悪趣味な罰ゲームが風物詩だったあの頃の話

Q矢(Q.➽)

文字の大きさ
3 / 13

3 攻略したら…

しおりを挟む




「一年の時から好きでした。」

ある日、周を放課後の屋上に呼び出して、橙空はそう告白した。

微かに眉を寄せて訝しげに自分を見る周に、橙空は畳み掛けるように少し声を張った。


「好きです!
お友達からでも良いからお試しに付き合ってくれませんか!」

「……え、っと…。

ごめんなさい?」


いやまあそうだろうな、と橙空は思った。
それは想定内だ。だって橙空は当然として、十中八九、周だって異性愛者だろうから。
すんなりOKが出るとは流石に自信家の橙空も考えてはいない。
いくら性に無軌道で奔放で好奇心いっぱいの高校生ったって、一気に同性愛はハードルが高い。

だから断られた時の対策も、ちゃんと考えてある。
普通ならこのシチュエーションは駄目元なんだろうが、何せ自分は天に愛された男、深町橙空なので。


「今はそれでも良いよ。
でも、少しづつ俺を知って欲しい。俺、頑張るから…チャンス、くれないか?」

少し瞳を潤ませながら上目遣い気味にそう言う。
普通なら気持ち悪がられるところだろうが、橙空は自分の美貌に絶対の自信がある。
男にだって何度か告白されてきたのだ。国籍性別問わず、美しいと思う筈だ。

きっと、目の前の周だって…。

反応を待っていると、周はまた僅かに眉を寄せた。
そして、低く響く声で答えた。

「……友達に、なら…まあ。」

「……え、ほんとに?」


自信満々だったとはいえ、友人には初回でしてくれるらしい。まさか本当に自分に告白してきた男と友情を築けるつもりなのか、橙空は内心で周を嗤った。
けれどそれを隠し、殊勝な表情で、

「ありがとう…嬉しい。」

と、少し涙ぐんですらみせたのだ。

周は相変わらず眉を寄せていたが、橙空にはどうやらそれが嫌悪などからではないのがわかってきた。

(コイツ、結構チョロいんじゃねえの?)

そう思って、俯きながら周に見えないようにほくそ笑んだ。





それからというもの、橙空は周と出来るだけ一緒にいる事にした。
勿論、遊び相手だった女生徒達も一旦全て切って。
切ったってその気になればセフレなんて直ぐに出来る。
でも、万が一にも真剣ではないとバレたら惚れさせる前に全てが水の泡で、橙空は告白し損だ。
ほんとに只、目障りな目の上のたんこぶに告白したという黒歴史が残るだけになってしまう。
絶対にそれだけは避けたかったのだ。


一緒に過ごすようになると、最初の内こそ周は少し居心地悪そうだったが、徐々に橙空の存在に慣れた。
何時しか傍にいるのが当たり前のようになり、周に気を遣われたりもするようになった。
本人がどう思っていたかは別にして、誰も寄せ付けない孤高だった周の傍を初めて陣取る存在になった事に、橙空は優越感を覚えた。
けれど、橙空の優越感が高まる程に、水面下では橙空に切られた女生徒達がちまちまと小さな嫌がらせを周にするようになっていた。
だが、橙空のシンパだったその女生徒達も、本人が預かり知らぬ内に勝手に大量発生している周の信奉者達の手前、隙をみても出来る事は限られていた。

精々が、別れろ!と書いた恨み言の手紙を机に入れたり、文具や私物を盗んだり隠したりする程度のちゃちい事。
しかも実はその中には、純粋に周のガチ恋信奉者の、"周様は孤高でいて欲しい"、という身勝手なものも混ざっていたのだから何とも理不尽な話だ。

周はその嫌がらせの事を橙空には言わなかったし、橙空も気づかなかった。
 

2人の距離は徐々に近づき、周は橙空が仕掛けてくるあざといスキンシップや、醸し出してくる甘い雰囲気、構って欲しいと健気にアピールする笑顔に 心を開いていった。

幼い頃から自分は好かれ難い陰キャであると思い込み、内にこもりがちで趣味の世界に浸るしか孤独を紛らわす手段が無かった周にしてみれば、こんなに親しく接してくれた相手は幼稚園の時の友達だった健一郎くん以来だった。 

成長していく毎に、人は周を遠巻きに見た。
周はそれを、自分が図体がでかいだけのキモオタだからだと思い込んだ。
だから橙空のような、いかにも学園カースト上位を地でいくような陽キャチャラ男が自分に告白してくるなんてのは悪趣味な罰ゲーム以外に考えられないと疑ったし、告白を断った後に、恋人が駄目なら友達に、と言われたのは実は嬉しかったのだ。

それから友人付き合いが始まり、日を追う事に橙空に対する好意が大きくなっていくのに戸惑いもしたが、このまま恋人になるのも良いなと思うようにもなっていた。

自分とは違う世界に生きているリア充モテイケメンという認識が、自分の傍にいてくれる物好きで可愛い綺麗な人、に変わった。

寝癖を指で摘んで笑う無邪気な顔も、曲がったネクタイを直してくれる伏し目の長い睫毛も、細く長い指も、何もかもが愛しく思えて来た頃、周は突然捨てられたのだ。 
やはり異性の方が良いと言って。
前日には周の部屋で一緒に試験勉強をしていて、良い雰囲気になってキスした矢先にだ。

全く訳がわからなかった。

キスした事で、やはり男は無理だなと正気に返ったという事だろうか。

それともやはり橙空は本気ではなく、キスでゲームクリアとなっただけなのかもしれない。


周は自分を嗤った。





そして周は、また心を閉ざした。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

婚約破棄を提案したら優しかった婚約者に手篭めにされました

多崎リクト
BL
ケイは物心着く前からユキと婚約していたが、優しくて綺麗で人気者のユキと平凡な自分では釣り合わないのではないかとずっと考えていた。 ついに婚約破棄を申し出たところ、ユキに手篭めにされてしまう。 ケイはまだ、ユキがどれだけ自分に執着しているのか知らなかった。 攻め ユキ(23) 会社員。綺麗で性格も良くて完璧だと崇められていた人。ファンクラブも存在するらしい。 受け ケイ(18) 高校生。平凡でユキと自分は釣り合わないとずっと気にしていた。ユキのことが大好き。 pixiv、ムーンライトノベルズにも掲載中

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

処理中です...