冷宮の人形姫

りーさん

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第一章 虐げられた姫

第11話 兄妹との交流 3

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 寝てしまった。知らないうちに、疲れが溜まっていたのかもしれない。また誰か来るのだろうか。私には兄と姉が多いらしいし、他にも人形姫見たさに来る人はいるかもしれない。

「おはようございます。フィレンティア皇女殿下」
「お召し物を変えさせていただきます」

 もうこの二人は、私にたずねることをしなくなった。しても無駄だと分かったのかもしれない。

 いつも通り着替えたら、ベッドの上に座る。

 今日も誰か来るのかと思っていたら、予想通り誰か来た。

「……よぉ、フィレンティア。久しぶりだな」

 そう言って、誰か入ってきた。……この人、誰だっけ?久しぶりと言うからには、一度会ったことがあるはずなんだけど……年齢的には、昨日の皇子とあまり変わらないんだけど……

「こ、この前は……突き飛ばして悪かったな」

 どんどん小さくなりながら、そんなことを言った。

 ……?そんなことあったっけ?突き飛ばされるのなんて、毎日のようにあったから、どれのことかまったく分からない。

 とりあえず、うなずいておけばいいかなと思って、ゆっくりと首を振る。

「……どこか行くか?」

 どこかって……どこ?それに、私に質問なんかしても、答えは返ってこないのに。冷宮にいたときは、はいと答えても、いいえと答えても、殴られるだけだったし。どっちにしろ同じなら、答えない方がいい。時間の無駄だと思って過ごしたから、質問されても、どう答えればいいのか分からない。

 それに、私は話せないから。

 しばらくお互い話さないままでいたら、セリアが私に質問した。

「お外に出かけても構いませんか?」

 さっきの子とは別の聞き方だった。これなら答えられる。嫌かと聞かれれば、嫌ではないから、うなずいて答えられる。

「構わないそうですよ、アルクシード皇子殿下」

 この子、アルクシード皇子って言うんだ。昨日の子と同じ皇子、皇子なら、私と兄妹って事になるし、どこかで会っていても、突き飛ばされてもおかしくない。

「昨日は花園に行ったって言うし……どこがいいかな……」

 考えてなかったのかな?だったら、別に行かなくてもいいのに。行きたくないわけではないけど、行きたいわけでもないから。

「じゃあ、俺の宮に来いよ。面白いもんがいっぱいあるからさ!」

 そう言って、私の腕を引っ張る。そのまま走っていくので、私の足がついていけずに、転んでしまった。

「あっ」
「フィレンティア皇女殿下!」

 ハリナとセリアが駆け寄ってきたけど、そのときには私はもう立ち上がっていた。これくらいなんてことないのに。

「大丈夫か!?」

 皇子は、私の顔を覗き込んできた。そして、すぐに私の足を見る。私も皇子の方を見ると、足から血が出ているのに気がついた。今転んだせいで、血が出たんだ。まったく気がつかなかった。

「血が出てるじゃないか!早く手当てしないと……」
「ここには応急手当できるようなものがありませんから……」
「じゃあ、別の宮に行けばいいな。ハリナとセリアは走れるだろ。こいつ抱えて俺についてこい」

 皇子の行った通りに、私に「失礼します」と声をかけてからハリナが抱き抱えた。そして、皇子が走り出して、二人もそれに続いた。

 ここの人達は、まるで私を人間のように扱ってくる。質問したり、怪我のことでこんなに騒いだり。騒ぐのは、何でだろう?“心配”というものをしているの?そんなことをしても、私は人間のように振る舞えないのに。痛がったり、泣いたりできないのに。粗雑に扱われる人形でしかいられないのに。

 時間にして、5分もかかってないくらいかな?ある建物の前まで来ると、全員が止まった。

 この人達、ときどきスピードは落ちていたけど、5分も走れるんだ。静香の記憶では、そんなに長い間走れるのなんて、マラソンランナーくらいだったのに。それも、そこまで速くはなかったと思うし。

「お帰りなさいませ」という声を聞きながら、宮に入ったここは、誰が住んでいるところなんだろう?お帰りなさいませと言っていたから、この皇子が住んでいるところなのだろうか。

 私が住んでいるところより広いな。宮によって大きさの違いがあるんだ。全部同じにした方がいろいろと楽なんじゃないかと思ったけど、楽の基準は人によって違うし、多分、何か理由があったんだろう。何も知らない私がとやかく言うべきことではない。

 ある一室に私が通されて、ソファに座らせられる。私くらいでも、座ると沈んでしまう。フカフカなのかな?

「確かここに……」とか言いながら、皇子は近くの棚を漁っている。何を探しているんだろう。

「あった!」

 そう言って、箱らしき物を取り出した。それを、私の方に持ってくる。

 ……何それ。

 その箱らしき物をハリナ達が受け取って、そばに置いた。そして、私の方を向く。

「フィレンティア皇女殿下。今から治療しますので、力を抜いてください」

 力を抜く……脱力すればいいってこと?

 言われた通りに、完全に力を抜いた。一応、座れるくらいには力を残しているけど、少しでも触れられたら倒れるかもしれない。

 セリアが私の手に触れて、何かぶつぶつと話している。何を言っているんだろう?何か言っていることは分かっても、何を言っているのか分からない。

 なんか、呪文みたいな──

「プリフィケイション」

 ハッキリとそう聞こえた。最後だけにそう言った。そのとき、怪我した部分が少し光って、すぐに治まった。

 あのよく分からない言葉は、本当に呪文だったんだ。この世界、魔法があるんだな。そういえば、ルメリナも使っていた気がする。燃やしたり沈めたり切り刻んだりとかしてたなぁ……

 今となっては昔のようにしか感じないけど。これは、そもそもどうでもいいのか、気にしなくなったのかは分からない。でも、今の生活にあまり嫌気は感じない。嬉しいとも感じないけど。

「皇女殿下、立てますか?」

 考えごとをしているうちに、包帯を巻いていたみたいで、ハリナがそう聞いてきた。痛くないし、普通に立てると思うんだけど。そう思って立ち上がるけど、やっぱり痛くないし、普通に立てる。違和感も全然感じない。

「し、しばらくはここで休んでいけよ。俺は訓練場に行ってるから。ベッドがいいなら、そこで寝ててもいいから」

 皇子はそう言うと、早足で出ていった。ときどき、言葉が詰まっているような気がするのは、何でなんだろう?話すのが苦手なのかな?照れているの?そもそも、話したくないの?

 分からない。相手の気持ちを読み取れない。なんで笑っているのか、怒っているのか。少し考えれば、ある程度は分かるはずなのに。

 私が、相手の感情を読み取れなくなったのは、何でなんだろう。自分のことも分からないからなのかな。自分のことも分からないのに、相手のことが分かるわけがないし。

 私が感情を取り戻したら、分かるようになる?相手の思っていることが、分かるようになる?

 でも、それは……一体いつになるんだろう。
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