその嫌がらせの事を橙空には言わなかったし、橙空も気づかなかった。
2人の距離は徐々に近づき、周は橙空が仕掛けてくるあざといスキンシップや、醸し出してくる甘い雰囲気、構って欲しいと健気にアピールする笑顔に 心を開いていった。
幼い頃から自分は好かれ難い陰キャであると思い込み、内にこもりがちで趣味の世界に浸るしか孤独を紛らわす手段が無かった周にしてみれば、こんなに親しく接してくれた相手は幼稚園の時の友達だった健一郎くん以来だった。
成長していく毎に、人は周を遠巻きに見た。
周はそれを、自分が図体がでかいだけのキモオタだからだと思い込んだ。
だから橙空のような、いかにも学園カースト上位を地でいくような陽キャチャラ男が自分に告白してくるなんてのは悪趣味な罰ゲーム以外に考えられないと疑ったし、告白を断った後に、恋人が駄目なら友達に、と言われたのは実は嬉しかったのだ。
それから友人付き合いが始まり、日を追う事に橙空に対する好意が大きくなっていくのに戸惑いもしたが、このまま恋人になるのも良いなと思うようにもなっていた。
自分とは違う世界に生きているリア充モテイケメンという認識が、自分の傍にいてくれる物好きで可愛い綺麗な人、に変わった。
寝癖を指で摘んで笑う無邪気な顔も、曲がったネクタイを直してくれる伏し目の長い睫毛も、細く長い指も、何もかもが愛しく思えて来た頃、周は突然捨てられたのだ。
やはり異性の方が良いと言って。
前日には周の部屋で一緒に試験勉強をしていて、良い雰囲気になってキスした矢先にだ。
全く訳がわからなかった。
キスした事で、やはり男は無理だなと正気に返ったという事だろうか。
それともやはり橙空は本気ではなく、キスでゲームクリアとなっただけなのかもしれない。
周は自分を嗤った。
そして周は、また心を閉ざした。
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